病院の周術期禁煙管理 完全ガイド【2026年版・術後合併症予防/術前禁煙期間/患者説明/多職種】

📅公開日:2026-07-26
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病院の周術期における禁煙管理は、術後合併症の低減と患者予後の改善に関与する管理項目のひとつとして、多くのガイドライン・公的資料で位置づけられています。喫煙者では、術後の呼吸器合併症(無気肺・肺炎・気管支痙攣)、創傷治癒遅延・創部感染、心血管イベントなどの発生リスクが非喫煙者に比べ高いことが疫学研究で示されており、術前一定期間の禁煙介入がリスク低減策として推奨されています。周術期禁煙は、喫煙者が禁煙に踏み出す「教育可能な瞬間(Teachable Moment)」として位置づけられ、外科・麻酔科・看護部・薬剤部・歯科の多職種連携による支援体制が広がりつつあります。

本記事は病院の外科部長・麻酔科医・看護部管理者・薬剤部長・医療安全管理者を主な読者と想定し、周術期禁煙の意義、術前禁煙推奨期間、術前患者説明、禁煙外来との連携、ニコチン置換療法(NRT)等の位置づけ、入院時の禁煙環境整備、多職種連携、健康増進法に基づく受動喫煙対策について、厚生労働省・日本麻酔科学会・日本禁煙学会・日本呼吸器学会等の公開情報を整理した内容としてまとめています。個別の禁煙指導・薬物療法の適応判断・診療報酬算定要件の該当性判断は、所定の専門人材と各所管官庁にご確認ください。

この記事で分かること

  • 周術期禁煙が術後合併症予防に寄与するとされる主な機序と対象合併症
  • 術前禁煙推奨期間の考え方(学会声明の整理)
  • 術前患者説明・同意取得プロセスに組み込む禁煙指導の要素
  • 院内禁煙外来・地域禁煙外来との連携設計
  • ニコチン置換療法(NRT)・経口禁煙補助薬の位置づけ
  • 入院禁煙環境(敷地内禁煙・喫煙所廃止・受動喫煙防止)の整備
  • 医師・看護師・薬剤師・歯科の多職種連携の実際
  • 健康増進法(改正健康増進法)に基づく医療機関の受動喫煙対策義務

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1. 周術期禁煙の意義(術後合併症予防)

周術期禁煙管理の目的は、喫煙関連の術後合併症リスクを低減し、患者予後の改善と入院期間の短縮に寄与することにあります。喫煙が周術期に及ぼす影響としては、ニコチンによる末梢血管収縮と創部血流低下、一酸化炭素による酸素運搬能低下、気道刺激と分泌物増加、線毛運動の低下、免疫機能への影響などが挙げられ、これらが術後の呼吸器合併症(無気肺・肺炎・気管支痙攣・喉頭痙攣)、創傷治癒遅延・創部感染、心血管イベント、静脈血栓塞栓症などのリスク上昇に関与するとされています。日本麻酔科学会の周術期禁煙関連の指針でも、周術期禁煙の重要性と患者への説明・支援の必要性が示されています。

厚生労働省が公開する「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」等の公的資料でも、喫煙と各種疾患・術後合併症との関連についてエビデンスの整理が行われており、医療機関における禁煙支援の推進が政策的に位置づけられています。周術期は患者本人が健康行動の変容に取り組みやすい局面であるとされ、外科手術の予定を契機とした禁煙介入は、長期的な禁煙継続にも寄与する可能性が示されています。

合併症カテゴリ関連する主な合併症関与する機序(例)
呼吸器無気肺、術後肺炎、気管支痙攣、喉頭痙攣気道分泌物増加、線毛運動低下、気道過敏性亢進
創傷・感染創傷治癒遅延、創部感染、縫合不全末梢血管収縮、組織酸素化低下、免疫機能への影響
心血管周術期心筋虚血、不整脈一酸化炭素による酸素運搬能低下、交感神経刺激
その他静脈血栓塞栓症、術後悪心・嘔吐、退院後の再喫煙凝固能への影響、麻酔薬感受性の変化 他

2. 術前禁煙推奨期間

術前禁煙推奨期間は、対象合併症と機序ごとに考え方が異なります。ニコチンと一酸化炭素の血中半減期は比較的短く、禁煙開始から24〜72時間程度で血中一酸化炭素濃度は非喫煙者水準に近づくとされる一方、気道分泌物の減少・線毛機能の回復・創傷治癒能の改善には数週間単位の禁煙期間が必要とされています。日本麻酔科学会の周術期禁煙に関する指針では、術前禁煙期間として一定期間(数週間以上)の確保が望ましいとする趣旨の記載がなされており、可能な限り早期の禁煙開始が推奨されています。

一方で、緊急手術・準緊急手術など、術前に十分な禁煙期間を確保できない場合であっても、可能な範囲での禁煙介入は行う意義があると整理されており、「短期間の禁煙は有害」との過去の一部見解については、その後の複数の研究整理により支持されないとする学会見解が示されています。個別の推奨期間は、術式・患者背景・共存疾患(COPD・冠動脈疾患等)を踏まえ、麻酔科医・外科医・呼吸器内科医の判断のもとで設定されるのが一般的です。

3. 術前患者説明

術前患者説明において禁煙指導を組み込む場面は、外来での手術説明(同意取得)、術前検査時、麻酔科術前診察、入院時オリエンテーションなど複数存在します。標準的な患者説明の要素としては、①手術・麻酔の内容と合併症リスク、②喫煙が周術期リスクを上昇させ得ることの説明、③術前禁煙の推奨期間と目標、④禁煙支援手段(院内禁煙外来・地域の禁煙外来・ニコチン依存症管理料の枠組み)の情報提供、⑤入院中の敷地内禁煙ルールの説明、⑥退院後の禁煙継続支援などが挙げられます。

禁煙指導は、単なる「禁煙してください」の言葉かけにとどまらず、5A(Ask・Advise・Assess・Assist・Arrange)アプローチや動機付け面接(Motivational Interviewing)の枠組みが公的資料・専門書で紹介されています。厚生労働省の「禁煙支援マニュアル」でも、医療従事者による禁煙支援の標準的な進め方が示されており、術前説明の場面でも活用可能な枠組みが整理されています。

4. 禁煙外来との連携

禁煙外来は、2006年の診療報酬改定でニコチン依存症管理料として保険適用が導入されて以降、多くの医療機関で開設されています。ニコチン依存症管理料の算定には、施設基準(禁煙治療の経験を有する医師の配置・敷地内禁煙の確保・専任看護職員の配置・治療管理体制の整備等)を満たし、地方厚生局への届出が必要です。算定要件・回数・患者要件(ブリンクマン指数・ニコチン依存症スクリーニングテスト(TDS)等)は、厚生労働省の診療報酬点数表と関連通知に規定されています。

周術期禁煙支援における外来連携は、院内に禁煙外来が設置されている場合は院内連携で完結でき、設置されていない場合は近隣の禁煙外来設置医療機関への紹介(地域医療連携室経由)を運用する形が一般的です。日本禁煙学会の認定指導医・認定看護師の情報や、都道府県が公表する禁煙治療実施医療機関一覧などが紹介先の参考情報として利用可能です。

5. ニコチン置換療法(NRT)等の位置づけ

禁煙補助薬には、ニコチン置換療法(NRT:ニコチンパッチ・ニコチンガム)と、経口禁煙補助薬(バレニクリン等)があり、日本の保険診療下ではニコチン依存症管理料の枠組みで使用されるほか、OTC医薬品として薬局で購入可能な製剤もあります。適応・禁忌・副作用・使用期間は各製剤の添付文書と医薬品医療機器総合機構(PMDA)の公開情報に規定されており、個別の使用可否は主治医・薬剤師の判断のもとで設定されます。バレニクリン製剤については、供給状況が過去に変動した経緯があり、最新の供給状況は厚生労働省・PMDA・製造販売業者の公表情報を確認する運用となっています。

周術期における禁煙補助薬の使用は、術前・術後の使用継続の可否、麻酔薬・術後鎮痛薬との相互作用、術後の食事・経口投与再開のタイミングなど、外科医・麻酔科医・薬剤師との事前調整が必要な項目です。ニコチン置換療法の術中継続については、末梢血管収縮・創傷治癒への影響を踏まえた個別判断が行われるのが一般的で、施設ごとの運用ルールを整備しておくことが望まれます。

6. 入院禁煙環境(喫煙所・受動喫煙防止)

入院中の禁煙環境整備は、周術期禁煙管理の実効性を左右する基盤要素です。改正健康増進法(2020年4月全面施行)では、医療機関は第一種施設に区分され、原則として敷地内禁煙が義務化されています(特定屋外喫煙場所の設置基準を満たす場合に限り屋外喫煙場所の設置が可能)。多くの病院で敷地内全面禁煙が採用されており、屋外喫煙場所の廃止・撤去が進んでいます。

入院患者の禁煙違反への対応方針(口頭指導・注意書の交付・退院指導への反映等)は、入院案内・同意書に明記して事前説明を徹底する運用が広く採用されています。看護部の日常業務のなかで、喫煙関連物品(ライター・電子タバコを含む)の持ち込みへの対応、面会者への周知、病棟出入口・非常階段・トイレ等の巡視も、受動喫煙防止と火災予防の観点から重要です。近年増加している加熱式タバコ・電子タバコについても、健康増進法上の取扱い・院内ルールの明文化が求められています。

7. 多職種連携(医師/看護/薬剤師/歯科)

周術期禁煙管理は、単一職種で完結する業務ではなく、外科医・麻酔科医・看護師・薬剤師・歯科医師・歯科衛生士・呼吸療法認定士等の多職種連携で運用されるのが実効的とされています。各職種の役割としては、外科医が手術説明時に禁煙推奨と目標期間を提示、麻酔科医が術前診察で喫煙状況の評価と禁煙介入を行い、看護師が入院時オリエンテーション・術前指導・退院指導で継続的な支援を担当、薬剤師が禁煙補助薬の説明・服薬指導と併用薬の確認、歯科医師・歯科衛生士が周術期口腔機能管理の場面で禁煙支援を行う、といった役割分担が一般的です。

周術期口腔機能管理は、2012年度診療報酬改定で導入された枠組みで、手術予定患者の術前口腔評価・口腔ケアを通じ、術後肺炎・創部感染等のリスク低減に寄与するとされています。歯科診療所との地域連携(歯科医院への紹介・情報連携)と、院内の医科歯科連携(歯科口腔外科・院内歯科)を組み合わせた運用が拡大しており、禁煙支援もこの連携枠組みのなかで実施される場面が増えています。

8. 健康増進法・受動喫煙対策

改正健康増進法(2018年7月成立・2020年4月全面施行)は、望まない受動喫煙の防止を目的とし、多数の者が利用する施設等の類型ごとに喫煙のルールを定めています。医療機関は「学校・児童福祉施設・行政機関の庁舎等」とともに第一種施設に区分され、敷地内禁煙が原則で、屋外に限って「特定屋外喫煙場所」の設置が可能とされていますが、その設置には区画・標識・受動喫煙防止措置等の基準を満たす必要があります。厚生労働省の「なくそう! 望まない受動喫煙。」ポータルサイトで、法制度の詳細・事業者向け情報が公開されています。

医療機関では、加熱式タバコの取扱い、電子タバコの取扱い、標識掲示、20歳未満の立入禁止措置(喫煙区域を設けた場合)、従業員の受動喫煙対策など、複数の遵守事項が求められます。地方自治体の条例で、健康増進法よりも厳しい規制が設けられている地域(東京都受動喫煙防止条例等)もあり、所在地の自治体条例の確認も必要です。

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 術前禁煙期間はどの程度確保することが望ましいとされていますか?
A. 対象合併症と機序ごとに考え方が異なりますが、日本麻酔科学会の周術期禁煙に関する指針では、可能な限り早期の禁煙開始と、一定期間(数週間以上)の術前禁煙期間の確保が望ましいとする趣旨の記載がなされています。緊急手術等で十分な期間を確保できない場合でも、可能な範囲での禁煙介入は行う意義があるとされています。個別の推奨期間は術式・患者背景・共存疾患を踏まえ、麻酔科医・外科医の判断のもとで設定されます。
Q2. 「短期間の禁煙は術後合併症をむしろ増やす」という見解を耳にしますが、正しいのですか?
A. 過去の一部研究に基づく見解として言及されることがありますが、その後の複数の研究整理により、短期間の禁煙が合併症を増加させることを支持する強固なエビデンスは示されていないとする見解が学会等で示されています。日本麻酔科学会・日本禁煙学会の関連資料でも、可能な限り禁煙を推奨する立場が整理されています。個別判断は主治医と協議のうえで行うことが望まれます。
Q3. 院内に禁煙外来がない場合、どのような連携が可能ですか?
A. 地域医療連携室を経由し、近隣の禁煙外来設置医療機関へ紹介する運用が一般的です。都道府県が公表する禁煙治療実施医療機関一覧・日本禁煙学会の認定指導医情報等が紹介先の参考資料として利用可能です。院内では、術前診察時に禁煙推奨と紹介先情報の提供、入院中の敷地内禁煙の徹底、退院時の禁煙継続支援情報の提供、といった支援を組み合わせる形が採用されています。
Q4. 加熱式タバコ・電子タバコは健康増進法上どう扱われますか?
A. 改正健康増進法において、加熱式タバコは「指定たばこ」として規制対象に含まれ、第一種施設(医療機関を含む)では敷地内禁煙の対象となります。電子タバコの取扱いは製品の含有成分により異なる整理が示されており、医療機関の院内ルールとして、明確な取扱基準を明文化しておく運用が推奨されます。詳細は厚生労働省の「なくそう! 望まない受動喫煙。」ポータルおよび所在地の自治体条例をご確認ください。
Q5. 周術期禁煙支援に関して、看護部・薬剤部の役割はどのように整理できますか?
A. 看護部は入院時オリエンテーション・術前指導・退院指導・日常巡視での喫煙関連物品対応など、患者と接する場面での禁煙支援を継続的に担う役割があります。薬剤部は禁煙補助薬(NRT・経口禁煙補助薬)の服薬指導・併用薬の相互作用確認・術後の再開時期の調整などを担当します。多職種カンファレンス・周術期口腔機能管理の枠組み・院内クリニカルパスへの禁煙指導項目の組み込み等を通じ、支援の標準化を進める運用が広がりつつあります。

10. 関連内部リンク・次のステップ

周術期禁煙管理は、手術室運営・麻酔科診療・看護部業務・薬剤部業務・歯科口腔連携・院内感染対策と接続します。自院の状況に応じて、以下の関連記事も参考にしながら、周術期支援体制の整備と業務改善を並行して進めることが有用です。

11. 出典・参考資料

  • 厚生労働省「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」関連ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000135586.html (取得日:2026-07-26)
  • 厚生労働省「なくそう! 望まない受動喫煙。」ポータルサイト https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/ (取得日:2026-07-26)
  • 厚生労働省「健康増進法の一部を改正する法律(受動喫煙対策)」関連ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21/kenkounippon21/index.html (取得日:2026-07-26)
  • 厚生労働省「禁煙支援マニュアル(第二版)」関連ページ https://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/kin-en-sien/index.html (取得日:2026-07-26)
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「喫煙」関連情報 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco (取得日:2026-07-26)
  • 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定(ニコチン依存症管理料 関連)」関連資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html (取得日:2026-07-26)
  • 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品情報」(禁煙補助薬関連) https://www.pmda.go.jp/ (取得日:2026-07-26)
  • 公益社団法人 日本麻酔科学会「周術期禁煙」関連指針・声明 https://anesth.or.jp/ (取得日:2026-07-26)
  • 一般社団法人 日本禁煙学会 https://www.nosmoke55.jp/ (取得日:2026-07-26)
  • 一般社団法人 日本呼吸器学会 https://www.jrs.or.jp/ (取得日:2026-07-26)

【免責事項】本記事は厚生労働省・日本麻酔科学会・日本禁煙学会・日本呼吸器学会・医薬品医療機器総合機構(PMDA)等の公開情報を整理することを目的としており、個別の禁煙指導・薬物療法の適応判断・施設基準の該当性判断・診療報酬算定要件の適用可否判断を保証するものではありません。関係法令・告示・通知・学会指針・診療報酬点数表・添付文書は改正・改訂により見直されるため、個別判断は所定の専門人材(主治医・麻酔科医・薬剤師・関係学会等)と、厚生労働省・地方厚生局・PMDAにご確認ください。本記事の情報利用によって生じた損害について、mitoru編集部は責任を負いません。

最終更新日:2026年7月26日|編集方針

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