※本記事には広告(PR)が含まれます。mitoru編集部は公開情報を整理して比較・解説しており、表示順位や評価は広告主からの依頼ではなく編集部の独自判断によります。
医療機関のリスクマネジメントは、医療法および医療法施行規則に基づく医療安全管理体制の整備を土台として、インシデント・アクシデントの把握、医療事故調査制度への対応、日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」への報告、RCA(根本原因分析)による再発防止、医療訴訟保険による賠償リスクの移転、医療メディエーターを介した対話までを含む、組織横断的なマネジメント領域です。医療安全管理者・医療安全管理委員会・医療安全管理部門(GRM/QM室)の機能を軸に、院内の全部門を横串で束ねる仕組みが求められています。
本記事は病院理事長・院長・医療安全管理者・QM室責任者を主な読者と想定し、医療安全管理体制の法的枠組み、インシデント・アクシデントのレベル分類、医療事故調査制度(2015年10月施行)の運用、日本医療機能評価機構が運営する医療事故情報収集等事業、RCA(根本原因分析)・SHELモデル・4M4E分析といった代表的な分析手法、医療訴訟保険(医師賠償責任保険・病院賠償責任保険)の位置づけ、医療メディエーターの役割、安全文化の醸成に向けた組織的な取り組みを、厚生労働省・日本医療機能評価機構・医療事故調査・支援センター等の公開情報を整理した内容としてまとめています。個別の事故対応、報告義務の該当性判断、賠償対応、契約内容の妥当性判断は、担当保健所・医療事故調査・支援センター・所属団体・弁護士・保険会社等の所定の窓口にご確認ください。
この記事で分かること
- 医療法・医療法施行規則に基づく医療安全管理体制の法的枠組み
- インシデント・アクシデントの定義と、国立大学附属病院医療安全管理協議会のレベル分類(0〜5)
- 医療事故調査制度(2015年10月施行)の対象事案、院内調査、医療事故調査・支援センターへの報告フロー
- 日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」への報告対象医療機関と収集情報の活用
- RCA(根本原因分析)・SHELモデル・4M4Eなど代表的な分析手法の考え方
- 医師賠償責任保険・病院賠償責任保険(医療訴訟保険)の位置づけと選定論点
- 医療メディエーター(医療対話推進者)の役割と院内配置の考え方
- 安全文化の醸成に向けた組織的な取り組みと評価指標
1. 医療安全管理体制の法的枠組み
医療機関における医療安全管理体制は、医療法および医療法施行規則により、病院・診療所・助産所を対象とした整備義務が定められています。医療法第6条の12は、病院等の管理者に対し、医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の必要な措置を講ずる責務を規定しています。これを受けて医療法施行規則では、医療安全管理のための指針、医療安全管理委員会の設置、職員研修の実施、事故等の報告・分析の体制整備といった具体的要件が定められています(厚生労働省「医療安全対策」関連資料)。
特定機能病院および一定規模以上の病院については、医療法施行規則により、専任の医療安全管理者の配置、医療安全管理部門(GRM/Genelal Risk Managementを担う部門)の設置、患者相談窓口の設置など、追加的な整備要件が設けられているとされています。さらに、診療報酬制度上の「医療安全対策加算」の施設基準においては、医療安全管理体制の整備が求められており、加算の届出可否と医療安全管理体制の水準が結びつく設計となっています(厚生労働省「診療報酬の算定方法(告示)」関連資料)。
1-1. 医療安全管理委員会・医療安全管理者の役割
医療安全管理委員会は、院内で発生したインシデント・アクシデントの報告状況、分析結果、再発防止策の策定状況、研修計画などを審議する場として位置づけられ、多職種による横断的な検討が行われる設計とされています。医療安全管理者は、委員会の運営、報告の集約、分析、再発防止策の展開、研修の企画、患者相談窓口との連携などを担う実務責任者として位置づけられます。医療安全管理者の要件(研修受講・専任性)は、施設基準や関連通知で示されています。
1-2. 医療安全管理指針・マニュアル
医療安全管理のための指針は、医療機関の理念、医療安全管理体制の全体像、報告基準、事故発生時の対応フロー、患者・家族への説明、外部機関との連携などを整理した基本文書と位置づけられます。指針を補完する形で、部門別マニュアル(投薬・輸血・手術・検査・転倒転落・院内感染など)が整備される運用が一般的で、定期的な見直しが行われる設計です。文書体系の整備状況は、医療安全対策加算の届出や病院機能評価の受審時にも論点となります。
1-3. 医療安全管理体制のまとめ表
| 要素 | 主な機能 | 根拠となる主な文書 |
|---|---|---|
| 医療安全管理指針 | 院内の医療安全方針の明示 | 医療法施行規則・医療機能評価 |
| 医療安全管理委員会 | 報告・分析・再発防止策の審議 | 医療法施行規則 |
| 医療安全管理者 | 実務責任者としての運営・研修 | 診療報酬施設基準関連通知 |
| 医療安全管理部門(GRM/QM) | 部門横断のリスク管理・分析 | 特定機能病院関連規則 |
| 患者相談窓口 | 患者・家族からの相談受付 | 医療法施行規則 |
2. インシデント・アクシデントの定義とレベル分類
インシデントは、医療現場でのヒヤリ・ハット事例を含む広義の概念として用いられ、患者に実害が及ばなかったが発生の可能性があった事象、あるいは軽微な影響にとどまった事象を指すのが一般的です。アクシデントは、患者に実害が生じた事象を指す用語として整理されるケースが多く、両者の境界は各医療機関の運用基準および収集事業の定義により異なります。日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」では、報告対象を独自の定義で整理しているため、報告時には収集事業の定義に沿った判断が求められます。
2-1. レベル分類(0〜5)の考え方
院内報告におけるレベル分類は、国立大学附属病院医療安全管理協議会が示した分類が広く参照され、多くの医療機関で運用されています。レベル0(ヒヤリ・ハット、患者に実施されなかった)、レベル1(実害なし)、レベル2(処置・治療は不要)、レベル3a(簡単な処置・治療)、レベル3b(濃厚な処置・治療)、レベル4(永続的な障害)、レベル5(死亡)といった段階的な区分が示されています。各医療機関はこの分類を参考に、自院の運用実態に応じたレベル定義を採用する運用が見られます。
2-2. 報告システム(インシデントレポート)の設計
インシデントレポート(アクシデントレポート)システムは、発見者・関係職員が匿名性を保った形で報告できる仕組みが望ましいとされ、多くの医療機関で電子化された報告システムが導入されています。報告文化を醸成するうえで、報告者を処罰の対象とせず、報告数を評価するのではなく質の高い分析・改善につなげる姿勢が重要とされます。これは「非懲罰的(non-punitive)報告文化」の考え方として、国際的な医療安全の議論でも共有されている論点です。
2-3. レベル分類のまとめ表
| レベル | 患者への影響 | 対応の概要 |
|---|---|---|
| 0 | 実施前に発見(ヒヤリ・ハット) | 要因分析・手順見直し |
| 1 | 実害なし | 経過観察・記録 |
| 2 | 処置・治療は不要(バイタル変化) | 観察強化・要因分析 |
| 3a | 簡単な処置・治療(消毒等) | 要因分析・部門対応 |
| 3b | 濃厚な処置・治療(手術・入院延長) | 院内調査・再発防止策 |
| 4 | 永続的な障害 | 調査制度対応検討・家族対応 |
| 5 | 死亡 | 調査制度対応・警察届出判断・家族対応 |
3. 医療事故調査制度(2015年10月施行)
医療事故調査制度は、改正医療法に基づき2015年(平成27年)10月1日に施行された制度で、医療機関において「予期しなかった死亡または死産」であって、「医療に起因すると管理者が判断したもの」を対象に、院内調査の実施と医療事故調査・支援センターへの報告を求める枠組みです。制度の目的は、個人の責任追及ではなく、医療事故の原因究明と再発防止に置かれています(厚生労働省「医療事故調査制度」関連資料、医療事故調査・支援センター)。
3-1. 対象事案の判断
制度の対象は、医療機関に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、当該死亡または死産を医療機関の管理者が予期しなかったものと定義されています。対象事案の判断は、管理者が院内の医療従事者や関係者の意見を踏まえて行う設計で、医療事故調査・支援センターや支援団体の相談窓口を活用することも可能とされています。予期の有無は、診療前・診療中の説明内容、診療録の記載、一般的な臨床経過などを踏まえて総合的に判断されるとされています。
3-2. 院内調査の実施
対象事案と判断された場合、医療機関の管理者は速やかに医療事故調査・支援センターへ報告し、院内調査を実施する必要があるとされています。院内調査では、事案の事実確認、原因分析、再発防止策の検討を行い、結果を遺族に説明したうえで、支援センターへ調査結果を報告する流れが定められています。院内調査は必要に応じて外部の医療専門家や支援団体の協力を得て実施され、公正性・専門性の確保が求められる設計です。
3-3. センター調査
院内調査の結果に対して、医療機関の管理者または遺族から依頼があった場合、医療事故調査・支援センターがセンター調査を実施する仕組みが用意されています。センター調査は、院内調査の結果を確認・補完する位置づけで、遺族と医療機関の双方から依頼が可能とされています。センター調査の結果は、報告書として関係者に提供され、集積された情報は再発防止に向けた分析・啓発活動に活用される設計です。
3-4. 医療事故調査制度のフロー
| ステップ | 主な対応 | 主体 |
|---|---|---|
| 1. 対象事案の判断 | 予期しなかった死亡・死産の該当性 | 医療機関の管理者 |
| 2. センターへの報告 | 医療事故調査・支援センターへ報告 | 医療機関の管理者 |
| 3. 院内調査 | 事実確認・原因分析・再発防止策 | 院内調査委員会(支援団体の協力可) |
| 4. 遺族への説明 | 調査結果の説明 | 医療機関 |
| 5. 調査結果の報告 | 支援センターへ調査結果を報告 | 医療機関の管理者 |
| 6. センター調査(依頼時) | 院内調査結果の確認・補完 | 医療事故調査・支援センター |
4. 医療事故情報収集等事業(日本医療機能評価機構)
医療事故情報収集等事業は、公益財団法人日本医療機能評価機構(JCQHC)が運営する事業で、医療機関から報告された医療事故情報・ヒヤリ・ハット事例情報を収集・分析し、その結果を医療安全対策に活用するために公表する仕組みです。厚生労働省告示に基づき、特定機能病院・国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)などが報告義務対象医療機関として位置づけられ、その他の医療機関は参加登録により任意で報告に参加できる設計とされています(公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」)。
4-1. 報告対象医療機関
報告義務対象医療機関は、厚生労働大臣が定める報告義務対象医療機関として告示されており、特定機能病院、国立高度専門医療研究センター、独立行政法人国立病院機構の病院、独立行政法人労働者健康安全機構の病院などが対象とされています。任意参加としては、自院での医療安全対策の充実、他院事例からの学びを目的として、多くの医療機関が参加登録している運用となっています。参加医療機関は、所定の報告様式・分類コードに沿ってウェブシステム経由で報告する仕組みです。
4-2. 収集情報の活用(年報・医療安全情報)
収集された情報は、機構により定期的に年報・四半期報告として集計・分析され、公表されています。また、共通するテーマ・重要な事例については「医療安全情報」として定期的に発信される運用で、現場でのポスター掲示・研修教材としての活用が想定されています。集積された情報を活用した業種横断の再発防止策の展開は、医療事故調査制度の目的とも共通する枠組みで、両制度は補完的に医療安全の底上げを図る位置づけです。
4-3. 産科医療補償制度との関係
日本医療機能評価機構は、産科医療補償制度も運営しており、分娩に関連して発症した重度脳性まひの児と家族の経済的負担の補償、原因分析、再発防止に関する報告書の作成といった機能を担っています。産科医療補償制度は、医療事故調査制度・医療事故情報収集等事業とは別枠組みですが、医療安全の底上げという目的では共通する事業として位置づけられています(公益財団法人日本医療機能評価機構「産科医療補償制度」)。
5. RCA(根本原因分析)・SHELモデル・4M4E
医療事故・インシデントの分析には、単一の原因に帰責するのではなく、システム全体の要因を構造的に整理する手法が用いられます。代表的な手法として、RCA(Root Cause Analysis、根本原因分析)、SHELモデル、4M4E分析、ImSAFER、なぜなぜ分析などが知られており、事案の性質・分析目的に応じて使い分けられる運用が見られます。厚生労働省・JCQHC・関係学会の資料でも、これらの手法を活用した分析事例が紹介されています。
5-1. RCA(根本原因分析)
RCAは、米国退役軍人省(VA)が医療分野で体系化した分析手法をベースに、事案発生の直接的な要因だけでなく、背景にあるシステム的な要因(教育、コミュニケーション、環境、設備、方針、監督など)を段階的に掘り下げていく手法として広まりました。「なぜ」を繰り返して要因の連鎖を明らかにし、単一の個人の責任ではなく、システムとしての改善点を抽出することを目的とする分析手法です。院内での実施では、多職種チームで時系列整理(フローダイヤグラム)、要因整理、対策立案を行う流れが一般的とされています。
5-2. SHELモデル
SHELモデルは、航空分野で開発されたヒューマンファクター分析モデルを医療に応用したもので、事案の中心(L:当事者)を取り巻く4つの要素として、S(Software:手順・マニュアル)、H(Hardware:機器・設備)、E(Environment:環境)、L(Liveware:他者)を配置し、それぞれとのインターフェースにおける不整合を分析する枠組みです。当事者個人の資質ではなく、環境・機器・手順・チームとの関係性から要因を捉える設計で、システム視点での要因整理に活用されます。
5-3. 4M4E分析
4M4E分析は、4M(Man:人、Machine:機械、Media:環境・情報、Management:管理)の観点で要因を整理し、4E(Education:教育・訓練、Engineering:技術・設備、Enforcement:徹底・強化、Example:模範・事例)の観点で対策を検討するマトリクス型の分析手法です。要因と対策を体系的に対応させる枠組みで、医療現場では投薬エラー、転倒転落、機器トラブルなどの分析にしばしば用いられます。RCAと組み合わせて、要因の網羅性と対策の実行可能性を高める運用が見られます。
5-4. 分析手法の比較まとめ
| 手法 | 特徴 | 主な適用場面 |
|---|---|---|
| RCA | 要因の連鎖を段階的に掘り下げる | 重大事案・システム改善 |
| SHELモデル | 人と環境・機器・手順・他者の関係を整理 | ヒューマンファクター分析 |
| 4M4E分析 | 4M要因と4E対策のマトリクス | 投薬・転倒・機器関連事例 |
| ImSAFER | 要因抽出・背景要因分析・対策立案 | 院内報告事例の分析 |
| なぜなぜ分析 | 「なぜ」を繰り返して要因を掘り下げ | 簡易な要因整理 |
6. 医療訴訟保険(医師賠償責任保険・病院賠償責任保険)
医療訴訟に伴う賠償リスクの移転手段として、医師個人を被保険者とする医師賠償責任保険と、医療法人・病院を被保険者とする病院賠償責任保険が用いられます。前者は日本医師会が団体保険として運営するB会員向けの医師賠償責任保険をはじめ、各種団体・民間保険会社が引受を行う商品が知られています。後者は、病院・診療所を対象とする賠償責任保険で、施設所有者・管理者としての賠償責任を対象とする商品が民間保険会社より提供されています。
6-1. 補償範囲と免責事項
医療訴訟保険の補償範囲は、契約により対人賠償(患者への損害賠償)を主とし、争訟費用(弁護士費用等)が付帯される設計が一般的です。一方、故意による事案、犯罪行為、契約前の事案などは免責事項として設定されるケースが見られます。契約金額・支払限度額・免責金額・保険期間などの条件は商品ごとに異なるため、自院の規模・診療科・過去事案の状況を踏まえた設計判断が求められます。
6-2. 選定時の論点
保険選定にあたっては、支払限度額(1事案あたり・保険期間中の総額)、対象範囲(勤務医・非常勤・研修医・実習生を含むか)、争訟費用の取り扱い、事故解決の支援サービス(顧問弁護士・示談交渉窓口)、事故報告義務、更新時の条件変更などが論点となります。医療メディエーターとの連携、支援センター・保健所への報告と保険会社への通知タイミングの整理も、契約時に確認しておく実務論点です。
7. 医療メディエーター(医療対話推進者)
医療メディエーター(医療対話推進者)は、医療事故や苦情等が発生した際に、医療従事者と患者・家族の対話を支援し、双方の関係修復と相互理解を促す役割を担う人材として位置づけられます。日本医療メディエーター協会などの民間団体が実施する研修プログラムを受講した院内職員が担うケースが一般的で、看護師・医療ソーシャルワーカー・事務職員など多様なバックグラウンドから配置される運用が見られます。
7-1. メディエーターの役割
メディエーターは、当事者間の交渉代理人ではなく、対話の場を設営し、双方が言いたいことを言える環境を整え、感情と事実の整理を助ける立場とされています。医療機関側の説明を代弁するのではなく、患者・家族の疑問や思いを引き出し、医療機関側にも冷静な説明の機会を用意する中立的な進行役という位置づけが基本です。院内相談窓口・患者相談員と連携する運用も見られます。
7-2. 院内配置と外部連携
院内配置にあたっては、医療安全管理部門・患者相談窓口との位置づけを整理し、対話の記録の取り扱い、対話結果の医療安全管理委員会・院内調査への反映方法、保険会社・弁護士との連携タイミングをあらかじめ規定しておくことが望まれます。院外連携としては、医療事故調査・支援センター、都道府県医療安全支援センター、保健所、弁護士会の医療紛争ADRなどが、対話支援・調停の受け皿として活用される場面もあります。
8. 安全文化の醸成
医療安全は、報告書式や委員会体制といった形式的な整備だけでは達成されず、組織全体としての「安全文化」の醸成が中核的な論点となります。安全文化は、報告文化(非懲罰的な報告)、公正な文化(正当な線引き)、学習する文化(改善を継続する)、柔軟な文化(危機時の役割変更)という4つの要素の総合として整理されることが多く、これらを組織レベルで根付かせる取り組みが求められます。
8-1. 職員研修と教育
医療法施行規則では、医療安全管理のための職員研修の実施が求められており、年数回程度の全職員対象研修、部門別・職種別のテーマ別研修が組み合わされる運用が一般的です。実際に発生した院内事例、医療安全情報(JCQHC発行)、医療事故調査・支援センターが公表する再発防止策提言といった素材を活用した研修設計が広く行われています。新入職員研修、リーダー層向け研修、多職種合同研修など、階層別に組み立てる設計も見られます。
8-2. 医療安全ラウンド・現場観察
院内の医療安全管理部門による定期的な現場ラウンド、多職種による安全カンファレンス、リーダーシップ・ウォークラウンドといった現場観察の取り組みは、報告システムでは拾いきれない現場のリスクを可視化する手段として位置づけられます。理事長・院長といったトップマネジメントが定期的に現場を訪問し、職員との対話を通じて安全に関する意見を引き出す取り組みは、経営層の関与としても意義を持つとされます。
8-3. 評価指標
安全文化の評価指標としては、報告件数の推移(特にレベル0〜1の報告割合)、部門別報告のバラつき、報告から改善策実施までの所要期間、職員向け安全文化アンケートの結果、医療安全に関する研修受講率、再発防止策の実施率などが用いられます。単一の指標で評価するのではなく、複数指標を組み合わせて経時変化を追うことが基本となります。病院機能評価の受審や医療安全対策加算の届出時にも、これらの指標の整備状況が論点となります。
| 指標分類 | 指標例 | 活用場面 |
|---|---|---|
| 報告状況 | 報告件数・レベル分布・部門別分布 | 報告文化の状況把握 |
| 分析・対策 | 分析完了率・再発防止策実施率 | 改善サイクルの評価 |
| 教育・研修 | 研修受講率・理解度テスト結果 | 知識・スキル定着の評価 |
| 文化アンケート | 職員意識調査(部門別) | 組織風土の評価 |
| プロセス | 手指衛生実施率・タイムアウト実施率 | 基本手技の遵守状況 |
9. よくある質問(FAQ)
- Q1. 医療事故調査制度の対象事案の判断は誰が行いますか?
- A. 対象事案(予期しなかった死亡または死産で、医療に起因すると疑われるもの)の判断は、医療機関の管理者が行う設計です。管理者は院内の医療従事者や関係者の意見を踏まえて判断するとされ、医療事故調査・支援センターや支援団体の相談窓口を活用して判断を補完することもできます。個別事案の該当性は、事案発生時に速やかに支援センター・支援団体等に相談することが実務的な進め方とされています。
- Q2. 医療事故情報収集等事業の報告義務対象は?
- A. 報告義務対象医療機関は厚生労働大臣が告示で定めており、特定機能病院、国立高度専門医療研究センター、独立行政法人国立病院機構の病院、独立行政法人労働者健康安全機構の病院などが含まれるとされています。それ以外の医療機関は任意参加として、参加登録により報告に参加できる仕組みです。詳細は日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」および厚生労働省の関連告示をご確認ください。
- Q3. RCAと4M4Eはどう使い分ければよいですか?
- A. RCA(根本原因分析)は、要因の連鎖を段階的に掘り下げるアプローチで、重大事案や複合要因が想定される事案の分析に用いられることが多い手法です。4M4E分析は、要因を4M(人・機械・環境・管理)、対策を4E(教育・技術・徹底・模範)のマトリクスで整理する手法で、投薬・転倒・機器関連の事案分析に活用されるケースが見られます。両者を組み合わせて、要因の連鎖と対策の網羅性の双方を確保する運用も一般的です。
- Q4. 医療メディエーターは資格が必要ですか?
- A. 医療メディエーターに関する国家資格は現時点で制度化されておらず、民間団体(日本医療メディエーター協会等)が実施する研修プログラムを受講した職員が院内で役割を担う運用が一般的です。研修は基礎編・実践編などに分かれる場合が多く、対話支援スキルの習得と院内でのロールプレイを組み合わせた設計が採用されています。院内配置の要否と体制は、各医療機関の規模と医療安全管理体制に応じた判断となります。
- Q5. 安全文化の醸成状況はどう評価すればよいですか?
- A. 単一の指標で評価するのではなく、報告件数・レベル分布・分析完了率・再発防止策実施率・研修受講率・職員アンケート結果などを組み合わせて、経時変化を追う設計が基本です。特に、レベル0〜1(実害なしの事案)の報告割合、部門別のバラつき、報告から対策実施までの所要期間は、報告文化と改善サイクルの状況を示す指標として重視されます。病院機能評価の受審時にも、これらの評価指標の整備状況が論点となります。
- 📌 あなたが次にやるべき1つの行動
- 関連サービスの公式サイトで、対応規模・料金プラン・申込方法をご確認ください。所要時間や手続きは各サービスの公式情報を参照してください。
10. 関連内部リンク・次のステップ
医療機関のリスクマネジメントと関連するテーマとして、病院機能評価の受審、医療安全対策加算の届出、院内感染対策、医療安全に関わる職員教育の設計があります。自院の医療安全管理体制の見直しにあたっては、以下の関連記事も参考に、体系的な整備を進めることが有用です。
- 病院機能評価(JCQHC)受審完全ガイド — 3rdG:Ver.3.0の評価範囲と受審準備
- DPC/PDPS病院の経営管理ガイド — DPC対象病院の係数構造とデータ分析
- 病床機能転換の検討プロセス — 機能区分の見直しと地域医療構想
- 認知症ケアチームの院内体制 — 多職種連携と院内教育の整備
11. 出典・参考資料
- 厚生労働省「医療安全対策」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouanzen/index.html (取得日:2026-07-03)
- 厚生労働省「医療事故調査制度」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061201.html (取得日:2026-07-03)
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法(告示)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352.html (取得日:2026-07-03)
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html (取得日:2026-07-03)
- 厚生労働省「医療法・医療法施行規則」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/index.html (取得日:2026-07-03)
- 厚生労働省「医療安全支援センター」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouanzen/i-anzen/index.html (取得日:2026-07-03)
- 公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」 https://www.med-safe.jp/ (取得日:2026-07-03)
- 公益財団法人日本医療機能評価機構「産科医療補償制度」 http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/ (取得日:2026-07-03)
- 医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構) https://www.medsafe.or.jp/ (取得日:2026-07-03)
【免責事項】本記事は厚生労働省告示・通知、公益財団法人日本医療機能評価機構、医療事故調査・支援センター等の公開情報を整理することを目的としており、個別事案の医療事故調査制度への該当性判断、報告義務の有無、賠償対応、保険契約内容の妥当性を保証するものではありません。個別判断は医療事故調査・支援センター、都道府県医療安全支援センター、担当保健所、所属団体、弁護士、保険会社等の所定の窓口にご確認ください。本記事の情報利用によって生じた損害について、mitoru編集部は責任を負いません。
最終更新日:2026年7月3日|編集方針
関連記事(mitoru編集部おすすめ)
mitoru編集部の見解
医療法人の会計・税務は、定期同額給与の3ヶ月ルール、事前確定届出給与の届出期限、分掌変更否認のリスクなど、一般法人と異なる運用が必要です。クラウド会計の導入だけでなく、税理士との連携体制を併せて整えることをmitoru編集部は推奨します。