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M&Mカンファレンス(Morbidity and Mortality Conference、罹病率・死亡率検討会)は、院内で発生した合併症・予期しない転帰・死亡症例などを、多職種で振り返り、診療プロセスやシステム上の課題を学習資源として共有する院内検討会です。責任追及の場ではなく、システムとしての改善点を抽出し、次回以降の類似事例で同じ経路をたどらないための組織学習の場として位置づける運用が国内外で広がってきました。医療安全管理体制、根本原因分析(RCA)、医療事故調査制度、日本医療機能評価機構(JCQHC)の医療事故情報収集等事業などの制度的枠組みとも密接に関わる取り組みです。
本記事は病院理事長・院長・医療安全管理者・QM(品質管理)室責任者を主な読者と想定し、M&Mカンファレンスの制度的背景、医療安全管理体制との関係、事例選定と発表フォーマット、RCAとの組み合わせ、責任追及ではなくシステム学習に徹する運用、法的保護・守秘義務、電子症例管理、多職種参加を、厚生労働省・公益財団法人日本医療機能評価機構(JCQHC)・一般社団法人日本医療安全調査機構などの公開情報を整理した内容としてまとめています。具体的な症例判断、事故該当性の判断、院内規程の整備は、所定の専門人材・所轄部署にご確認ください。医療行為の助言・診断・治療方針の推奨は本記事では行いません。
この記事で分かること
- M&Mカンファレンス(罹病率・死亡率検討会)の制度的背景と、医療安全管理体制における位置づけ
- 医療事故調査制度・医療事故情報収集等事業との役割分担
- 事例選定基準と、発表フォーマット(症例提示・タイムライン・論点整理・学習事項)の考え方
- RCA(根本原因分析)との組み合わせと、カンファレンス内でのシステム分析の進め方
- 責任追及ではなくシステム学習に徹するための運営ルール(Just Cultureの考え方)
- 院内会議記録の法的取り扱い・守秘義務・個人情報保護の論点
- 電子症例管理・電子カルテを活用した症例収集・記録の整理
- 多職種参加(医師・看護・薬剤・臨床工学・診療放射線・事務など)の設計
- FAQ・関連リンク
1. M&Mカンファレンスの制度的背景
M&Mカンファレンス(Morbidity and Mortality Conference)は、20世紀初頭から欧米の医学教育の中で発展してきた院内検討会の形式で、合併症や予期しない転帰・死亡症例を多職種で振り返り、診療の質を継続的に高めていくことを目的とする取り組みです。国内でも大学病院・臨床研修病院を中心に運用されてきた歴史があり、現在は臨床研修制度・専門医研修制度の中でも症例検討会・カンファレンスの位置づけとして扱われるほか、医療安全管理体制の一環として運営する病院が増えています。
日本では2015年10月に医療事故調査制度が施行され、予期しなかった死亡・死産事例について、医療機関が院内調査を行い、一般社団法人日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)に報告する仕組みが整いました。M&Mカンファレンスそのものは、医療事故調査制度における院内調査とは異なる位置づけですが、日常的な学習の場としてカンファレンスを継続的に運営していることが、院内調査を担う体制の下地となる関係にあります(厚生労働省「医療事故調査制度について」関連資料、一般社団法人日本医療安全調査機構「医療事故調査制度」関連資料)。
また、公益財団法人日本医療機能評価機構(JCQHC)が運営する医療事故情報収集等事業では、参加登録医療機関から医療事故・ヒヤリ・ハット情報を収集・分析し、事例分析結果を「医療安全情報」として公表する仕組みが運用されています。院内のM&Mカンファレンスで扱う事例や論点は、こうした外部の集約情報とも整合をとりつつ、自院固有の課題を掘り下げる役割を担います(公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」関連資料)。
1-1. カンファレンスの位置づけ
M&Mカンファレンスは、①臨床医学教育(研修医・専攻医の症例検討)、②医療安全(インシデント・アクシデントの振り返り)、③診療の質改善(診療プロセスの標準化・見直し)という3つの機能を併せ持つ検討会として運用される場合が多く、病院の理念や体制に応じてどの機能を主軸に据えるかは病院ごとに異なります。医療安全管理体制の観点からは、②③の機能を明確に位置づけ、院内医療安全委員会・医療安全管理室・QM室と連携させる運用設計が重視されます。
1-2. 制度的背景のまとめ表
| 制度・事業 | 運営主体 | M&Mカンファレンスとの関係 |
|---|---|---|
| 医療事故調査制度 | 厚生労働省/医療事故調査・支援センター | 予期しなかった死亡・死産の院内調査・報告 |
| 医療事故情報収集等事業 | 公益財団法人日本医療機能評価機構(JCQHC) | 事故・ヒヤリハット情報の集約と分析結果の公表 |
| 病院機能評価 | 公益財団法人日本医療機能評価機構(JCQHC) | 医療安全・質改善の院内体制の第三者評価 |
| 診療報酬 医療安全対策加算 | 厚生労働省 | 医療安全体制・研修・カンファレンス運営が要件 |
2. 医療安全管理体制との関係
M&Mカンファレンスを継続的に運営するためには、院内の医療安全管理体制の中に明確に位置づけることが前提となります。医療法および関連する省令・通知で示される医療安全管理者の配置、医療安全管理委員会の設置、医療安全管理指針・マニュアルの整備、職員研修の実施といった仕組みと連動させる設計が現実的です(厚生労働省「医療安全対策」関連資料)。
2-1. 医療安全管理委員会との連携
院内の医療安全管理委員会は、事故・インシデント報告の収集、分析、再発防止策の検討、周知徹底の統括を担う組織として設置されるのが一般的です。M&Mカンファレンスで抽出された論点・改善提案は、医療安全管理委員会に上程され、院内全体への周知や規程・マニュアル改訂の検討につなげられる運用が現実的です。委員会は月次で開催され、M&Mカンファレンスの成果も定例議題の一部として位置づけられる病院が多く見られます。
2-2. 医療安全対策加算との関係
診療報酬における医療安全対策加算は、専任・専従の医療安全管理者の配置、医療安全管理委員会の設置、医療安全に関する研修の定期実施などの体制を要件とする加算とされています。M&Mカンファレンスは、医療安全に関する研修の実質と、日常的な事例検討の場を兼ねる運用が可能で、施設基準の届出に必要な体制整備と連動させて設計する病院が多くあります。具体的な要件は改定ごとに見直されるため、厚生労働省の告示・通知および地方厚生(支)局の資料をご確認ください(厚生労働省「診療報酬の算定方法(告示)」関連資料)。
2-3. 感染対策・医薬品安全との関係
M&Mカンファレンスで取り扱う事例には、感染対策上の論点、医薬品の使用上の論点、医療機器の使用上の論点が含まれる場合があります。これらは、院内感染対策委員会、医薬品安全管理責任者、医療機器安全管理責任者などの体制と連携させて分析することで、部門横断的な改善につなげやすくなります。院内の各種委員会・専門部会との情報連携ルートをあらかじめ設計しておくことが、M&Mカンファレンスを実質的に運営するうえでの前提条件となります。
2-4. 医療安全管理体制のまとめ表
| 院内組織 | 主な役割 | M&Mとの接点 |
|---|---|---|
| 医療安全管理委員会 | 事故・インシデントの統括・改善提案の審議 | M&M抽出論点の上程・審議 |
| 医療安全管理室・QM室 | 日常的な事例収集・分析・研修運営 | M&M運営事務局 |
| 院内感染対策委員会 | 感染事例の分析・対策検討 | 感染関連事例の連携 |
| 医薬品安全管理責任者 | 医薬品の安全使用の統括 | 薬剤関連事例の連携 |
| 医療機器安全管理責任者 | 医療機器の安全使用の統括 | 機器関連事例の連携 |
3. 事例選定と発表フォーマット
M&Mカンファレンスを実質的な学習の場にするためには、扱う事例の選定基準と発表フォーマットをあらかじめ明確に定めておくことが有用です。院内の全事例を扱うのは現実的ではないため、学習効果の高い事例を選び、共通のフォーマットで整理することで、参加者が論点を追いやすくなり、抽出される改善提案の質も高まります。
3-1. 事例選定の考え方
事例選定基準は病院ごとに設計しますが、代表的な観点として、①予期しなかった死亡・重篤な合併症の症例、②診療プロセスに複数の関係者が関わり調整上の論点があった症例、③既存のマニュアル・プロトコルの改訂に示唆を与える症例、④他部門横断の連携が課題となった症例、⑤同種事例が複数回発生している症例、などが挙げられます。事例選定はQM室・医療安全管理室が主導し、診療科の推薦・現場からの申告を受け付ける仕組みを併用する運用が現実的です。
3-2. 発表フォーマットの構成要素
発表フォーマットは、①症例の概要(患者背景・主訴・診断・経過の匿名化サマリー)、②診療のタイムライン(時系列で「何が起きたか」を客観的に整理)、③論点整理(どの局面で判断が難しかったか、どのシステム的要因が関与したか)、④学習事項(次回類似事例で活用できる改善案・システム変更提案)、⑤参考文献・関連ガイドライン、という構成が広く見られます。個人特定情報は事前に除去し、匿名化した症例情報として提示する運用が前提です。
3-3. 事前準備の流れ
事例選定後、担当診療科・多職種メンバーが発表資料の作成にあたります。QM室・医療安全管理室が助言し、匿名化の徹底、時系列の客観的記述、システム視点での論点整理を支援する運用が現実的です。発表資料は事前に医療安全管理者・QM室責任者の確認を経て、当日の議論に耐える形に整えます。開催回数は月1回程度が一般的で、開催間隔・時間帯・所要時間は病院の運営体制に応じて設計します。
3-4. 発表フォーマットのまとめ表
| 構成要素 | 主な内容 | 作成上のポイント |
|---|---|---|
| 症例概要 | 患者背景・主訴・診断・経過 | 匿名化の徹底 |
| タイムライン | 時系列で客観的に記述 | 「誰が悪い」ではなく「何が起きたか」 |
| 論点整理 | 判断が難しかった局面・システム要因 | 個人責任と切り分けた整理 |
| 学習事項 | 改善案・システム変更提案 | 実装可能な粒度で提示 |
| 参考文献 | ガイドライン・先行研究 | 出典明記 |

4. RCA(根本原因分析)との組み合わせ
RCA(Root Cause Analysis、根本原因分析)は、事故やインシデントの背景にあるシステム上の要因を体系的に掘り下げる手法として、医療安全の分野で広く活用されてきた枠組みです。M&Mカンファレンスの中でRCAの考え方を組み合わせることで、単発の症例検討にとどまらず、システム全体の課題を抽出する場としての機能を高められます。
4-1. RCAの基本的な考え方
RCAは、事象の直接原因(proximate cause)に加え、その背景にある寄与要因、システム要因、組織要因までを段階的に掘り下げる分析手法です。特定の個人の判断や行動に原因を還元するのではなく、「なぜその判断・行動が発生し得たのか」というシステム的な視点で問いを重ねる点に特徴があります。医療分野では、機器の設計、業務プロセス、コミュニケーション、教育・訓練、業務負荷、規程・マニュアルの整備状況などが分析対象となります(公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」関連資料)。
4-2. M&MとRCAの役割分担
M&MカンファレンスとフォーマルなRCAは、扱う対象と粒度が異なる場合があります。フォーマルなRCAは、医療事故調査制度における院内調査や、院内医療安全管理委員会の指示による深掘り分析として実施されることが多く、専門チームによる時間をかけた分析となります。M&Mカンファレンスは、より日常的な症例検討の場で、RCAの考え方を援用しながら、多職種で論点を共有する場として位置づけることで、両者を補完的に運用できます。
4-3. RCA的視点をM&Mで活かす
M&Mカンファレンスの発表フォーマットに、「システム要因の候補」「業務プロセス上の論点」「コミュニケーションの論点」といった項目を組み込むことで、RCA的な視点を日常のカンファレンスに取り入れることができます。特定の個人の判断に議論が集中しないよう、司会・進行を担う医療安全管理者が、「なぜその判断・行動が発生し得たのか」という問いに議論を引き戻す運営が有用です。抽出された論点のうち、深掘りが必要なテーマは、後日のフォーマルなRCAの対象として切り出す設計が現実的です。
4-4. M&MとRCAの比較まとめ表
| 観点 | M&Mカンファレンス | フォーマルなRCA |
|---|---|---|
| 目的 | 多職種での学習・気づき共有 | 特定事象の要因の体系的分析 |
| 頻度 | 月1回程度の定例運用 | 個別事案ごとに随時実施 |
| 参加者 | 診療科・多職種・研修医など幅広く | 専門チーム中心 |
| 成果物 | 学習事項・改善案の共有 | 要因分析報告書・再発防止策 |
| 関連制度 | 医療安全体制・研修 | 医療事故調査制度の院内調査等 |
5. 責任追及ではなくシステム学習に徹する運用
M&Mカンファレンスが実質的な学習の場として機能するためには、「誰が悪かったか」ではなく「何が起きたか・なぜ起きたか」に議論を集中させる運営ルールが欠かせません。責任追及の場として運用された場合、現場からの事例申告が減少し、結果として組織学習の機会が失われる可能性があります。国際的な医療安全の議論の中で「Just Culture(公正な文化)」という考え方が提唱されてきた背景も、この点にあります。
5-1. Just Cultureの考え方
Just Cultureは、「意図しないエラーは学習の対象として扱い、意図的な違反行為や重大な過失には別の枠組みで対応する」という区分を明確にする考え方です。日常的な業務の中で発生する意図しないエラーは、システム改善の機会として位置づけ、個人への処分と切り離す運用を前提とします。これにより、現場から事例が申告されやすい環境が保たれ、組織全体としての学習と改善が継続的に進む設計となります。
5-2. 運営ルールの明文化
M&Mカンファレンスの運営規程には、①議論の目的(学習・システム改善)、②扱わない事項(個人の処分・人事評価との切り離し)、③守秘義務、④匿名化ルール、⑤発言の外部持ち出し禁止、⑥議事の位置づけと保存方法、といった運営ルールを明文化することが現実的です。参加者全員が同じ前提でカンファレンスに臨むことで、心理的安全性が担保され、率直な議論が可能となります。
5-3. 司会・進行の役割
司会・進行を担う医療安全管理者や責任者は、議論が個人責任の追及に流れそうな場面で、「システム要因は何か」「業務プロセスのどこに改善余地があるか」という問いに議論を戻す役割を担います。発表者・関係者を守りながら、学習の場としての機能を維持するためには、司会者のファシリテーションスキルと運営経験が重要となります。院内で複数名の司会経験者を育てておくことも、継続的な運用のための備えとして有用です。
5-4. Just Cultureのまとめ表
| 対象 | 取り扱いの原則 | M&Mでの位置づけ |
|---|---|---|
| 意図しないエラー | システム改善の学習対象 | M&Mで積極的に議論 |
| at-risk behavior(リスクを伴う慣習化された行動) | コーチング・教育で是正 | 組織的改善提案の対象 |
| 意図的違反・重大過失 | 別の枠組み(懲戒・人事)で対応 | M&Mの議論対象外 |

6. 法的保護・守秘義務・個人情報保護
M&Mカンファレンスで扱う症例情報には、患者の個人情報・診療情報が含まれるため、個人情報保護法および医療関係者の守秘義務に照らした運用が前提となります。また、院内会議の議事録・記録の取り扱いは、医療事故調査制度・訴訟対応・情報公開請求などの観点でも整理が必要となる論点です。
6-1. 個人情報保護法との関係
患者の診療情報は個人情報保護法における要配慮個人情報に該当し、取扱いには適切な安全管理措置が求められます。M&Mカンファレンスで扱う症例情報は、事前に匿名化を徹底し、必要最小限の情報のみを提示する運用が前提です。院内医療従事者間での症例検討は、医療の質の向上を目的とする通常の院内利用の範囲内ですが、資料の院外持ち出し、外部保存、SNS等での共有は禁止する運営ルールが必要です(個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」関連資料)。
6-2. 守秘義務と職員教育
医療従事者の守秘義務は、医師法・保健師助産師看護師法等の関連法令、および院内規程で規定されます。M&Mカンファレンスに参加する研修医・実習生・外部見学者などについても、守秘義務誓約書の取得、参加時の説明、資料の取扱いルールの周知を徹底する運用が現実的です。参加者名簿・議事概要は院内で厳重に管理し、外部への提示は院内の承認プロセスを経る設計とします。
6-3. 医療事故調査制度との関係
医療事故調査制度における院内調査は、予期しなかった死亡・死産を対象とし、医療機関の管理者が調査を行い、報告書を医療事故調査・支援センターに提出する枠組みです。日常のM&Mカンファレンスと院内調査は目的・手続きが異なる別の仕組みであり、事故該当性の判断・院内調査の要否・調査結果の取扱いは、制度に沿った別のプロセスで行う必要があります。M&Mカンファレンスの記録が院内調査の資料としてどのように扱われるかは、院内の医療安全管理指針・規程に基づいて整理しておくことが望まれます(一般社団法人日本医療安全調査機構「医療事故調査制度」関連資料、厚生労働省「医療事故調査制度について」関連資料)。
6-4. 記録の保存・廃棄
M&Mカンファレンスの資料・議事録の保存期間、保存媒体、アクセス権限、廃棄方法は、院内規程で定めることが現実的です。電子カルテとは別の管理領域に保存する運用や、閲覧権限を医療安全管理室・QM室・関係診療科の責任者に限定する運用が広く見られます。保存期間は医療関連文書の一般的な保存基準を参考に、院内の法務・情報システム部門と調整して決定する運用が必要です。
6-5. 法的保護と守秘義務のまとめ表
| 論点 | 基本の考え方 | 院内での運用ポイント |
|---|---|---|
| 個人情報保護 | 要配慮個人情報として厳重に扱う | 匿名化・院外持ち出し禁止 |
| 守秘義務 | 参加者全員に義務が及ぶ | 誓約書・研修・ルール周知 |
| 医療事故調査 | M&Mとは別の制度枠組み | 該当性判断は別プロセス |
| 記録の保存 | 院内規程で明確化 | アクセス権限の限定管理 |
7. 電子症例管理・電子カルテとの連携
M&Mカンファレンスを継続運用するには、症例の収集・整理・共有の流れを効率化する仕組みが有用です。近年は、電子カルテと連携した症例収集の仕組み、院内グループウェアを活用した資料共有、電子的な議事管理といった運用が広がってきており、事務局負担を軽減しながら記録の一貫性を保つ工夫が試みられています。
7-1. 症例収集の仕組み
症例収集は、①現場からの申告フォーム、②医療安全管理室・QM室が電子カルテのインシデントレポート・退院サマリーを定期的に確認し候補を抽出、③診療科からの推薦、といった複数のルートを組み合わせる運用が一般的です。院内グループウェア・イントラネット上に申告フォームを設置し、時期を問わず申告を受け付ける仕組みが、現場負担の少ない収集方法として広がっています。
7-2. 資料共有・議事管理
発表資料は、匿名化を徹底したうえで院内グループウェア・共有フォルダにアクセス権限を限定して保管し、参加者が事前・事後に参照できるようにする運用が有用です。議事概要は、①発表症例の匿名化サマリー、②論点整理、③抽出された学習事項、④改善提案の担当と期限、といった構成で記録し、次回以降のフォローアップにつなげる設計とします。議事の外部持ち出しは禁止し、印刷資料の回収・裁断を徹底する運用も広く行われています。
7-3. 電子カルテとの連携上の注意
電子カルテと連携した症例収集を進める場合、医療情報システムの安全管理に関する厚生労働省のガイドラインに沿った運用が前提となります。アクセスログの管理、権限の設定、匿名化処理の運用、情報の保存領域の分離といった項目を、院内の医療情報部門と連携して整理する必要があります(厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」関連資料)。
7-4. 電子症例管理のまとめ表
| 領域 | 主な内容 | 院内運用のポイント |
|---|---|---|
| 症例収集 | 申告フォーム・カルテ抽出・診療科推薦 | 複数ルートの組み合わせ |
| 資料共有 | グループウェア・共有フォルダ | アクセス権限限定 |
| 議事管理 | 匿名化サマリー・学習事項・担当と期限 | フォローアップの仕組み化 |
| 電子カルテ連携 | 安全管理ガイドラインに沿う運用 | 医療情報部門との連携 |
8. 多職種参加の設計
M&Mカンファレンスは、医師のみで運営される検討会にとどめず、看護・薬剤・臨床工学・診療放射線・臨床検査・リハビリテーション・栄養・事務など、症例に関わる多職種が参加する運営設計が、現代の医療安全の考え方に沿った運用として広がっています。多職種参加は、業務プロセスを多角的に俯瞰し、システム要因を抽出するために欠かせない前提となります。
8-1. 職種別の視点
医師は診療判断・診断・治療計画の視点、看護師は看護観察・患者ケア・情報伝達の視点、薬剤師は薬物療法・相互作用・投与ルートの視点、臨床工学技士は医療機器の使用・保守の視点、診療放射線技師は画像診断・被ばく管理の視点、事務・情報システム担当者は業務プロセス・システムの視点で症例を捉えます。多職種の視点を持ち寄ることで、単職種の議論では見えにくいシステム要因が浮き彫りになりやすくなります。
8-2. 参加者の位置づけ
参加者は、①症例に関わった実務者、②関連する診療科・部門の責任者、③医療安全管理者・QM室責任者、④研修医・専攻医・実習中の学生などの学習者、⑤事務局・議事担当、といった構成が一般的です。学習者は積極的に議論に参加できる場として位置づけつつ、発表者・関係者への配慮を欠かさない運営ルールが必要です。開催時間帯は、多職種が参加しやすい昼休憩後や勤務時間内の設定とする病院が多く見られます。
8-3. タスク・シフト/シェアとの関係
医師の働き方改革の進展にあわせ、医師から他職種への業務移管(タスク・シフト/シェア)が全国的なテーマとなっています。多職種で業務を分担する体制の中では、職種間のコミュニケーション、業務の引継ぎ、責任範囲の明確化といった論点が、事故・インシデントの背景要因として浮上する場合があります。M&Mカンファレンスは、こうしたタスク・シフト/シェアの実装状況を振り返る場としても機能し得ます(厚生労働省「医師の働き方改革」関連資料)。
8-4. 多職種参加のまとめ表
| 職種 | 持ち寄る視点 | 症例分析での役割 |
|---|---|---|
| 医師 | 診療判断・治療計画 | 診療プロセスの論点 |
| 看護師 | 患者ケア・観察・情報伝達 | ベッドサイドの論点 |
| 薬剤師 | 薬物療法・相互作用 | 薬剤関連の論点 |
| 臨床工学技士 | 医療機器の使用・保守 | 機器関連の論点 |
| 診療放射線技師 | 画像診断・被ばく管理 | 画像・放射線の論点 |
| 事務・情報システム | 業務プロセス・システム | プロセス設計の論点 |
9. よくある質問(FAQ)
- Q1. M&Mカンファレンスの開催頻度はどの程度が現実的ですか?
- A. 病院の規模・診療科構成・症例数によって設計は異なりますが、月1回の定例開催を軸に、必要に応じて臨時開催を組み合わせる運用が多く見られます。回数を無理に増やすよりも、扱う症例の学習効果を高めることに主眼を置き、参加者が継続的に集まりやすい頻度・時間帯を院内で設計することが現実的です。診療科ごとの症例検討会と、院全体のM&Mを別立てで運営する病院もあります。
- Q2. M&Mカンファレンスの記録は訴訟時に不利になりますか?
- A. M&Mカンファレンスの記録・議事録の法的取扱いは、事案・裁判所の判断によって個別に評価されるため、一律に「不利になる」「保護される」と断定することはできません。院内の記録の取扱い、匿名化、保存方法、アクセス権限管理などは、院内の医療安全管理指針・情報管理規程に基づいて設計し、必要に応じて顧問弁護士・法務部門との相談を経て運用する設計が現実的です。個別事案の判断は所定の専門家にご確認ください。
- Q3. 参加を強制することはできますか?
- A. 医療安全対策加算の施設基準における研修要件など、院内の医療安全体制の一環として位置づけたカンファレンスへの参加は、就業規則・院内規程で参加を求める運用は現実的にありえます。ただし、参加を「強制する」よりも、参加することの意義・心理的安全性・学習効果を明確に示し、参加しやすい環境(時間帯・録画配信・後日視聴など)を整えるアプローチが継続運用の観点で有効と考えられます。詳細な労務・規程判断は所定の専門家にご確認ください。
- Q4. 議論が個人責任の追及に流れそうな時はどう対処しますか?
- A. 司会・進行を担う医療安全管理者や責任者が、「なぜその判断・行動が発生し得たのか」「システムのどこに改善余地があるか」という問いに議論を戻す運営が有用です。運営規程に、扱わない事項(個人の処分・人事評価との切り離し)を明文化し、参加者全員に事前周知しておくことも効果的です。司会者のファシリテーションスキルの育成、複数名の司会経験者の確保が、継続的な運用の基盤となります。
- Q5. 中小規模の病院でもM&Mカンファレンスは運営できますか?
- A. 中小規模の病院でも、月1回程度の運営、多職種参加、フォーマット統一といった基本要素を押さえた上で、規模に応じた設計で運営することは十分可能とされています。診療科横断で症例を持ち回りにする、地域の他院と共同で研修会を運営するといった工夫例も見られます。運営体制・事例選定・記録管理の負担を、医療安全管理室・QM室・診療科で分担する仕組みを設計することが、継続運用の要となります。
- 📌 あなたが次にやるべき1つの行動
- 関連サービスの公式サイトで、対応規模・料金プラン・申込方法をご確認ください。所要時間や手続きは各サービスの公式情報を参照してください。
10. 関連内部リンク・次のステップ
M&Mカンファレンスの運営は、医療安全管理体制・病院機能評価・診療報酬上の医療安全対策加算・電子カルテ運用など、病院運営の多面的なテーマと接点があります。自院の医療安全体制の整備状況や、経営課題に応じて、以下の関連記事も参考に、体系的な整備を並行して進めることが有用です。
- 病院機能評価(JCQHC)受審完全ガイド — 第三者評価による医療安全体制の見直し
- DPC/PDPS病院の経営管理ガイド — 診療プロセスとデータ分析の視点
- 病院の給与・勤怠システム管理 — 多職種の勤務管理と運営体制
- 病院における認知症ケアチーム — 多職種チーム運営の実務
11. 出典・参考資料
- 厚生労働省「医療事故調査制度について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061201.html (取得日:2026-07-06)
- 厚生労働省「医療安全対策」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/index.html (取得日:2026-07-06)
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法(告示)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352.html (取得日:2026-07-06)
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00002.html (取得日:2026-07-06)
- 厚生労働省「医師の働き方改革」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189708.html (取得日:2026-07-06)
- 厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000027272.html (取得日:2026-07-06)
- 公益財団法人日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」 https://www.med-safe.jp/ (取得日:2026-07-06)
- 公益財団法人日本医療機能評価機構「事業概要」 https://www.jcqhc.or.jp/ (取得日:2026-07-06)
- 一般社団法人日本医療安全調査機構「医療事故調査制度」 https://www.medsafe.or.jp/ (取得日:2026-07-06)
【免責事項】本記事は厚生労働省・公益財団法人日本医療機能評価機構(JCQHC)・一般社団法人日本医療安全調査機構等の公開情報を整理することを目的としており、特定の症例の判断、医療事故該当性の判断、院内規程の整備方針、施設基準の届出可否、訴訟時の記録の取り扱いを保証するものではありません。医療行為・診断・治療方針の助言は行いません。制度・ガイドライン・診療報酬上の取り扱いは改定により見直されるため、個別判断は所定の専門人材・所轄部署・関係機関にご確認ください。本記事の情報利用によって生じた損害について、mitoru編集部は責任を負いません。
最終更新日:2026年7月6日|編集方針
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mitoru編集部の見解
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