病院の抗菌薬適正使用支援チーム(AST) 完全ガイド【2026年版・加算算定/薬剤耐性/介入プロセス】

📅公開日:2026-08-09
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抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)は、院内で使用される抗菌薬の選択・投与量・投与期間の適正化を多職種で支援する組織横断チームです。感染対策向上加算1の施設基準に設置が位置づけられ、抗菌薬適正使用支援加算の算定要件を構成するとともに、厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」の医療機関実装の中核を担う仕組みとして整理されています。本記事は、病院感染対策委員会・薬剤部・ICD(感染症専門医)・ICN(感染管理認定看護師)を主な読者として、ASTの制度上の位置づけ、加算要件の考え方、多職種構成、血液培養陽性通知等の介入プロセス、アンチバイオグラム作成、教育・研修、感染対策向上加算との連動、2024年診療報酬改定の論点を、厚生労働省・国立感染症研究所・日本化学療法学会・日本感染症学会・日本環境感染学会等の公開情報を整理した内容として提示します。

本記事は公的機関・専門学会の公開情報を整理した内容であり、特定の施設基準の届出可否、特定の抗菌薬選択・投与設計の有効性、個別症例における処方判断を保証するものではありません。個別事例の判断は、厚生労働省・地方厚生(支)局・日本感染症学会・日本化学療法学会・院内の感染症専門医等にご確認ください。医療行為・診断・治療の助言は本記事では扱わず、制度・体制・運用の観点のみを取り上げます。

この記事で分かること

  • ASTの制度上の位置づけと感染対策向上加算1との関係
  • 抗菌薬適正使用支援加算の算定要件の考え方
  • 薬剤耐性(AMR)対策アクションプランにおけるAST活動の位置づけ
  • 医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師による多職種構成の設計
  • 血液培養陽性通知・広域抗菌薬長期使用症例等の介入プロセス
  • アンチバイオグラム作成と院内フィードバックの実務
  • ASTメンバー・現場職員に対する教育・研修の設計
  • 感染制御チーム(ICT)との連動と2024年診療報酬改定の論点

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1. ASTの位置づけ(制度枠組みと目的)

抗菌薬適正使用支援チーム(AST)は、院内における抗菌薬の適正使用を組織横断的に支援するチームです。感染対策向上加算1の施設基準では、感染制御チーム(ICT)に加えてASTの設置が位置づけられており、抗菌薬適正使用支援加算はASTの活動を診療報酬上評価する加算として設計されています。医療機関における抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship)は、単に抗菌薬の使用を減らす取り組みではなく、症例ごとに感染症学的に妥当な抗菌薬選択・投与量・投与期間を主治医とともに検討し、治療効果の最大化と耐性菌選択圧の低減を両立させる継続的な活動として位置づけられます(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料、厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」関連資料)。

AST設置の背景には、世界的な薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)問題があります。厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」は、医療機関における抗菌薬適正使用支援体制の整備を重点項目に据えており、日本の医療機関ではASTを中核とする体制整備が進められてきました。日本化学療法学会・日本感染症学会・日本環境感染学会・日本臨床微生物学会・日本病院薬剤師会・日本TDM学会・日本小児感染症学会・日本感染症教育研究会(IDATEN)は「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス」を公表しており、ASTの構成・活動内容・評価指標の実務的な考え方を整理しています(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料、日本化学療法学会・関連学会合同「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス」関連資料)。

AST活動の目的を整理すると、(1)個別症例における抗菌薬選択・投与量・投与期間の適正化、(2)広域抗菌薬・特定抗菌薬の使用モニタリングと介入、(3)抗菌薬使用量サーベイランスとAMR動向の把握、(4)現場職員に対する感染症診療・抗菌薬適正使用の教育、(5)アウトブレイクや耐性菌検出増加時のICTとの連携対応、といった多層的な取り組みが含まれます。ASTは病院単独の取り組みではなく、地域の感染対策ネットワークやAMR対策の全国的な枠組みと連動する形で機能する仕組みとして設計されています(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料)。

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2. 抗菌薬適正使用支援加算

抗菌薬適正使用支援加算は、感染対策向上加算1の届出医療機関において、ASTによる抗菌薬適正使用支援活動を診療報酬上評価する加算です。広域抗菌薬・特定抗菌薬を使用する症例に対する主治医への介入、抗菌薬使用量サーベイランス、院内研修、他医療機関からの相談対応等の活動が要件として位置づけられ、AMR対策アクションプランの実装を診療報酬側から支える構造になっています。具体的な点数・要件は告示・通知で定められ、改定で見直されるため、厚生労働省の最新公開資料の確認が前提となります(厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」関連資料)。

2-1. 算定要件の主な柱

抗菌薬適正使用支援加算の算定要件は、大きく(1)ASTの構成要件、(2)介入活動の要件、(3)サーベイランス・院内フィードバックの要件、(4)研修・相談対応の要件、に整理されます。ASTの構成については、感染症診療・抗菌薬適正使用に関する所定の知識・経験を有する医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師等が含まれることが求められ、専従/専任の人員配置区分は告示・通知で規定されています。介入活動については、対象症例のモニタリング、主治医への提言、介入内容の記録が要件化される構造です。詳細は厚生労働省告示・通知・地方厚生(支)局の疑義解釈で確認する必要があります。

2-2. 感染対策向上加算1との関係

抗菌薬適正使用支援加算は、感染対策向上加算1の届出医療機関で算定できる設計とされており、感染対策向上加算1の体制(ICT設置・サーベイランス参加・地域連携等)が前提条件となります。ICTが感染制御全般を担い、ASTが抗菌薬適正使用を担うという役割分担のもと、両チームが情報を共有しながら活動することが、感染対策向上加算1と抗菌薬適正使用支援加算の双方の要件を実効的に満たす基本設計です(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料)。

2-3. 加算の位置づけ整理表

加算区分主な評価対象前提となる体制
感染対策向上加算1ICT・AST設置、サーベイランス参加、地域連携中核専任部門・多職種チーム
抗菌薬適正使用支援加算AST介入活動・使用量サーベイランス・研修・相談対応感染対策向上加算1の届出
連携強化加算等加算1医療機関との情報共有・カンファレンス頻度加算1〜3・外来加算間の連携体制

3. 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン

厚生労働省は「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を策定し、医療分野・獣医療分野・農林水産分野を含む横断的なAMR対策を推進しています。医療分野では、抗菌薬使用量の適正化、耐性菌サーベイランスの強化、医療機関における抗菌薬適正使用支援体制の整備、教育・啓発の推進が主要な柱として位置づけられており、AST活動はこのアクションプランの医療機関実装の中核として整理されます(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料)。

3-1. AMR対策アクションプランの構成

AMR対策アクションプランは、「普及啓発・教育」「動向調査・監視」「感染予防・管理」「抗微生物剤の適正使用」「研究開発・創薬」「国際協力」といった分野横断的な柱で構成されています。医療機関の現場に直接関係するのは「感染予防・管理」と「抗微生物剤の適正使用」であり、前者はICT、後者はASTが中心となって取り組む領域と対応関係にあります。AMR臨床リファレンスセンター(国立国際医療研究センター病院内に設置)が運用する J-SIPHE(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology)は、抗菌薬使用量・耐性菌発生状況・感染対策プロセス指標を統合的に登録・分析できるサーベイランス基盤として、AST活動のデータ基盤の一つとして活用されています(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料、AMR臨床リファレンスセンター公開資料)。

3-2. サーベイランス基盤との連動

AMR対策の動向調査には、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS:Japan Nosocomial Infections Surveillance)と J-SIPHE が代表的な役割を果たします。JANISは主に検査部門・全入院患者部門・SSI部門・ICU部門・NICU部門等における感染・耐性菌発生動向を全国集計する仕組みで、J-SIPHEは抗菌薬使用量指標・感染対策プロセス指標等を含む統合的なサーベイランスを提供します。ASTはこれらのサーベイランスへの参加と自院データの分析・活用を通じて、AMR対策の全国的枠組みと自院活動を接続することが期待されています(厚生労働省「JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)」関連資料)。

4. 多職種構成(医師/薬剤師/看護師/検査技師)

ASTは、感染症診療・抗菌薬適正使用に関する専門性を持つ多職種で構成されるチームです。単一職種では担いきれない診療・薬学・微生物学・看護の各視点を統合し、症例ごとの適正使用支援を実効的に行うことが目的とされています。抗菌薬適正使用支援加算の要件では、医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師等がASTに含まれることが位置づけられており、各職種の役割分担と協働の設計が体制運用の核になります(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料、日本化学療法学会・関連学会合同「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス」関連資料)。

4-1. 医師(ICD:Infection Control Doctor 等)の役割

ASTにおける医師は、感染症診療・抗菌薬適正使用に関する所定の研修修了・臨床経験を有する者が中心となります。日本感染症学会認定のICD(Infection Control Doctor)や感染症専門医が担う例が多く、主治医への提言における医学的根拠の提示、症例レビューでの臨床判断、複雑症例のコンサルテーション対応が主な役割です。抗菌薬選択・投与量・投与期間の提案は、患者の腎機能・肝機能・薬剤アレルギー等の背景を踏まえた個別判断が前提であり、最終的な処方判断は主治医が行うことを尊重した支援スタイルが基本となります。

4-2. 薬剤師の役割

ASTにおける薬剤師は、抗菌薬の薬物動態・薬力学(PK/PD)、投与設計、TDM(Therapeutic Drug Monitoring)、相互作用、腎機能に応じた用量調整、点滴投与時の配合変化等の薬学的観点から中心的な役割を担います。日本病院薬剤師会が認定する感染制御認定薬剤師・抗菌化学療法認定薬剤師等が実務を担う例が多く、電子カルテ・注射オーダー・薬歴を横断的に確認して介入対象症例を抽出する運用が現実的です。バンコマイシン・アミノグリコシド系等のTDM対象薬の投与設計支援は、薬剤師の専門性が発揮される代表的な領域です(日本病院薬剤師会 関連資料、日本TDM学会「抗菌薬TDMガイドライン」関連資料)。

4-3. 看護師(ICN:Infection Control Nurse 等)の役割

ASTにおける看護師は、日本看護協会認定のICN(感染管理認定看護師)や感染症看護専門看護師が担う例が多く、病棟現場との橋渡し役として機能します。抗菌薬投与のタイミング・投与ルート・末梢/中心静脈カテーテル管理・血液培養採取手技等、現場の看護実践に関わる観点から介入活動を支えます。ラウンド時のフィードバック、現場スタッフの疑問への一次対応、AST提言内容の現場定着支援も、看護師の役割として位置づけられます。

4-4. 臨床検査技師の役割

ASTにおける臨床検査技師は、微生物検査室の担当技師が中心となり、血液培養等の陽性通知、菌種同定・感受性結果の速やかな報告、耐性菌検出時のICT・ASTへの情報伝達を担います。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)等の同定装置や自動感受性測定装置の運用、遺伝子検査(PCR法等)による耐性遺伝子検出の解釈、アンチバイオグラム作成のためのデータ抽出は、臨床検査技師の専門性が中核となる領域です(日本臨床微生物学会 関連資料)。

4-5. 多職種役割分担整理表

職種主な担当領域関連する代表的資格・認定
医師診療判断・主治医への提言・複雑症例対応感染症専門医・ICD 等
薬剤師PK/PD・TDM・投与設計・薬歴確認感染制御認定薬剤師・抗菌化学療法認定薬剤師 等
看護師現場橋渡し・投与実務・ラウンドフィードバックICN(感染管理認定看護師)・感染症看護専門看護師 等
臨床検査技師培養結果報告・耐性菌検出・アンチバイオグラム認定臨床微生物検査技師 等
クラウドデータ

5. 介入プロセス(血液培養陽性通知等)

AST活動の中核は、対象症例を継続的にモニタリングし、必要に応じて主治医へ提言する介入プロセスです。介入は主治医の処方権を尊重したうえで、感染症学的に望ましい抗菌薬選択・投与量・投与期間を提案する形で行われることが基本であり、介入内容・主治医の対応・処方変更の有無等を記録して症例レビューに活用する運用が求められます(日本化学療法学会・関連学会合同「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス」関連資料)。

5-1. 血液培養陽性通知への対応

血液培養陽性は、菌血症・敗血症を疑う重要な検査結果であり、迅速な対応が予後に関わる領域として広く認識されています。ASTの実務としては、微生物検査室からの陽性通知を受け、患者背景・感染源・現在の抗菌薬投与内容を確認したうえで、菌種同定・感受性結果に基づく抗菌薬の最適化提案(デ・エスカレーション/エスカレーション、経口スイッチ等)を主治医と共有する運用が一般的です。通知経路・対応フロー・記録様式を標準化しておくことが、介入の質と再現性を担保するうえで重要です。

5-2. 広域抗菌薬・特定抗菌薬使用症例のモニタリング

カルバペネム系・抗MRSA薬・第4世代セファロスポリン系等の広域抗菌薬や特定抗菌薬は、耐性菌選択圧を高める観点からモニタリング対象として位置づけられることが一般的です。AST活動では、これらの抗菌薬の投与開始時・投与継続時に対象症例を抽出し、感染症学的に妥当な選択かどうかをレビューする運用が中核となります。特に長期投与・投与目的不明確・培養未実施のまま経験的投与が継続している症例は、介入の重点対象となる場面が多くなります。

5-3. デ・エスカレーションと投与期間の適正化

デ・エスカレーションは、経験的治療で使用された広域抗菌薬を、培養結果・感受性結果に基づき、より狭域の抗菌薬に切り替える戦略です。感染巣が特定され、菌種・感受性が判明した時点で妥当性を検討することが基本であり、ASTは主治医と協働して切替の適否を評価します。投与期間についても、感染巣・重症度・臨床経過に応じた妥当な期間設計が重要とされ、必要以上に長期化していないかのレビューが介入対象となります。個別症例における適否判断は、主治医と感染症専門医の臨床判断によります。

5-4. 経口スイッチ(IV to PO)

臨床的に安定し、経口摂取が可能で、経口抗菌薬の吸収・移行性・感受性が確保されている場合には、静注薬から経口薬への切替(IV to PO switch)を検討することが、抗菌薬適正使用と入院期間短縮の両観点で有効な選択肢とされます。ASTは切替可能性の判断基準を院内で共有し、主治医への提案を行うことで、患者QOL・医療資源利用の適正化にも寄与する運用が期待されます。切替可否の最終判断は主治医の臨床判断によります。

5-5. 介入プロセス整理表

介入場面AST側の主な行動期待される効果の方向性
血液培養陽性通知菌種・感受性確認、抗菌薬最適化提案適正な抗菌薬選択・重症化リスク管理
広域抗菌薬使用症例投与妥当性レビュー、培養実施状況確認耐性菌選択圧の抑制
デ・エスカレーション培養結果に基づく狭域化提案広域薬使用量の低減
投与期間の適正化期間妥当性のレビュー不要な長期投与の抑制
経口スイッチ切替可能性の評価と提案入院関連負担の軽減

6. アンチバイオグラム作成

アンチバイオグラム(Antibiogram)は、自院で分離された細菌の菌種別感受性率を一覧化した資料で、経験的治療における抗菌薬選択の参考資料として広く用いられています。厚生労働省・関連学会は、医療機関ごとのアンチバイオグラム作成と院内共有の重要性を示しており、AST活動の基礎的なアウトプットとして位置づけられます(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料、日本臨床微生物学会 関連資料)。

6-1. 作成にあたっての基本的な考え方

アンチバイオグラム作成にあたっては、(1)対象期間(通常1年間程度)、(2)対象検体・部門(全院/病棟別/外来別等)、(3)同一患者・同一菌種の重複除外ルール、(4)最小症例数の下限設定、(5)感受性判定基準(CLSI・EUCAST等)の統一、といった点を整備することが基本とされます。国内では日本臨床微生物学会・日本化学療法学会等が実務的な留意点を示しており、これらを踏まえた作成手順の院内標準化が求められます。

6-2. 院内フィードバックと活用

作成したアンチバイオグラムは、ポータル・院内資料・ポケットマニュアル等で医師・薬剤師・看護師に共有され、経験的治療における抗菌薬選択の参考として活用されます。ASTは年1回程度の更新と、耐性率に大きな変動があった場合の追加共有、経験的治療プロトコルへの反映を通じて、院内の抗菌薬使用パターンの適正化に寄与します。ICUや血液内科病棟等、耐性菌検出率が高い部門については、部門別アンチバイオグラムを追加作成する運用も現実的な選択肢となります。

6-3. サーベイランス指標との組み合わせ

アンチバイオグラムは、抗菌薬使用量指標(AUD:Antimicrobial Use Density、DOT:Days of Therapy 等)と組み合わせて評価することで、耐性率と使用量の関係を継続的にモニタリングできます。JANIS・J-SIPHE等のサーベイランスに参加し、全国データと自院データを比較することで、自院の位置づけを客観的に把握する材料が得られます(厚生労働省「JANIS」関連資料)。

7. 教育・研修

AST活動には、ASTメンバー自身の継続教育と、現場職員(医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師等)への教育・研修の双方が含まれます。医療法・診療報酬上の要件としての院内感染対策研修とは別に、抗菌薬適正使用に特化した教育設計を組み込むことが、AST活動の質と持続性を支える基盤となります(厚生労働省「医療機関等における院内感染対策について」関連資料)。

7-1. ASTメンバーの継続教育

ASTメンバーは、感染症診療・微生物学・薬物動態学・サーベイランス統計等の幅広い領域の知識を継続的に更新する必要があります。日本感染症学会・日本化学療法学会・日本環境感染学会・日本臨床微生物学会・日本病院薬剤師会・日本感染症教育研究会(IDATEN)等の学術集会・セミナー・e-learningを組み合わせ、認定資格の維持要件を満たす教育計画を立てることが実務的です。院内では月次の症例カンファレンス・文献レビュー会を継続することが、チーム内の知識共有と若手育成の場として機能します。

7-2. 現場職員向けの研修設計

現場職員向けの研修は、経験的治療の考え方、主要感染症の初期対応、血液培養の適切な採取手技、抗菌薬投与時の観察ポイント、TDM対象薬の投与管理、アンチバイオグラムの活用、AMR対策の意義など、実務に直結するテーマを軸に設計されます。集合研修・e-learning・症例ベースのケースカンファレンス・ラウンド時の教育を組み合わせ、職種横断で参加できる形式を工夫することが定着の要点です。研修実施記録・受講者名簿・教材は、施設基準の届出・適時調査への対応資料としても機能します。

7-3. 相談対応窓口の設置

ASTは、院内医師・地域の他医療機関から寄せられる抗菌薬適正使用に関する相談対応窓口としての機能を持つことがあり、抗菌薬適正使用支援加算の要件にも相談対応が位置づけられる場面があります。相談内容・回答・対応時間の記録を残す仕組みを整え、相談対応の実績を活動レビューに反映することが、機能の実効性を担保します。相談対応の詳細な要件・記録様式については、告示・通知・地方厚生(支)局の疑義解釈で確認する必要があります。

8. 感染対策向上加算との連動(ICTとの協働)

ASTは単独のチームとして機能するのではなく、感染制御チーム(ICT)と密接に連動する形で運営されることが、感染対策向上加算1体制の実効性を高めます。ICTが感染制御全般(サーベイランス・アウトブレイク対応・医療関連感染予防等)を担い、ASTが抗菌薬適正使用を担うという役割分担のもと、両チームが情報を共有しながら活動することが基本設計です(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料)。

8-1. 情報共有の設計

ICTとASTは、耐性菌検出動向・抗菌薬使用量・感染症発生状況・アウトブレイク情報を共有する定例ミーティング(合同カンファレンス)を持つ設計が実務的です。特定病棟での耐性菌検出増加をICTが把握した際、ASTがその病棟の抗菌薬使用パターンを分析して介入する、といった協働は、両チームの連動が機能する典型場面です。共有プラットフォーム(電子カルテ内のダッシュボード、共有サーバー内のデータマート等)の整備が、継続的な情報共有を支える基盤となります。

8-2. 事務局機能の統合

ICT・ASTを支える事務局機能(感染対策室・感染管理部門等)を統合的に設置することで、両チームのデータ管理・記録保管・研修事務・カンファレンス運営を一元化する運用が現実的です。事務局機能の統合は、届出書類・活動記録の管理・地方厚生(支)局の適時調査への対応においても効率化に寄与します。事務局機能の設計は、病院の規模・機能に応じて柔軟に組み立てることが基本です。

8-3. 地域連携との接続

感染対策向上加算1医療機関は、加算2・3医療機関・外来感染対策向上加算医療機関との地域連携の中核として位置づけられており、地域全体のAMR対策・感染対策ネットワークにおいてASTの知見を共有する役割も期待されます。地域の合同カンファレンス・研修会への参加、他医療機関からの相談対応の記録は、連携体制の実効性を示す資料として整理することが望まれます(厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」関連資料)。

天秤の比較

9. 2024年診療報酬改定の論点

令和6年度(2024年度)診療報酬改定では、感染対策向上加算・抗菌薬適正使用支援加算・関連加算について要件・点数の見直しが行われた経緯があります。感染症法上の新興感染症対応との整合、AMR対策の強化、地域連携の実効性確保、AST活動の質の向上などが論点となっており、自院がどの加算区分にあり、どの要件が変更されたかを丁寧に確認することが必要です(厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」関連資料)。

9-1. 2024年改定で着目された論点

2024年改定においては、感染症法に基づく新興感染症対応の協定締結医療機関制度との整合、外来感染対策向上加算医療機関との連携体制、サーベイランス強化、AST活動の実効性確保、相談対応機能の充実などが議論されました。詳細な改定内容は中央社会保険医療協議会(中医協)の答申・告示・通知で示されており、自院の体制が改定後の要件と整合しているか、届出変更・記録様式の見直しが必要かを点検することが、改定対応の基本です。改定の解釈・運用については、地方厚生(支)局の通知・疑義解釈を併せて確認する必要があります(厚生労働省「中央社会保険医療協議会(中医協)」関連資料)。

9-2. 次回改定に向けた確認の進め方

診療報酬改定は概ね2年ごとに実施されており、次回改定に向けた議論は中医協および関連する分科会・部会で進められます。改定見込みについての一次情報は中医協の議事・資料が中心となり、厚生労働省ホームページで公開される資料、答申、告示・通知が確定的な根拠となります。ASTを担う関係者は、改定議論の方向性を把握しつつも、未確定情報に基づく断定的判断を避け、確定した告示・通知に基づいて自院の体制を見直すことが実務上の基本姿勢となります。

9-3. 改定情報の確認先一覧

情報源主な内容確認の位置づけ
厚生労働省 診療報酬改定ページ改定の概要・告示・通知確定情報の一次情報
中医協(中央社会保険医療協議会)資料改定論点・答申資料議論の方向性把握
地方厚生(支)局通知・疑義解釈運用上の解釈・実務対応個別判断の根拠
日本化学療法学会・日本感染症学会等実務ガイダンス・解説運用設計の参考

10. よくある質問(FAQ)

Q1. ASTとICTはどう違うのですか?
A. ICT(感染制御チーム)は、院内ラウンド・サーベイランス・アウトブレイク対応・医療関連感染予防等を含む感染制御全般を担う多職種チームです。AST(抗菌薬適正使用支援チーム)は、抗菌薬の適正使用支援に特化した多職種チームで、症例モニタリング・主治医への介入・使用量サーベイランス・院内教育・相談対応等を担います。両チームは目的・対象範囲が異なるものの、耐性菌検出動向と抗菌薬使用量の関係のように相互に関わる領域が多く、感染対策向上加算1の届出医療機関では両チームの連携運営が前提となります。
Q2. AST構成メンバーに必須の資格はありますか?
A. 抗菌薬適正使用支援加算の要件では、感染症診療・抗菌薬適正使用に関する所定の知識・経験を有する医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師等の構成が求められています。具体的な資格・研修修了要件・専従/専任区分は告示・通知で規定されており、改定で見直される場合があるため、厚生労働省の最新公開資料および地方厚生(支)局の疑義解釈で確認してください。実務では、感染症専門医・ICD・感染制御認定薬剤師・抗菌化学療法認定薬剤師・ICN・認定臨床微生物検査技師等がASTを支える例が多く見られます。
Q3. 血液培養陽性通知の対応フローはどのように整備すればよいですか?
A. 血液培養陽性通知の対応フローは、微生物検査室からASTへの通知手段、主治医への一次連絡、患者背景・感染源の確認、菌種同定・感受性結果に基づく提案、記録様式の統一、といった要素を明文化して院内標準化することが基本です。個別症例における抗菌薬選択・投与設計の判断は、主治医と感染症専門医の臨床判断によります。運用の詳細は日本化学療法学会・関連学会合同「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス」等を参考に、自院の体制に合わせて設計することが実務的です。
Q4. アンチバイオグラムはどの程度の頻度で更新すべきですか?
A. アンチバイオグラムは通常年1回程度の頻度で更新することが一般的な運用とされていますが、耐性率の顕著な変動があった場合や、新規耐性菌が院内で継続的に検出された場合には、追加の更新・共有を行う運用が現実的です。作成手順・対象期間・重複除外ルール等は日本臨床微生物学会等の資料を参考に院内標準化することが望ましく、部門別(ICU・血液内科等)のアンチバイオグラム作成も検討の対象となります。
Q5. 抗菌薬使用量の指標にはどのようなものがありますか?
A. 抗菌薬使用量の代表的指標として、AUD(Antimicrobial Use Density:延べ入院患者数あたりの規定1日量換算使用量)、DOT(Days of Therapy:延べ入院患者数あたりの抗菌薬投与日数)等が広く用いられます。これらの指標はJ-SIPHE等のサーベイランスに登録することで全国比較データと自院データを比較する材料となり、AST活動の評価指標として位置づけられます。指標の集計方法・対象範囲は自院で標準化し、経時的な比較が可能な形で継続的に取得することが基本です(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料)。
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11. 出典・参考資料

  • 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html (取得日:2026-08-09)
  • 厚生労働省「診療報酬の算定方法(告示)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352.html (取得日:2026-08-09)
  • 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html (取得日:2026-08-09)
  • 厚生労働省「JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)」 https://janis.mhlw.go.jp/ (取得日:2026-08-09)
  • 厚生労働省「医療機関等における院内感染対策について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061875.html (取得日:2026-08-09)
  • 厚生労働省「中央社会保険医療協議会(中医協)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128154.html (取得日:2026-08-09)
  • 国立感染症研究所「感染症情報」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases.html (取得日:2026-08-09)
  • 日本化学療法学会 公式サイト http://www.chemotherapy.or.jp/ (取得日:2026-08-09)
  • 日本感染症学会 公式サイト https://www.kansensho.or.jp/ (取得日:2026-08-09)
  • 日本環境感染学会 公式サイト http://www.kankyokansen.org/ (取得日:2026-08-09)
  • 日本臨床微生物学会 公式サイト http://www.jscm.org/ (取得日:2026-08-09)
  • 日本病院薬剤師会 公式サイト https://www.jshp.or.jp/ (取得日:2026-08-09)

【免責事項】本記事は厚生労働省告示・通知、国立感染症研究所・日本化学療法学会・日本感染症学会・日本環境感染学会・日本臨床微生物学会・日本病院薬剤師会等の公開情報を整理することを目的としており、特定の施設基準の届出可否や、特定の抗菌薬選択・投与設計・介入手法の有効性、個別症例における処方判断を保証するものではありません。抗菌薬適正使用支援加算・感染対策向上加算等の点数・要件は告示・通知の改訂や年度の見直しにより変動します。個別判断は厚生労働省・地方厚生(支)局・日本感染症学会・日本化学療法学会・院内の感染症専門医等にご確認ください。本記事は医療行為・診断・治療の助言を含みません。本記事の情報利用によって生じた損害について、mitoru編集部は責任を負いません。

最終更新日:2026年8月9日|編集方針

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