※本記事には広告(PR)が含まれます。mitoru編集部は公開情報を整理して比較・解説しており、表示順位や評価は広告主からの依頼ではなく編集部の独自判断によります。
院内感染対策は、医療法・診療報酬・各種ガイドラインが重層的に関わる病院経営の中核テーマです。感染対策向上加算1〜3および外来感染対策向上加算の施設基準では、感染制御チーム(ICT)と抗菌薬適正使用支援チーム(AST)の設置、JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス)への参加、定期的な院内研修の実施など、組織的な感染対策体制が求められています。本記事は、病院理事長・院長・感染対策委員長・事務部長を主な読者として、制度枠組み・施設基準・チーム体制・サーベイランス参加要件・経営インパクトを、厚生労働省・国立感染症研究所等の公開情報をもとに整理します。
本記事は公的機関の公開情報を整理した内容であり、特定の施設基準の届出可否や、特定の感染対策手法の有効性を保証するものではありません。個別事例の判断は、厚生労働省・地方厚生(支)局・日本環境感染学会・各種専門家にご確認ください。医療行為・診断・治療助言は本記事では扱わず、制度・運営・経営の観点のみを取り上げます。
この記事で分かること
- 医療法・診療報酬における院内感染対策の制度枠組み
- 感染対策向上加算1〜3・外来感染対策向上加算の施設基準の概要
- ICT(感染制御チーム)・AST(抗菌薬適正使用支援チーム)の役割と構成
- JANIS・J-SIPHEへの参加要件と運用上のポイント
- 抗菌薬適正使用支援加算の位置づけと算定要件の考え方
- 院内感染対策研修・職員教育の体制整備
- 感染対策加算の経営インパクトと点数面の整理
- 2024年診療報酬改定の影響と2026年改定見込みの確認ポイント
1. 院内感染対策の制度枠組み(医療法・診療報酬)
院内感染対策は、医療法および診療報酬の双方によって規律されています。医療法第6条の12では、病院・診療所等の管理者に対し、医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の必要な措置を講ずる義務が定められており、医療法施行規則の関連条項では、院内感染対策のための指針策定・委員会の開催・従業者研修・改善方策の実施等が病院等の管理者の責務として規定されています(厚生労働省「医療法」関連資料)。これは、感染対策が病院運営の最低限の要件であることを意味し、診療報酬上の評価とは別に、すべての病院が体制整備を求められる根拠となっています。
診療報酬上は、入院基本料等加算として「感染対策向上加算1・2・3」および「外来感染対策向上加算」が設定されており、組織的な感染対策体制を有する保険医療機関を評価する仕組みとなっています。これらの加算は、医療法上の最低基準を満たしたうえで、さらに高度な体制(専従または専任の感染制御担当者の配置、ICT・ASTの設置、サーベイランス参加、地域連携など)を備える医療機関を診療報酬上加算するもので、医療法の体制要件と診療報酬の評価が連動する構造になっています(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料、厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」関連資料)。
制度を運用面から支える行政資料として、厚生労働省は「医療機関等における院内感染対策について」と題する通知や、「医療施設等における感染防止対策に関するガイドライン」等を公表しています。また、国立感染症研究所はサーベイランスやアウトブレイク対応に関する実務的な資料を公開しており、日本環境感染学会・日本感染症学会・日本化学療法学会等の学会も実践ガイダンスを示しています。病院は、こうした公的・専門的情報を組み合わせ、自院の感染対策マニュアル・委員会運営を設計することになります(厚生労働省「医療機関等における院内感染対策」関連資料、国立感染症研究所「感染症情報」関連資料)。
院内感染対策の制度枠組みを整理すると、(1)医療法による最低基準(指針・委員会・研修・改善方策)、(2)診療報酬による加算評価(感染対策向上加算等)、(3)行政通知・ガイドラインによる実務指針、(4)学会・専門団体による実践ガイダンス、という4層構造として理解できます。経営層は、自院がどの層までの要件を満たしているか、どの加算を算定し得る体制にあるかを定期的に棚卸しすることが、制度対応と収益管理の出発点になります。

2. 感染対策向上加算1〜3 / 外来感染対策向上加算の施設基準
感染対策向上加算は、2022年度(令和4年度)の診療報酬改定で、それまでの「感染防止対策加算」を再編する形で導入された入院基本料等加算です。組織的な感染対策体制の充実度に応じて加算1・加算2・加算3の3段階に区分され、さらに外来診療における感染対策を評価する「外来感染対策向上加算」が初・再診料の加算として設定されています。施設基準の具体的な点数・要件は、厚生労働省告示および関係通知で定められています(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料)。
2-1. 感染対策向上加算1の主な要件
感染対策向上加算1は、最も高度な感染対策体制を評価する区分です。専任の院内感染対策を行う部門の設置、感染症対策に係る所定の経験を有する医師・看護師等から構成されるICT(感染制御チーム)の設置、抗菌薬の適正使用を支援するためのAST(抗菌薬適正使用支援チーム)の設置、JANIS等の院内感染対策に資するサーベイランスへの参加、加算2・加算3の医療機関や外来感染対策向上加算届出医療機関等との連携・カンファレンス開催などが、主な要件として位置づけられています。要件の詳細・人員配置の専従/専任区分・回数等は告示・通知で定められており、年度・改定で見直されるため、最新資料の確認が必要です(厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」関連資料)。
2-2. 感染対策向上加算2・3の位置づけ
感染対策向上加算2・3は、加算1ほどの高度な体制までは備えていないものの、組織的な感染対策体制を有する医療機関を段階的に評価する区分です。加算2は、ICTの設置・感染対策に関する院内研修の定期的実施・サーベイランス関連の取り組み等を含む一定水準の体制を、加算3はそれよりも基礎的な体制を評価する設計とされています。加算1の医療機関とのカンファレンス参加など、加算1医療機関を中核とした地域連携が要件に組み込まれる構造であり、地域全体での感染対策ネットワーク形成を促す仕組みとして位置づけられます(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料)。
2-3. 外来感染対策向上加算
外来感染対策向上加算は、外来診療を行う保険医療機関(診療所等を含む)における感染対策体制を評価する加算で、初・再診料に対する加算として設定されています。院内感染対策の指針・委員会の整備、職員研修の実施、感染症患者の動線確保等の体制が要件に含まれ、入院機能を持たない医療機関でも算定対象となる点が特徴です。新興・再興感染症の発生時に外来医療を支える観点からも重要な加算とされており、感染対策向上加算1医療機関等との連携が要件として組み込まれる構造になっています(厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」関連資料)。
2-4. 連携強化加算・サーベイランス強化加算等の関連加算
感染対策向上加算には、地域連携や情報共有体制をさらに評価する関連加算(連携強化加算・サーベイランス強化加算等)が組み合わされる構造があります。これらは、加算1医療機関と加算2・3医療機関・外来感染対策向上加算医療機関との間のカンファレンス・情報共有の頻度、JANIS等のサーベイランスへの参加状況等を評価するもので、地域単位での感染対策ネットワークの実効性を診療報酬上反映させる仕組みです。具体的な要件・点数は改定ごとに見直されるため、厚生労働省告示・通知で最新の内容を確認することが前提となります(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料)。
2-5. 感染対策向上加算の体系まとめ表
| 加算区分 | 主な体制要件の方向性 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 感染対策向上加算1 | 専任部門・ICT・AST・サーベイランス参加・地域連携の中核 | 地域の感染対策中核病院 |
| 感染対策向上加算2 | ICT設置・研修・加算1医療機関との連携 | 中規模急性期等の体制評価 |
| 感染対策向上加算3 | 基礎的な感染対策体制・連携参加 | 基礎体制の評価 |
| 外来感染対策向上加算 | 外来における感染対策体制・指針・研修 | 外来診療機能の評価 |
| 連携強化加算等 | カンファレンス・情報共有・サーベイランス強化 | 関連加算(上記と組合せ) |
3. ICT(感染制御チーム)・AST(抗菌薬適正使用支援チーム)の役割
感染対策向上加算1の中核となる体制が、ICT(Infection Control Team:感染制御チーム)とAST(Antimicrobial Stewardship Team:抗菌薬適正使用支援チーム)です。両チームは目的・対象範囲が異なりますが、医療関連感染の低減と抗菌薬使用の適正化という共通テーマで連携することが、院内感染対策の質を支える基盤になります。
3-1. ICTの役割と構成
ICTは、院内感染対策の実務を担う多職種チームで、感染症対策に係る所定の研修を修了した医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師等で構成されることが一般的です。主な業務として、院内ラウンドによる感染対策状況の確認、サーベイランスデータの分析、アウトブレイク発生時の対応指揮、職員教育、感染対策マニュアルの策定・改訂等が挙げられます。診療報酬上の要件としては、専従または専任の感染制御担当者の配置や、定期的な院内ラウンドの実施回数等が定められており、組織横断的に活動する体制が前提となります(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料、日本環境感染学会「医療機関における感染制御」関連資料)。
3-2. ASTの役割と構成
ASTは、抗菌薬の適正使用を支援する多職種チームで、感染症診療・抗菌薬適正使用に関する所定の知識・経験を有する医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師等で構成されることが一般的です。主な業務として、広域抗菌薬・特定抗菌薬使用症例のモニタリング、主治医への適正使用に関する提言(介入)、抗菌薬使用量サーベイランス、AMR(薬剤耐性)対策に関する院内教育などが挙げられます。AMR対策は世界的な公衆衛生課題であり、厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」でも医療機関における抗菌薬適正使用支援の体制整備が重点項目として位置づけられています(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料)。
3-3. ICTとASTの連携
ICTとASTは独立したチームですが、感染症の発生動向・薬剤耐性菌の検出状況・抗菌薬使用量といった情報を共有することで、相互の活動の実効性が高まります。たとえば、ICTが把握した特定病棟での耐性菌検出増加に対し、ASTが当該病棟の抗菌薬使用パターンを分析・介入する、といった連携が考えられます。両チームを支える事務局機能(感染対策室等)を整備し、データを一元的に管理することが、組織的な対応力につながります。具体的な連携のあり方は、病院の規模・機能・地域での役割に応じて設計することが前提となります。
3-4. 多職種連携と職員教育
ICT・ASTの活動は、現場の医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師等の協力なしには成立しません。標準予防策(スタンダードプリコーション)・経路別予防策の徹底、手指衛生の遵守、医療器具関連感染対策の実施は、現場職員の日常業務に直結します。チームによる定期的な院内研修、ラウンド時のフィードバック、e-learning教材の活用等を組み合わせ、職員全体のリテラシーを底上げする教育設計が重要です。職員教育の実施は、医療法・診療報酬の双方で要件化されている領域でもあります(厚生労働省「医療機関等における院内感染対策」関連資料)。
3-5. ICT・AST体制整理表
| 項目 | ICT(感染制御チーム) | AST(抗菌薬適正使用支援チーム) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 医療関連感染の予防・制御 | 抗菌薬適正使用の支援・AMR対策 |
| 主要メンバー | 医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師等 | 医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師等 |
| 主な活動 | 院内ラウンド・サーベイランス・アウトブレイク対応 | 使用症例モニタリング・主治医への介入・教育 |
| 関連加算 | 感染対策向上加算1〜3等 | 抗菌薬適正使用支援加算等 |
| 連携対象 | AST・現場部門・地域連携先 | ICT・主治医・薬剤部・検査部 |

4. JANIS・J-SIPHE参加要件と運用
サーベイランス(継続的な監視)への参加は、感染対策向上加算の要件に位置づけられている重要な領域です。代表的なものとして、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS:Japan Nosocomial Infections Surveillance)と、国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターが運用する J-SIPHE(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology)が広く知られています。
4-1. JANISの概要と参加
JANISは、厚生労働省が実施する院内感染対策サーベイランス事業で、参加医療機関から提出された検査・感染情報をもとに、全国の医療関連感染や薬剤耐性菌の発生動向を集計・公表する仕組みです。検査部門・全入院患者部門・SSI(手術部位感染)部門・ICU部門・NICU部門等の複数部門が設定されており、医療機関は自院の機能・体制に応じて参加部門を選択して登録する設計とされています。参加医療機関には、自院データと全国データを比較できる還元情報が提供される仕組みで、自院の感染対策の評価・改善に活用できる基盤となります(厚生労働省「JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)」関連資料)。
4-2. J-SIPHEの位置づけ
J-SIPHEは、AMR臨床リファレンスセンターが運用する感染対策・抗菌薬使用に関する統合的なサーベイランスシステムで、抗菌薬使用量・耐性菌発生状況・感染対策プロセス指標等を医療機関が登録・分析できる仕組みです。AMR対策アクションプランの実装を支援する位置づけにあり、AST活動のデータ基盤として活用される場面もあります。感染対策向上加算の連携体制下では、J-SIPHE等のサーベイランス参加が要件として取り上げられる場面があり、最新の告示・通知の内容に従う必要があります(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料、AMR臨床リファレンスセンター公開資料)。
4-3. サーベイランス参加の運用ポイント
サーベイランス参加は、登録手続きで完結するものではなく、(1)自院の対象データを定期的に抽出・送信する体制、(2)還元情報を分析しICT・ASTで共有する仕組み、(3)改善活動への反映、までを含む継続的な運用が前提となります。データ抽出の自動化、検査システム・電子カルテとの連動、感染対策室への人員配置等の体制整備が、運用負荷を抑えながら継続するうえで現実的な論点となります。サーベイランス結果の解釈は、感染症専門医・ICN(感染管理認定看護師)・薬剤師等の専門知識を持つ職員と協働して行うことが基本です。
4-4. サーベイランス情報の活用
サーベイランスの目的は、自院の医療関連感染・耐性菌動向を定量的に把握し、感染対策の優先順位を決めることにあります。たとえば、特定の耐性菌の検出率が全国平均より高い、特定部署で器具関連感染が増加している、といった傾向を早期に把握できれば、ICT・ASTが集中的に介入する根拠となります。データを「登録して終わり」にせず、月次・四半期で振り返り、感染対策委員会で経営層に報告する流れを確立することが、サーベイランス活用の中核です。
4-5. サーベイランス参加比較表
| サーベイランス | 運営主体 | 主な対象 | 主な活用領域 |
|---|---|---|---|
| JANIS | 厚生労働省 | 検査・全入院・SSI・ICU・NICU等 | 全国比較・耐性菌動向・自院評価 |
| J-SIPHE | AMR臨床リファレンスセンター | 抗菌薬使用・感染対策プロセス指標等 | AST活動・AMR対策の評価 |
5. 抗菌薬適正使用支援加算
抗菌薬適正使用支援加算は、ASTの活動を診療報酬上評価する加算で、感染対策向上加算1の届出と組み合わせて算定する設計とされています。広域抗菌薬・特定抗菌薬を使用する症例に対する主治医への介入、抗菌薬使用量サーベイランス、院内研修等の活動が要件として位置づけられ、AMR対策アクションプランの実装を診療報酬の側から支える役割を担います(厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」関連資料)。
5-1. 算定要件の考え方
抗菌薬適正使用支援加算の算定には、ASTの構成(感染症診療・抗菌薬適正使用に関する所定の知識・経験を有する医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師等)、所定の症例に対するモニタリング・介入の実施、抗菌薬使用量のサーベイランス、定期的な院内研修の開催等の要件が定められています。要件は告示・通知で詳細が示されており、専従/専任の人員区分、回数等は改定で見直される可能性があるため、厚生労働省の最新公開資料を確認することが前提となります。
5-2. 主治医への介入と記録
ASTの介入は、主治医の処方権を尊重しつつ、感染症学的に望ましい抗菌薬選択・投与量・投与期間を提案する形で行われることが一般的です。介入の内容・主治医の対応・最終的な処方変更の有無等を記録し、症例レビューや院内勉強会で共有する仕組みは、活動の質を担保するうえで重要です。介入記録は、サーベイランスや診療報酬上の活動実績の根拠資料としても機能します。
5-3. 抗菌薬使用量サーベイランス
抗菌薬使用量サーベイランスは、AUD(Antimicrobial Use Density:使用量密度)等の指標を用いて、自院の抗菌薬使用パターンを定量的に把握する取り組みです。広域抗菌薬・特定抗菌薬の使用量推移、使用日数(DOT:Days of Therapy)等を継続的にモニタリングすることで、適正使用に向けた介入対象を特定できます。これらの指標は、J-SIPHE等のサーベイランスでも採用されており、全国比較によって自院の位置づけを確認する材料となります。
5-4. AMR対策アクションプランとの関連
厚生労働省の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」では、医療機関における抗菌薬適正使用支援の体制整備が重点項目として位置づけられています。抗菌薬適正使用支援加算は、このアクションプランの実装を診療報酬の側から後押しする加算であり、医療機関のAST活動が国全体のAMR対策に貢献する位置づけとして整理されます。経営層は、加算算定のための要件遵守だけでなく、AMR対策の社会的意義を理解したうえで体制整備を進めることが望まれます(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料)。
6. 感染対策研修・職員教育の体制
感染対策研修は、医療法上の義務であると同時に、感染対策向上加算・外来感染対策向上加算の施設基準でも要件化されている領域です。研修の対象範囲・頻度・記録方法を整備し、すべての職員が標準予防策・経路別予防策・手指衛生・職業感染対策の基礎を理解している状態を維持することが、組織的な感染対策の前提となります。
6-1. 研修対象と頻度
院内感染対策研修は、医師・看護師等の直接ケア提供職員だけでなく、リハビリ職・薬剤師・臨床検査技師・事務職員・清掃委託職員等を含むすべての関係者を対象とすることが基本です。診療報酬上の施設基準では、定期的な研修の実施(年複数回など)が要件として定められる場合があり、研修回数・受講記録・テーマ等を整理して保管しておく必要があります。新規採用職員・委託職員に対するオリエンテーション時の研修も、組織的に組み込むことが望まれます(厚生労働省「医療機関等における院内感染対策」関連資料)。
6-2. 研修内容の設計
研修内容は、標準予防策・経路別予防策・手指衛生・PPE(個人防護具)使用・医療器具関連感染対策(カテーテル関連血流感染・人工呼吸器関連肺炎・カテーテル関連尿路感染等)・職業感染対策・アウトブレイク対応の基礎などを基本とし、必要に応じて新興・再興感染症対応や、自院で課題となっている領域を重点的に扱う設計が考えられます。日本環境感染学会・国立感染症研究所等が公表する資料を参考に、自院の状況に合わせて教材を整備することが現実的です。
6-3. 研修記録と監査対応
研修の実施実績は、施設基準の届出・地方厚生(支)局の適時調査等での確認対象となり得るため、受講者名簿・テーマ・教材・修了確認の方法を組織的に記録・保管することが重要です。e-learningを活用する場合は、受講ログ・修了テスト結果の自動記録が、運用負荷を抑えながら記録を残す手段となります。記録の保管期間・様式は、自院の規程と関連通知に従って整備する必要があります。
6-4. 委託職員・新規採用者への対応
院内に出入りする委託職員(清掃・給食・警備・施設管理等)も、感染対策の対象範囲に含まれます。委託先との契約・運用ルールに、感染対策研修・標準予防策遵守を明記し、委託先内部の教育状況の確認や、必要に応じて病院主催の研修への参加機会を提供することが、組織全体の感染対策レベルを引き上げる取り組みとなります。新規採用者については、入職時オリエンテーションで基本事項を教育し、配属後も継続研修につなげる流れが基本です。
7. 経営インパクト(点数面と運用負荷)
感染対策加算の経営インパクトは、点数による収益効果と、体制整備に伴う運用負荷の双方を総合的に評価する必要があります。加算の点数水準・算定対象患者数によって収益効果は変動し、専従人員配置や研修・サーベイランスの運用には継続的な人件費・時間が発生します。具体的な点数・算定要件は告示・通知で定められ改定で見直されるため、最新の厚生労働省資料に基づいて自院の試算を行うことが前提となります。
7-1. 加算算定による収益効果の考え方
感染対策向上加算は入院基本料等加算として、対象入院患者の入院初日等に加算される設計とされており、年間の収益効果は加算点数・算定対象患者数・算定回数に依存します。自院の入院患者数・平均在院日数・対象患者の割合を基に、加算別の年間想定収益を試算したうえで、体制整備に要する人件費・教育費・サーベイランス運用コスト等と比較することが、合理的な経営判断につながります。試算は厚生労働省告示・通知の最新点数を参照し、改定見込みを織り込むことが重要です(厚生労働省「診療報酬の算定方法」関連資料)。
7-2. 体制整備に伴う運用負荷
加算1の体制は、専従または専任の感染制御担当者の配置、ICT・ASTの定期的活動、JANIS等のサーベイランス参加、地域連携カンファレンスへの参加など、継続的な運用負荷を伴います。これらは「届出時の一過性の整備」ではなく、毎月・毎年の継続業務として組織に組み込む必要があり、人員確保・業務時間の捻出・ITシステムによる業務効率化等の総合的な設計が前提となります。経営層は、加算算定そのものではなく、それを支える体制を維持できるかを判断する必要があります。
7-3. 算定区分の選択
感染対策向上加算1〜3のいずれを目指すかは、病院の規模・機能・地域での役割・人員確保の見通しによって判断することが現実的です。加算1は地域の感染対策中核病院として、加算1医療機関と連携する形で加算2・3を選択する病院もあり、地域全体としての感染対策ネットワークを構成する位置づけです。自院単独で最上位を目指すよりも、地域の中での役割分担を踏まえて区分を選択する考え方が、無理のない体制設計につながります。
7-4. リスク管理としての位置づけ
感染対策は、加算による収益効果だけでなく、医療関連感染・アウトブレイク発生時の経営インパクト(病棟閉鎖・新規入院制限・風評影響等)を抑制する観点でも経営テーマです。仮にアウトブレイクが発生した場合、入院制限による収益損失、対応に要する人員・物品・コミュニケーションコストは大きく、平時の感染対策投資は事業継続のための保険的支出としても位置づけられます。経営層は、収益と保険の双方の観点から、感染対策投資の意義を整理することが望まれます。

8. 2024年改定の影響と2026年改定見込みの確認ポイント
令和6年度(2024年度)診療報酬改定では、感染対策向上加算・外来感染対策向上加算・関連加算について、要件・点数の見直しが行われた経緯があります。感染症法上の新興感染症対応との整合、AMR対策の強化、地域連携の実効性確保などが論点となっており、自院がどの加算区分にあり、どの要件が変更されたかを丁寧に確認することが必要です(厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」関連資料)。
8-1. 2024年改定で着目された論点
2024年改定では、感染症法に基づく新興感染症対応の協定締結医療機関制度との整合、外来感染対策向上加算医療機関の連携体制、サーベイランス強化、AST活動の実効性確保などが議論されました。詳細な改定内容は中央社会保険医療協議会(中医協)の答申・告示・通知で示されており、自院の体制が改定後の要件と整合しているか、届出変更・記録様式の見直しが必要かを点検することが、改定対応の基本です。改定の解釈・運用については、地方厚生(支)局の通知・疑義解釈を併せて確認する必要があります。
8-2. 2026年改定見込みの確認の進め方
診療報酬改定は概ね2年ごとに実施されており、次回改定(令和8年度/2026年度)に向けた議論は、中医協および関連する分科会・部会で進められます。改定見込みについての一次情報は、中医協の議事・資料が中心となり、厚生労働省ホームページで公開される資料、答申、告示・通知が確定的な根拠となります。経営層は、改定議論の方向性を把握しつつも、未確定情報に基づく断定的判断を避け、確定した告示・通知に基づいて自院の体制を見直すことが重要です(厚生労働省「中央社会保険医療協議会(中医協)」関連資料)。
8-3. 改定対応の社内プロセス
改定対応は、感染対策委員会・医事課・経営企画部門・人事部門等が連携して進めることが現実的です。改定情報の収集、自院体制との突合、届出変更の要否判断、研修内容の更新、記録様式の見直し、関係職員への周知、までを一連のプロセスとして設計し、改定スケジュールに合わせて段階的に進める運用が望ましい姿です。中小規模の病院では、地域の感染対策ネットワーク(加算1医療機関主催のカンファレンス等)の情報を積極的に活用することも、改定対応の負担軽減に寄与します。
8-4. 改定情報の確認先一覧
| 情報源 | 主な内容 | 確認の位置づけ |
|---|---|---|
| 厚生労働省 診療報酬改定ページ | 改定の概要・告示・通知 | 確定情報の一次情報 |
| 中医協(中央社会保険医療協議会)資料 | 改定論点・答申資料 | 議論の方向性把握 |
| 地方厚生(支)局通知・疑義解釈 | 運用上の解釈・実務対応 | 個別判断の根拠 |
| 関連学会・専門団体 | 実務ガイダンス・解説 | 運用設計の参考 |
9. このテーマに優先的に取り組まなくてよいケース
院内感染対策はすべての医療機関に共通する重要テーマですが、加算算定を前提とした体制強化への投資判断については、自院の状況によって優先順位が変わります。ここでは、加算アップグレードを急がず現体制の維持・改善を優先したほうが合理的なケースを整理します。なお、医療法に基づく基礎的な感染対策(指針・委員会・研修等)は、すべての病院で必須であり、これらは優先順位の議論の対象外です。
9-1. 必要な人員確保の目処が立たない場合
感染対策向上加算1の体制は、専従または専任の感染制御担当者・ICT・AST等の継続的な人員配置が前提となります。地域の医療人材市場の状況によっては、要件を満たす人員確保の目処が立たない場合があり、その状況で無理に加算1を目指すことは持続可能性の観点で適切でないケースがあります。現実的な人員確保の見通しに応じて、加算2・3や、加算1医療機関との連携先としての位置づけを選択することが、健全な体制設計につながります。
9-2. 他の経営課題の優先度が高い場合
建物・基幹設備の老朽化対応、人員確保の困難、他の重点的な施設基準対応など、より緊急度の高い経営課題を抱えている場合は、現行の感染対策体制を維持しつつ、優先度の高い課題から着手することが合理的な判断となるケースがあります。感染対策加算のアップグレードは、体制が整ったタイミングで段階的に進める設計が現実的です。
9-3. 地域連携先の整理がついていない場合
感染対策向上加算は地域連携を要件に組み込んでおり、加算1医療機関・加算2・3医療機関・外来感染対策向上加算医療機関がネットワークを構成することが前提です。地域内の連携先・連携体制の整理が十分でない段階では、まず地域の感染対策ネットワークへの参加・カンファレンスへの出席を通じて関係性を構築し、その後に届出体制を整える順序が現実的なケースがあります。
10. よくある質問(FAQ)
- Q1. 感染対策向上加算1〜3はどのように違うのですか?
- A. 感染対策向上加算1〜3は、組織的な感染対策体制の充実度に応じて区分された加算で、加算1は専任部門・ICT・AST・サーベイランス参加・地域連携の中核を担う体制を、加算2・3はそれよりも基礎的な体制を評価する設計とされています。加算1医療機関と加算2・3医療機関・外来感染対策向上加算医療機関がカンファレンス等で連携する地域ネットワーク構造が要件に組み込まれています。具体的な点数・要件は告示・通知で定められ改定で見直されるため、最新の厚生労働省資料を確認してください。
- Q2. ICTとASTを両方設置しなければなりませんか?
- A. 感染対策向上加算1の届出に当たっては、ICTおよびASTの設置が要件に位置づけられており、加算2以下については体制要件が異なります。両チームは目的・対象範囲が異なるため、加算1を目指す病院では両方の設置・運用が前提となります。要件の詳細・人員配置は告示・通知で定められているため、自院の体制が要件を満たしているかは厚生労働省告示・通知および地方厚生(支)局の疑義解釈で確認してください。
- Q3. JANISへの参加は必須ですか?
- A. JANIS等の院内感染対策に資するサーベイランスへの参加は、感染対策向上加算の要件に組み込まれている領域です。参加部門の選択や運用方法は、自院の機能・体制に応じて設計することが基本です。届出の際は、参加が要件を満たすサーベイランスに該当するかを含めて、最新の告示・通知および疑義解釈で確認してください(厚生労働省「JANIS」関連資料)。
- Q4. 外来感染対策向上加算はクリニック単独で算定できますか?
- A. 外来感染対策向上加算は、外来診療を行う保険医療機関(診療所等を含む)における感染対策体制を評価する加算で、入院機能を持たない医療機関でも算定対象となる設計とされています。指針・委員会の整備、職員研修、感染対策向上加算1医療機関等との連携などが要件に含まれます。届出の可否は、最新の告示・通知および地方厚生(支)局の疑義解釈で確認してください。
- Q5. AMR対策アクションプランと診療報酬上の評価はどう関係しますか?
- A. 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」は、医療機関における抗菌薬適正使用支援の体制整備を重点項目に位置づけており、抗菌薬適正使用支援加算やAST関連の要件は、このアクションプランの実装を診療報酬の側から支える役割を担っています。経営層は、加算算定のための要件遵守だけでなく、AMR対策の公衆衛生上の意義を理解したうえで、自院の体制を整えることが望まれます(厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」関連資料)。
- 📌 あなたが次にやるべき1つの行動
- 関連サービスの公式サイトで、対応規模・料金プラン・申込方法をご確認ください。所要時間や手続きは各サービスの公式情報を参照してください。
11. 出典・参考資料
- 厚生労働省「医療法」関連資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/index.html (取得日:2026-06-12)
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html (取得日:2026-06-12)
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法(告示)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352.html (取得日:2026-06-12)
- 厚生労働省「医療機関等における院内感染対策について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061875.html (取得日:2026-06-12)
- 厚生労働省「JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)」 https://janis.mhlw.go.jp/ (取得日:2026-06-12)
- 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html (取得日:2026-06-12)
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会(中医協)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128154.html (取得日:2026-06-12)
- 国立感染症研究所「感染症情報」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases.html (取得日:2026-06-12)
- 日本環境感染学会 公式サイト http://www.kankyokansen.org/ (取得日:2026-06-12)
【免責事項】本記事は厚生労働省告示・通知、国立感染症研究所・日本環境感染学会等の公開情報を整理することを目的としており、特定の施設基準の届出可否や、特定の感染対策手法・抗菌薬選択の有効性を保証するものではありません。感染対策向上加算等の点数・要件は告示・通知の改訂や年度の見直しにより変動します。個別判断は厚生労働省・地方厚生(支)局・日本環境感染学会・院内の感染症専門医等にご確認ください。本記事は医療行為・診断・治療の助言を含みません。本記事の情報利用によって生じた損害について、mitoru編集部は責任を負いません。
最終更新日:2026年6月12日|編集方針
関連記事(mitoru編集部おすすめ)
mitoru編集部の見解
医療法人の会計・税務は、定期同額給与の3ヶ月ルール、事前確定届出給与の届出期限、分掌変更否認のリスクなど、一般法人と異なる運用が必要です。クラウド会計の導入だけでなく、税理士との連携体制を併せて整えることをmitoru編集部は推奨します。