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医療機関の会計監査・内部会計統制は、単に「決算数値が合っているか」を確認する作業ではなく、地域医療の担い手としての社会的信頼性、金融機関・取引先に対する説明責任、法人内部の不正防止・業務効率化を支える経営基盤です。一定規模を超える医療法人には公認会計士・監査法人による外部の会計監査が義務づけられており、あわせて監事監査・内部統制の整備が法人ガバナンスの両輪として位置づけられています。制度の全体像を理解しないまま個別の手続だけを追うと、監査対応が場当たり的になり、監査報酬や事務負担が想定以上に膨らむこともあります。本記事は厚生労働省・金融庁・国税庁等の公開情報を整理し、医療法人会計基準、会計監査の仕組み、監査対象法人の要件、監査契約と監査報酬の相場感、内部統制の3線防御モデル、監事監査と独立性確保、財務諸表4種類、税務調査との違いまでを一体的にまとめています。
この記事の対象読者:医療法人の理事長・事務長、経理・財務担当者、監事、内部監査担当者、これから会計監査人設置を検討する法人の実務担当者。
この記事でわかること
- 医療機関における会計監査・内部会計統制がガバナンス上どう位置づけられているか
- 医療法人会計基準に基づく財務諸表作成の考え方
- 公認会計士・監査法人による会計監査(外部監査)の仕組みと監査報告書の意見類型
- 監査対象法人の要件(社会医療法人・特定医療法人・大規模医療法人の閾値)
- 監査契約締結の実務ポイントと監査報酬の相場感
- 内部統制の3線防御(スリーラインディフェンス)モデルの考え方
- 監事監査と会計監査人監査の役割分担・独立性確保の論点
- 財務諸表4種類の基礎知識と税務調査との違い
1. 医療機関における会計監査とガバナンスの重要性
医療法人は医療法第39条以下に基づき設立される非営利法人であり、地域医療提供体制を支える公共性の高い事業主体として位置づけられています。医療法第51条は事業報告書・財産目録・貸借対照表・損益計算書等の作成と都道府県への届出を求めており、一定規模以上の医療法人には、公認会計士または監査法人による会計監査人監査を受けることが求められる仕組みが整備されています(出典:厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html、取得日:2026-09-24)。
会計監査は「不正を見つけるための手続」というイメージを持たれがちですが、本質的には財務諸表が会計基準に準拠して適正に表示されているかについて、独立した第三者が意見表明を行う手続です。あわせて、法人内部の統制活動(内部統制)が整っているかどうかも監査手続の前提条件として評価されます。会計監査と内部会計統制は別制度ではなく、内部統制がしっかりしている法人ほど監査の効率が上がり、対応負担も軽くなるという相互補完の関係にあります。ガバナンス強化の観点からは、外部監査・監事監査・内部統制の三者を切り離さず一体で設計することが実務上重要です。
2. 医療法人会計基準の基本構造と財務諸表4種類
医療法人会計基準(平成28年厚生労働省令第95号)は、医療法人の非営利性・公益性を踏まえ、会社計算規則や公益法人会計基準とは異なる医療法人固有の会計処理を体系化したものです。一定規模を超える医療法人はこの基準に沿って財務諸表を作成し、都道府県への届出資料に反映させる運用です(出典:厚生労働省「医療法人会計基準について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121309.html、取得日:2026-09-24)。
財務諸表4種類の基礎知識
医療法人会計基準に基づく財務諸表は、主に次の4種類で構成されると整理されています。それぞれの書類が示す情報の性質を理解しておくと、監査対応や経営会議での数値説明がスムーズになります。
| 書類 | 示す情報 |
|---|---|
| 貸借対照表 | 決算日時点の資産・負債・純資産の残高(法人の財政状態) |
| 損益計算書 | 1事業年度の医業収益・医業費用・経常損益等の収支状況 |
| 純資産変動計算書 | 1事業年度における純資産(基金・積立金等)の増減内訳 |
| キャッシュ・フロー計算書 | 一定規模以上の法人に作成が求められる、資金の増減状況(営業・投資・財務活動別) |
これらに加え、附属明細表や注記事項の整備が求められる場合もあります。会計監査人監査では財務諸表全体が会計基準に準拠して作成されているかが検証対象となるため、日々の会計処理の段階から勘定科目の整理・証憑保存を適切に行うことが決算・監査対応の負担軽減につながります。
3. 公認会計士・監査法人による会計監査の仕組みと監査報告書
会計監査人監査は、公認会計士または監査法人が独立した立場から財務諸表を検証し、監査意見を表明する手続です。法人内部で完結する監事監査・内部監査とは異なり、外部の専門家が監査基準(企業会計審議会)に沿って手続を設計・実施し、結果を監査報告書としてまとめる点が特徴です。監査意見には複数の類型があり、財務諸表の適正性の程度に応じて使い分けられます。

| 監査意見の類型 | 概要 |
|---|---|
| 無限定適正意見 | 財務諸表が全ての重要な点において適正に表示されている |
| 限定付適正意見 | 一部の事項を除き適正に表示されている |
| 不適正意見 | 財務諸表が適正に表示されていないと判断された |
| 意見不表明 | 意見表明の基礎となる十分な証拠が得られなかった |
監査報告書は、監査意見に加えて、意見の根拠、監査上特に重要と判断した事項(該当する場合)、経営者及び監査役等の責任、監査人の責任などが記載される文書です。法人側にとっては、監査報告書に付された意見の内容そのものだけでなく、意見の根拠として指摘された事項がないかを確認し、次年度以降の会計処理・内部統制の改善につなげる視点が重要になります。
4. 監査対象法人の要件(社会医療法人・特定医療法人・大規模医療法人)
医療法および医療法施行規則は、規模の大きい医療法人に会計監査人による外部監査を義務づけています。義務化の判定は法人区分ごとに異なる閾値によって行われ、最終事業年度の負債合計額または事業収益合計額が基準を超えた場合に会計監査人設置が求められる整理です(出典:e-Gov法令検索「医療法施行規則」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100050、取得日:2026-09-24)。
| 法人区分 | 主な閾値の考え方 |
|---|---|
| 一般の医療法人 | 負債合計額50億円以上、または事業収益合計額70億円以上 |
| 特定医療法人 | 負債合計額50億円以上、または事業収益合計額70億円以上 |
| 社会医療法人 | 負債合計額20億円以上、または事業収益合計額10億円以上 |
| 社会医療法人債発行法人 | 債券発行時点で会計監査人設置対象 |
実務では、決算作業の過程で当該事業年度の負債合計額・事業収益合計額を試算し、閾値超過が見込まれる段階から会計監査人選任の準備を始める運用が一般的です。自法人が現時点で対象かどうか、今後の事業拡大・M&Aで対象になり得るかは、所管の都道府県医務主管課や顧問の公認会計士・税理士に確認しておくと安心です。
5. 監査契約締結の実務ポイントと監査報酬の相場感
会計監査人の選任は、社団医療法人では社員総会、財団医療法人では評議員会の決議によることが基本とされ、監事の同意等の関連手続も整備されています。選任後は監査契約を締結し、監査範囲・監査計画・監査報酬などを書面で取り決めます。初年度契約では前期繰越残高の検証や内部統制の初期評価に相応の工数がかかるため、通年契約と異なる論点を確認しておくことが実務的です。
- 監査対象・監査範囲:本部・分院・関連施設のうちどこまでを監査範囲に含めるか
- 監査計画・実施時期:期中往査・期末往査・四半期レビューの有無とスケジュール
- 監査報酬の算定根拠:固定報酬部分と工数連動部分の内訳、追加業務発生時の取扱い
- 資料提供・照会対応の体制:法人側の窓口担当、証憑保存・データ抽出の対応方法
- 秘密保持・情報セキュリティ:患者情報等の機微情報を扱う医療機関特有の取決め
監査報酬の水準は公的に一律の基準が定められているものではなく、監査法人・案件ごとの個別見積りによって幅があります。法人規模・拠点数・内部統制の整備状況・関連当事者取引の複雑性・初年度か継続年度かといった要素によって工数が変わり、これに応じて報酬水準も変動するとされています。事前に複数の監査法人から監査計画案・工数見積りの説明を受け、比較したうえで選定することが実務的です。監査報酬の決定手続には監事等の同意を要する枠組みが整備されており、法人ガバナンス上の透明性確保にもつながります(出典:厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html、取得日:2026-09-24)。
6. 内部統制の3線防御(スリーラインディフェンス)モデル
内部統制は、財務報告の信頼性・業務の有効性及び効率性・資産の保全・法令等の遵守を目的とし、統制環境・リスク評価・統制活動・情報と伝達・モニタリング活動の5要素で整理される考え方が広く用いられています(出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/kijun/naibutousei.html、取得日:2026-09-24)。これを組織内でどう機能させるかを整理する枠組みとして、3線防御(スリーラインディフェンス)モデルがしばしば参照されます。

| 防御ライン | 担う機能 | 医療機関での例 |
|---|---|---|
| 第1線(現場部門) | 業務執行の中で日常的に行うリスク管理・自己点検 | 経理・購買・薬剤部門等が伝票確認や承認手続を実施 |
| 第2線(管理部門) | 全社的なリスク管理・コンプライアンス管理・モニタリング | 経営企画・コンプライアンス部門が規程整備や研修を実施 |
| 第3線(内部監査・監事) | 第1線・第2線から独立した立場での検証・評価 | 内部監査部門・監事が業務プロセスを独立して点検 |
医療機関における内部統制整備の実務では、決算・財務報告、購買・支払、医療材料・医薬品在庫、給与計算、固定資産管理、関連当事者取引の識別、寄附・補助金受入、資金管理などのプロセスごとに権限分掌・承認手続・記録保存・モニタリングを整備する対応が典型的とされています。業務フロー図やリスクコントロールマトリクス(RCM)を整えておくと会計監査人からの照会にも対応しやすく、3線が独立して機能しているかどうかも、内部統制を評価する際の着眼点の一つになります。
7. 監事監査と会計監査人監査の役割分担・独立性確保
医療法人には監事の設置が義務づけられており、監事は法人の業務執行や財産の状況を監査する役割を担います。会計監査人監査(外部監査)と監事監査は、いずれも法人の適正な運営を支える機関ですが、立場と役割が異なります。会計監査人は外部の独立した専門家として財務諸表の適正性に意見表明を行うのに対し、監事は法人内部の機関として業務執行全般の適法性・妥当性を確認する立場です。両者は情報共有・連携を行いながらも、それぞれ独立した判断を行うことが期待されています。
- 監事の主な役割:理事の業務執行状況の監査、会計監査人の職務遂行体制に関する意見陳述、社員総会・評議員会への報告
- 会計監査人の主な役割:財務諸表の適正性についての意見表明、監査報告書の作成
- 独立性確保の考え方:会計監査人が法人の経営陣から独立した立場を保つこと(利害関係の有無の確認、監査契約の透明な決定プロセス等)
- 連携のポイント:監事と会計監査人が定期的に情報交換を行い、内部統制上の課題認識をすり合わせる
会計監査人の独立性は、公認会計士法や日本公認会計士協会の倫理規則等に基づき確認される事項であり、監査契約の締結・報酬決定に監事の同意を要する枠組みも独立性確保の一環です。法人側も会計監査人に不当な圧力をかけず、指摘事項に誠実に対応することが監査の質と法人の信頼性向上につながります。
8. 税務調査との違い
医療法人が受ける外部の確認手続には、会計監査人監査のほかに税務当局による税務調査があります。両者は目的・法的根拠・実施主体が異なる別制度であり、混同しない整理が必要です。会計監査人監査は、財務諸表の適正性について意見表明することを目的とし、医療法・医療法人会計基準・監査基準に基づいて実施されます。一方、税務調査は法人税・消費税・源泉所得税等の申告内容の適否を確認する目的で、国税通則法等に基づき国税当局・地方税当局が実施する手続です(出典:国税庁「税務調査手続に関するFAQ」https://www.nta.go.jp/law/procedure/syotoku/kansa/index.htm、取得日:2026-09-24)。

| 観点 | 会計監査人監査 | 税務調査 |
|---|---|---|
| 目的 | 財務諸表の適正性の意見表明 | 税務申告内容の適否確認 |
| 法的根拠 | 医療法・医療法人会計基準・監査基準 | 国税通則法・各税法 |
| 実施主体 | 公認会計士・監査法人 | 国税当局・地方税当局 |
| 結果として作成される書類 | 監査意見・監査報告書 | 指摘事項・修正申告・更正等の通知 |
会計監査人監査で財務諸表の適正性が確認されても、税務上の取扱いは別途、税法に基づき判断されます。両者は代替関係ではなく補完関係にあり、法人ガバナンス上はいずれの手続にも耐えうる帳簿・証憑の整備を日頃から行っておくことが基本です。
9. ガバナンス強化に向けた実務チェックリスト・Q&A
Q1. 会計監査人の設置義務はどの段階で発生しますか?
医療法施行規則の規定に基づき、最終事業年度の負債合計額または事業収益合計額が法人区分ごとの閾値を超えた事業年度から、会計監査人設置が求められる整理とされています。閾値超過が見込まれる段階から、選任準備・監査契約の締結・内部統制の整備を並行して進めておくことが望ましいとされています。個別の該当判定は所管の都道府県医務主管課にご確認ください。
Q2. 監事監査だけでは不十分なのでしょうか?
監事監査は法人内部の機関による監査であるのに対し、会計監査人監査は外部の独立した専門家による監査です。両者は目的・手続が異なり、一方が他方を代替するものではありません。義務化対象に該当しない法人でも、内部統制の整備状況を監事監査の中で確認し、任意で外部の会計専門家によるレビューを検討する法人もあります。
Q3. 内部統制の整備はどこから着手すればよいですか?
決算・財務報告プロセスなど財務諸表への影響が大きい業務から優先的に業務フロー図・承認手続を文書化し、権限分掌が明確かを確認するところから着手する法人が多いとされています。あわせて購買・在庫管理・給与計算など取引量の多いプロセスも、承認・記録・モニタリングの流れを整理しておくと監査対応の負担軽減につながります。
会計監査・内部会計統制チェックリスト
- 会計監査人設置の義務化対象(またはその見込み)に該当するか確認しているか
- 医療法人会計基準に基づく財務諸表4種類を適切に作成できる体制があるか
- 監査契約の範囲・報酬・スケジュールを書面で取り決めているか
- 内部統制の3線(現場・管理部門・内部監査/監事)の役割分担が明確か
- 監事と会計監査人が定期的に情報交換する機会を設けているか
- 業務フロー図・RCMなどの内部統制文書を整備しているか
- 税務調査と会計監査人監査の違いを法人内で正しく理解しているか
- 監査報告書の指摘事項を翌年度の業務改善に反映する仕組みがあるか
10. 次の1ステップ
本記事を読み終えたら、まず「自法人の直近の決算数値(負債合計額・事業収益合計額)を確認し、会計監査人設置の義務化基準に該当するか、または近い将来該当する見込みがあるかを試算する」という最小アクションから始めることをお勧めします。該当の可能性がある場合は、早めに顧問の公認会計士・税理士や所管の都道府県医務主管課に相談し、内部統制の整備状況の棚卸しと合わせて準備を進めることをお勧めします。
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出典
- 厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html(取得日:2026-09-24)
- 厚生労働省「医療法人会計基準について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121309.html(取得日:2026-09-24)
- e-Gov法令検索「医療法」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000205(取得日:2026-09-24)
- e-Gov法令検索「医療法施行規則」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100050(取得日:2026-09-24)
- 金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/kijun/naibutousei.html(取得日:2026-09-24)
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」https://www.nta.go.jp/law/procedure/syotoku/kansa/index.htm(取得日:2026-09-24)
- 日本公認会計士協会 https://jicpa.or.jp/(取得日:2026-09-24)
免責事項
本記事は厚生労働省・金融庁・国税庁・e-Gov法令検索・日本公認会計士協会等の公開情報を整理した一般的な情報です。会計監査人設置義務の該当判定、監査契約の内容、監査報酬の水準、内部統制の整備範囲、監事監査との役割分担等は法人ごとの個別事情によって異なるため、実際の対応にあたっては所管の都道府県医務主管課、委嘱する公認会計士・監査法人・税理士・医療法務専門職にご確認ください。関連法令・会計基準は改正されることがあるため、実務適用時は最新情報をご確認ください。記載内容は2026-09-24時点の公開情報に基づきます。
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mitoru編集部の見解
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