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病院の医療安全管理室は、院内で発生するインシデント・アクシデントの情報集約、根本原因分析(RCA)、再発防止策の立案・院内展開、医療安全研修の企画運営、医療事故調査制度への対応などを担う組織横断的な部門です。医療法および医療法施行規則で規定された医療安全管理体制の中核機能を果たしており、特定機能病院・臨床研修病院を中心に専従の医療安全管理者を配置する運用が広く定着しています。2015年10月の医療事故調査制度施行、2024年度診療報酬改定における医療安全対策加算の見直しなどを受け、医療安全管理室の役割はさらに拡大しています。
本記事は病院の院長・副院長・医療安全管理室長・医療安全管理者・事務長を主な読者と想定し、医療安全管理室の法的位置づけ、医療安全管理者の要件、インシデント報告制度、RCA(根本原因分析)の運用、他施設との相互ラウンド、医療安全研修、医療事故調査制度対応、2024年度診療報酬改定の関連項目について、厚生労働省・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)・日本医療機能評価機構等の公開情報を整理した内容としてまとめています。個別の事案対応・法令適合の可否判断は、所定の専門人材と各所管官庁にご確認ください。
この記事で分かること
- 医療安全管理室の法的位置づけ(医療法・医療法施行規則)
- 医療安全管理者の要件と業務範囲
- インシデント・アクシデント報告制度の運用と分類(SHEL/mSHEL)
- RCA(根本原因分析)の手順とImSAFERの概要
- 他病院との相互ラウンドの枠組み(医療安全対策地域連携加算)
- 医療安全研修(全職員対象・年2回以上)の運用
- 2015年施行の医療事故調査制度への対応
- 2024年度診療報酬改定における医療安全対策加算関連
1. 医療安全管理室の位置づけ
医療安全管理体制は、医療法第6条の12および医療法施行規則第1条の11で規定されており、全ての病院・診療所(有床)に対し、医療安全管理指針の整備、医療事故等の院内報告制度の整備、医療安全管理委員会の設置、職員研修の実施が求められています。加えて、特定機能病院・臨床研修病院・地域医療支援病院等では、専任または専従の医療安全管理者の配置、医療安全管理部門(医療安全管理室)の設置が求められる運用が整理されています。医療安全管理室は院長直轄で設置されることが一般的で、院内の各部門・診療科から独立した立場で医療安全に関する情報集約と改善活動を担います。
医療安全管理室の構成員は、専従の医療安全管理者(GRM:General Risk Manager と呼ばれる場合もあり)を中心に、医師・看護師・薬剤師・臨床工学技士・診療放射線技師・臨床検査技師・事務職員などの多職種で構成される事例が広く見られます。院内の医療安全管理委員会・医薬品安全管理責任者・医療機器安全管理責任者・感染制御室(ICT)等との連携が業務の基盤となります。
2. 医療安全管理者の要件
医療安全管理者は、厚生労働省「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」で業務範囲・養成研修の要件が整理されている職種で、医師・歯科医師・薬剤師・看護師・その他医療有資格者から選任される運用が広く採用されています。指針では、医療安全管理者に求められる養成研修として「40時間以上の研修」を修了することが目安として示され、日本看護協会・日本医師会・国立保健医療科学院等の関連団体が研修プログラムを提供しています。
| 業務領域 | 主な業務内容 |
|---|---|
| 安全管理体制の構築 | 医療安全管理指針・マニュアルの策定と改訂、医療安全管理委員会運営 |
| 情報の収集と分析 | インシデント・アクシデント報告の集約、RCA実施、傾向分析 |
| 再発防止策の立案 | 改善策の策定、院内展開、実施状況モニタリング |
| 研修・教育 | 全職員対象研修(年2回以上)の企画運営、部署別研修支援 |
| 相談・調整 | 患者・家族相談窓口との連携、部門間調整 |
| 事故対応 | 医療事故発生時の初動対応、医療事故調査制度への対応 |
3. インシデント・アクシデント報告制度
院内インシデント報告制度は、医療事故の芽となるヒヤリ・ハット事例(インシデント)から患者に影響が及んだ事例(アクシデント)までを職員が報告し、組織全体で共有・分析する仕組みで、医療安全管理体制の基盤機能です。報告は非懲罰・非難しないという原則(Just Cultureの考え方)に基づき運用され、報告文化の醸成が長期的な安全性向上に寄与するとされています。
報告事例の分類は、患者への影響度に応じたレベル分類(レベル0:エラーの発生に気付いたが実施される前に発見/レベル1:エラーの実施はあったが患者への実害なし/レベル2:処置や治療は不要/レベル3a:簡単な処置や治療を要した/レベル3b:濃厚な処置や治療を要した/レベル4:永続的な障害/レベル5:死亡)が広く採用されています。日本医療機能評価機構が運営する医療事故情報収集等事業への報告(登録医療機関)と、院内の詳細分析が両輪で運用されます。
近年は電子カルテ連動のインシデントレポートシステム(RRS:Reporting System)の導入が進み、報告のハードル低下・集計分析の効率化・部門横断的な傾向把握が実現されています。導入時は既存のワークフローとの整合、報告項目の標準化、分析結果のフィードバック体制の整備が要点となります。
4. RCA(根本原因分析)
RCA(Root Cause Analysis:根本原因分析)は、レベル3b以上の重大事例やレベル3a以下でも重要な学習機会となる事例に対し、多職種チームで時系列に沿って事象を整理し、直接原因の背景にある根本原因(システム要因)を特定する手法です。個人の責任追及ではなく、システム改善につながる要因を抽出することが目的で、SHELモデル・mSHELモデル・4M4E・ImSAFER・SafetyII等の分析フレームワークが活用されています。
ImSAFER(Improvement for Medical Safety of Adverse Events Records)は、厚生労働科学研究等の成果として国内で開発された医療安全分析手法で、事象の記述・要因抽出・対策立案の各段階を標準化した手順が示されています。日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業でも、集約された事例の分析にRCA的手法が活用されており、公表される医療安全情報・年報が院内の学習資源として広く利用されています。
RCA実施時は、対象事例の選定基準、分析チーム構成、実施時間の確保、成果物(対策案・実施計画・モニタリング指標)の運用ルールをあらかじめ院内で標準化しておくことが有用です。分析結果は医療安全管理委員会で審議し、実施状況のフォローアップまで一貫した運用が求められます。
5. 相互ラウンド
他病院との相互ラウンドは、複数の医療機関が相互に訪問し、それぞれの医療安全管理体制・現場運用を第三者視点で確認し合う取り組みで、2010年度診療報酬改定で創設された「医療安全対策地域連携加算」(現行の医療安全対策地域連携加算1・2)の要件となっている運用です。相互ラウンドは、自院では気づきにくい業務手順・設備・体制の課題を外部視点で発見できる利点があり、参加病院間の医療安全に関する知見共有の場としても機能しています。
相互ラウンドの実施項目は、連携する病院間で事前に協議のうえ標準化される事例が多く、患者確認手順・薬剤管理・輸血管理・手術室運用・転倒転落対策・医療機器管理・感染対策との重複領域等が含まれます。実施後は評価結果を共有し、改善計画に反映するPDCAサイクルの運用が求められます。
6. 医療安全研修
医療法施行規則で、医療安全管理のための職員研修の実施が病院・診療所に求められており、全職員を対象とした研修を年2回以上実施することが標準的な運用となっています。研修テーマは、医療安全の基本的考え方、院内報告制度の周知、代表的インシデント事例の共有、部門別重点課題(薬剤・輸血・転倒転落・感染・急変対応等)、法令・診療報酬改定の動向などで、全職員共通研修と部署別研修を組み合わせる運用が一般的です。
近年はeラーニングによる研修配信が広く導入され、勤務シフトに影響を与えずに全職員受講率を確保する工夫が進んでいます。受講記録の整備は病院機能評価受審時にも確認対象となり、受講状況のモニタリングと未受講者へのフォロー体制が求められます。
7. 医療事故調査制度への対応
2015年10月に施行された医療事故調査制度は、医療法第6条の10から第6条の27で規定される制度で、医療機関で発生した「医療に起因する(疑いを含む)予期しなかった死亡または死産」が発生した場合に、医療機関から医療事故調査・支援センター(日本医療機能評価機構)への報告、院内調査の実施、遺族への説明、センターへの結果報告が求められる枠組みです。
該当事例の判断は、管理者(院長)が総合的に判断するとされており、判断迷いに対しては医療事故調査等支援団体(都道府県医師会・学会・大学病院等)の助言を得る運用が整備されています。院内調査は多職種チームで実施し、外部委員の参画により客観性を担保する事例が多く、調査結果は再発防止策の立案・院内展開まで一貫して運用されます。医療安全管理室は、事案該当性の判断支援、支援団体との調整、院内調査の実務、遺族対応の調整までを担う中核部門として機能します。
8. 2024年度診療報酬改定における関連項目
2024年度診療報酬改定では、医療安全対策加算・医療安全対策地域連携加算に関連する要件の整理、感染対策向上加算との整合など、医療安全関連の項目が見直されました。医療安全対策加算1は専従の医療安全管理者の配置、加算2は専任の医療安全管理者の配置が要件となっており、医療安全対策地域連携加算1・2は加算1施設と加算2施設が相互に医療安全対策に関する評価を実施することを要件としています(厚生労働省 令和6年度診療報酬改定関連資料)。
加算算定要件・施設基準の届出要件の詳細は、厚生労働省の公表資料の最新版と地方厚生局の通知をご確認ください。
9. よくある質問(FAQ)
- Q1. 医療安全管理者は専従・専任どちらが求められますか?
- A. 医療安全対策加算1では専従、加算2では専任の医療安全管理者の配置が要件とされています。特定機能病院・臨床研修病院等の施設要件でも配置形態が整理されており、自院の施設類型と算定する加算に応じた体制設計が求められます。
- Q2. インシデント報告の対象はどこまでですか?
- A. 患者に影響が及ばなかったヒヤリ・ハット事例(レベル0・レベル1)から患者に影響が及んだアクシデント事例(レベル2以上)まで幅広く報告を求める運用が一般的です。非懲罰・非難しないという運用原則を院内で共有し、報告文化を醸成することが仕組みの実効性を高めます。
- Q3. RCAはどの事例に対して実施しますか?
- A. レベル3b以上の重大事例に加え、患者影響度は小さくても頻度が高い事例・システム上の学習機会が大きい事例を対象とする運用が広く採用されています。実施基準は院内で明文化し、対象選定・分析チーム編成・成果物運用まで標準化しておくことが有用です。
- Q4. 相互ラウンドの相手はどう選定しますか?
- A. 医療安全対策地域連携加算では、加算1施設と加算2施設が相互に評価を実施することが要件とされています。地域内の連携医療機関・同一法人内他施設・地域医師会や学会のネットワーク経由での選定事例が広く見られます。実施計画・評価項目・年間スケジュールを事前に協議のうえ運用します。
- Q5. 医療事故調査制度の該当判断が難しい場合はどうしますか?
- A. 医療事故調査等支援団体(都道府県医師会・関係学会・大学病院等)に助言を求める運用が整備されています。管理者(院長)が総合的に判断するとされていますが、判断迷いに対する外部助言の活用は制度上位置づけられた仕組みで、都道府県医師会等の窓口が窓口機能を担っています。
10. 関連内部リンク・次のステップ
医療安全管理室業務は、感染対策・医療機器管理・薬剤管理・診療報酬算定・BCPなど、複数の運営テーマと接続します。自院の状況に応じて、以下の関連記事も参考にしながら、体制整備と業務改善を並行して進めることが有用です。
- 病院の臨床工学技士(CE)業務 完全ガイド — 医療機器安全管理責任者との連携
- 病院の抗菌薬適正使用支援チーム(AST)ガイド — 感染対策・多職種連携
- 病院の中央滅菌室(CSSD)完全ガイド — 器械管理と感染対策連携
- DPC/PDPS病院の経営管理ガイド — 加算算定と収益構造
11. 出典・参考資料
- 厚生労働省「医療安全対策」総合ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/index.html (取得日:2026-08-31)
- 厚生労働省「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/dl/070330-1.pdf (取得日:2026-08-31)
- 厚生労働省「医療事故調査制度について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061201.html (取得日:2026-08-31)
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定」関連資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html (取得日:2026-08-31)
- 厚生労働省「医療法・医療提供体制」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/index.html (取得日:2026-08-31)
- 公益財団法人 日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」 https://www.med-safe.jp/ (取得日:2026-08-31)
- 公益財団法人 日本医療機能評価機構「医療事故調査・支援センター」 https://www.medsafe.or.jp/ (取得日:2026-08-31)
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医療安全情報」 https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/medical-devices/0001.html (取得日:2026-08-31)
【免責事項】本記事は厚生労働省・公益財団法人日本医療機能評価機構・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)等の公開情報を整理することを目的としており、個別の事案対応・法令適合の可否判断、施設基準の該当性判断、加算算定要件の適用可否判断を保証するものではありません。関係法令・告示・通知・診療報酬点数表は改正・改訂により見直されるため、個別判断は所定の専門人材(医療安全管理者・都道府県医師会・保険医療機関の指導部門等)と、厚生労働省・地方厚生局・関係学会にご確認ください。本記事の情報利用によって生じた損害について、mitoru編集部は責任を負いません。
最終更新日:2026年8月31日|編集方針
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mitoru編集部の見解
医師・看護師など医療職の転職判断は、年収だけでなく雇用形態・労働時間・キャリアパス・社会保障を含めた長期視点で評価する必要があります。エージェント1社の情報だけで判断せず、公的統計(厚生労働省「医師の働き方改革」「医療従事者需給検討会」)と複数エージェント情報を突き合わせる手順が、後悔を最小化する基本動作です。