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訪問看護における複数名訪問看護(指導)加算は、難病や重症の利用者、暴力行為やそのおそれがある場面、体重支持を伴う入浴介助や広範囲の創処置など、看護師等が単独で訪問することが困難な状況において、医療保険・介護保険それぞれの枠組みで評価される仕組みです。慢性疾患・在宅医療需要の増加とともに、複数名対応を要する利用者は各事業所で一定の割合を占めるようになっています(出典:厚生労働省「患者調査」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/10-20.html)。新人育成のための同行訪問や、特定の技術を継承するための同行指導とは算定要件が異なり、両者を混同すると実地指導・監査で記録不備や算定誤りとして指摘される場面が生じます。本記事は、厚生労働省等の公開情報を整理した内容として、複数名訪問の対象要件・記録の残し方・スケジューリング・電子記録システムの活用・費用シミュレーション・監査対応までを、管理者・訪問看護師が実務で参照できるよう整理します。個別の算定可否・点数解釈・利用者への対応方針については、地方厚生局・保険者・所属団体の確認や主治医の指示にしたがってください。
この記事でわかること
- 複数名訪問看護(指導)加算の医療保険・介護保険における算定要件
- 対象となる利用者像(難病重症・暴力リスク・複数名を要する処置)
- 教育目的の同行訪問と加算算定の切り分け方
- 記録に残すべき項目と算定根拠の示し方
- ペア編成・シフト調整の実務ポイント
- 電子記録SaaS活用による算定漏れ防止の考え方
- 費用シミュレーションと事業収支への影響
- 実地指導・監査で問われやすい視点
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1. 複数名訪問看護(指導)加算とは——制度の全体像
複数名訪問看護(指導)加算は、看護師等が同一利用者に対して同時に複数名で訪問看護を実施した場合に、通常の訪問看護費に上乗せして評価される加算です。医療保険では「複数名訪問看護・指導加算」、介護保険では「複数名訪問看護加算」という名称で、それぞれ訪問看護療養費・介護報酬の告示に規定されています。対象となるのは、利用者の心身の状態や置かれている状況から判断して、看護師等が単独で訪問することが困難と認められる場合であり、事業所側の都合や教育上の必要性のみでは算定要件を満たさない点に留意が必要です(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00041.html)。
1-1. 医療保険における複数名訪問看護・指導加算
医療保険の訪問看護では、別表第7に規定する疾病等の利用者、真皮を超える褥瘡の状態にある利用者、人工肛門・人工膀胱の処置を実施している利用者、その他利用者の状況等から判断して看護師等が複数で訪問する必要があると認められる場合に算定対象となります。同行する職種の組み合わせ(保健師・助産師・看護師と、看護師等または看護補助者等)や1回あたりの所要時間(30分未満・以上)によって点数区分が分かれており、算定回数にも週あたりの上限が設けられています。具体的な点数・回数上限は告示・通知の最新版で確認する取り扱いが前提です。
1-2. 介護保険における複数名訪問看護加算
介護保険の訪問看護では、同一時間帯に複数の看護師等が同時に訪問看護を行った場合に、複数名訪問看護加算として評価されます。対象要件は、利用者の身体的理由(体重が重い利用者の入浴介助・清拭等)により1人での対応が困難な場合、暴力行為またはそのおそれがある場合、その他利用者の状況等から判断して複数名での訪問が必要と認められる場合です。単位数は職種の組み合わせと所要時間により異なり、要介護度や訪問頻度に応じたケアプラン上の位置づけも合わせて確認する運用が実務的です(出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37687.html)。
1-3. 医療保険・介護保険・教育同行の比較
| 区分 | 主な算定要件 | 職種・所要時間による違い |
|---|---|---|
| 医療保険(複数名訪問看護・指導加算) | 別表第7該当疾病等、真皮を超える褥瘡、人工肛門・人工膀胱処置、その他複数名訪問が必要と認められる場合 | 保健師・助産師・看護師と看護師等/看護補助者等の組み合わせ、所要時間30分未満・以上で区分 |
| 介護保険(複数名訪問看護加算) | 体重支持等の身体的理由により1人対応が困難、暴力行為またはそのおそれ、その他複数名訪問が必要と認められる場合 | 職種の組み合わせと所要時間により単位数が異なる |
| 教育目的の同行訪問 | 利用者側の算定要件に該当しない限り対象外 | 教育記録として別途管理し、加算算定とは区別 |
2. 対象となる利用者像
複数名訪問看護加算の対象となる利用者像は、大きく分けて「重症・難病等により医療的ケアの負荷が高い利用者」「暴力行為や著しい迷惑行為等のリスクがある利用者」「体重支持や広範囲処置など身体的に複数名を要する利用者」の3類型に整理できます。
2-1. 難病・重症患者(別表第7・特掲診療料の対象等)
別表第7に規定するALS・多系統萎縮症・筋ジストロフィー等の神経難病、気管切開下人工呼吸療法を要する利用者、真皮を超える褥瘡の状態にある利用者などは、医療処置の複雑さや急変リスクの高さから、複数名での訪問が必要と判断される場面が比較的多い層です。特定行為研修修了者やターミナルケアを担当する看護師の同行、機器操作を要する処置での役割分担など、単独訪問では安全確保が難しい状況が該当します。
2-2. 暴力行為・著しい迷惑行為等のおそれがある場合
利用者本人または家族から過去に暴力行為・著しい迷惑行為・器物破損行為等があった、あるいはそのおそれが客観的に認められる場合も、複数名訪問看護加算の対象要件に含まれます。ハラスメント対策は職員の安全配慮義務の観点からも重要であり、厚生労働省が公開する介護現場におけるハラスメント対策の資料等を参考に、事業所内でリスクアセスメントの様式・記録・エスカレーション基準を整えておく運用が推奨されます(出典:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947332.pdf)。単独訪問が困難と判断した根拠は、具体的な事実(言動・状況)として記録に残します。
2-3. 体重支持や広範囲処置など複数名を要する医療処置
体重の重い利用者の入浴介助・体位変換・移乗、広範囲の褥瘡処置や創傷ケア、気管切開部の管理と同時進行する喀痰吸引など、身体的負荷や安全確保の観点から複数名を要する場面も対象となります。介護職員による喀痰吸引等は法定研修修了と事業者登録の枠組みで運用されており、訪問看護師と役割分担する場合は制度要件の確認が前提です(出典:厚生労働省「社会福祉士及び介護福祉士法に基づく喀痰吸引等の制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/kokyuukikan/index.html)。処置の性質上、1人では利用者の転倒・転落リスクや医療事故リスクが高まると判断される場合、その理由を訪問看護記録に具体的に記載します。
3. 教育目的の同行訪問の位置づけ
新人看護師の同行研修や、特定の技術を継承するための同行指導は、事業所運営上欠かせない取り組みですが、複数名訪問看護加算の算定要件とは別枠で整理する必要があります。
3-1. 新人・未経験者へのOJTと加算算定の区別
新人看護師や訪問看護未経験者へのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を目的とした同行訪問は、利用者側の状態・状況に基づく必要性ではなく事業所側の教育上の必要性によるものであるため、原則として複数名訪問看護加算の算定対象にはなりません。教育目的の同行を実施する場合は、教育記録として別途管理し、加算算定を伴う複数名訪問(利用者側の要件に該当する訪問)とは記録様式・請求処理を明確に分けておく運用が、実地指導対応の観点からも重要です。
3-2. 難病・重症児対応技術の移転と同行の組み合わせ
一方で、難病や重症児等、対応そのものに複数名訪問看護加算の算定要件が該当する利用者への訪問に、教育目的で新人を同行させるケースもあります。この場合、算定根拠は利用者側の状態・状況にあることを記録上明確にし、教育目的の同行であることも併記することで、加算算定の妥当性と人材育成の実績の両方を後から確認できる記録として整理できます。
4. 記録要件と算定根拠の残し方
複数名訪問看護加算は、実地指導・監査において算定根拠の確認が重点的に行われる項目の一つです。記録に不備があると、算定要件を満たしていたとしても返還指導の対象となる場合があります。
4-1. 訪問看護記録書・報告書に残す項目
複数名訪問を実施した際は、①複数名訪問が必要と判断した具体的理由(利用者の状態・状況、過去の言動、処置の内容等)、②同行した職種と人数、③実施した処置・ケアの内容、④所要時間、⑤利用者・家族への説明内容、を訪問看護記録書に記載します。「危険なため」等の抽象的な記載のみでは算定根拠として不十分と判断される可能性があるため、具体的な事実を記載する運用が実務的です。
4-2. 複数名訪問の必要性を示す客観的根拠
暴力行為やそのおそれを理由とする場合は、過去のインシデント記録・ヒヤリハット報告・家族からの申し出内容等の客観的な記録と紐づけておくと、算定根拠としての説得力が高まります。難病・重症を理由とする場合は、主治医の指示書・診療情報提供書に記載された病状や処置内容を根拠として引用し、記録の一貫性を保つ取り扱いが推奨されます。
5. スケジューリングと人員配置の実務
複数名訪問は、通常訪問に比べて人員の同時確保が必要となるため、シフト作成・移動動線・コストの観点から事業所全体のスケジューリング設計に影響します。
5-1. ペア編成とシフト調整の考え方
複数名訪問が想定される利用者については、あらかじめ担当ペア(主担当・副担当)を固定的に割り当てておくと、当日の急なシフト変更にも対応しやすくなります。経験年数・専門性(特定行為研修修了者、精神科訪問看護の経験等)を踏まえた組み合わせを事業所内で一覧化し、管理者が訪問予定表と照合しながら調整する運用が実務的です。
5-2. 移動効率とコストの両立
複数名訪問は看護師等2名の移動時間・移動コストが同時に発生するため、訪問ルートの近接性や訪問時間帯の集約を意識したスケジューリングが、事業所の生産性維持につながります。複数名訪問対象の利用者を訪問エリア内で近接する時間帯にまとめる、同一方面の単独訪問と組み合わせて移動効率を高める等の工夫が、多くの事業所で採られています。
6. 電子記録SaaSでの算定漏れ防止
複数名訪問看護加算は、算定要件に該当する利用者・訪問であっても、記録システム上で複数名訪問である旨を正しく入力しなければ請求に反映されず、算定漏れが生じる場合があります。
6-1. システム選定と運用ルールの整備
訪問看護向けの電子記録・請求システム(SaaS)の多くは、複数名訪問のフラグ入力・同行職種の記録・所要時間の自動計算機能を備えています。導入にあたっては、①複数名訪問の判断基準を記録画面の必須項目として設計できるか、②同行職種の組み合わせから点数区分を自動判定できるか、③記録者以外(管理者・請求担当)が根拠を後から確認できる履歴が残るか、を選定基準として確認します。システムを導入した場合も、入力ルールの周知徹底と定期的な記録内容のダブルチェックを運用に組み込むことで、算定漏れと算定誤りの双方を防ぐ効果が期待できます。
7. 費用シミュレーションと事業収支

複数名訪問看護加算は事業所の収入に直結する項目ですが、看護師等2名分の人件費・移動コストが同時に発生するため、加算収入と実施コストのバランスを事業計画に反映しておく必要があります。
7-1. 加算収入の試算モデル
月間の複数名訪問対象利用者数、1利用者あたりの想定訪問回数、職種の組み合わせによる点数区分を掛け合わせることで、月間の加算収入の概算を試算できます。医療保険・介護保険では算定できる回数の上限や利用者側の負担割合の考え方が異なるため、対象利用者ごとに保険区分を確認したうえで試算する運用が前提となります。単位数・点数の具体的な数値は告示・通知の最新版を確認してください。
7-2. 人件費とのバランス
複数名訪問は、通常訪問1件に対して看護師等2名分の人件費・移動時間が発生するため、加算収入だけでは人件費増加分を完全に相殺できない場合もあります。事業所全体の訪問件数・稼働率とあわせて、複数名訪問が事業収支に与える影響を月次で確認し、シフト設計や新規受け入れ判断の材料とする運用が実務的です。
8. 監査対応のポイント
複数名訪問看護加算は、算定要件の該当性・記録の具体性が実地指導・監査で重点的に確認される項目です。
8-1. 実地指導・監査で問われやすい視点
実地指導では、①複数名訪問の必要性を示す記録が具体的であるか、②教育目的の同行と算定要件に基づく複数名訪問が記録上区別されているか、③同行した職種・人数・所要時間が請求内容と整合しているか、④暴力行為等を理由とする場合の客観的根拠(インシデント記録等)が保管されているか、が確認される傾向にあります。
8-2. よくある指摘事項と予防策
実地指導事例として公開されている情報からは、「複数名訪問の理由が記録上抽象的」「教育目的の同行を加算算定してしまっている」「記録上の職種・人数と請求内容が一致していない」といった指摘傾向が見られます。事業所内で定期的に記録の自己点検(サンプリングチェック)を行い、管理者が算定根拠を確認できる体制を平時から整えておくことが、監査対応の負担軽減につながります。
9. よくある質問(FAQ)
- Q1. 複数名訪問看護加算は、事業所の判断だけで算定できますか
- 算定要件は利用者の心身の状態や置かれている状況(重症・難病、暴力行為やそのおそれ、身体的に複数名を要する処置等)に基づいて判断するものであり、事業所側の都合のみでは算定要件を満たしません。判断根拠は訪問看護記録に具体的に残す運用が前提です。
- Q2. 新人教育のための同行訪問は複数名訪問看護加算の対象になりますか
- 教育目的のみを理由とする同行訪問は、原則として算定要件に該当しません。教育目的の同行と、利用者側の要件に基づく複数名訪問は、記録上明確に区別して管理する運用が実務的です。
- Q3. 暴力行為のおそれを理由に算定する場合、どのような根拠が必要ですか
- 過去のインシデント記録・ヒヤリハット報告・家族からの申し出内容など、具体的な事実に基づく客観的な記録が根拠として求められます。抽象的な「危険なため」といった記載のみでは、根拠として不十分と判断される場合があります。
- Q4. 医療保険と介護保険で複数名訪問看護加算の要件は同じですか
- 名称・基本的な考え方は共通する部分がありますが、対象疾病等の規定(別表第7等)や単位数・点数の区分、算定回数の上限は保険制度ごとに異なります。利用者の保険区分を確認したうえで、それぞれの告示・通知に基づいて判断する取り扱いが必要です。
- Q5. 電子記録システムを導入すれば算定漏れは防げますか
- システムは記録の一貫性や自動計算による支援に有効ですが、複数名訪問の判断基準そのものは看護師等の記録内容に依存します。システム導入とあわせて、入力ルールの周知や記録内容の定期的なダブルチェックを運用に組み込むことで、算定漏れ・算定誤りの双方を防ぐ効果が高まります。
- Q6. 実地指導で複数名訪問看護加算について指摘を受けた場合、どう対応すればよいですか
- 指摘内容を踏まえて記録様式・判断基準を見直し、必要に応じて管轄の地方厚生局・保険者に確認しながら是正します。是正内容は事業所内で共有し、再発防止のための研修や記録の自己点検の仕組みに反映する運用が推奨されます。
10. まとめ——複数名訪問加算運用チェックリスト
- 医療保険・介護保険それぞれの複数名訪問看護(指導)加算の対象要件を事業所内で共通理解しているか
- 難病重症・暴力リスク・複数名を要する処置という3類型で対象利用者を整理できているか
- 教育目的の同行訪問と、算定要件に基づく複数名訪問を記録上明確に区別しているか
- 複数名訪問の必要性を示す具体的な記録(理由・職種・人数・所要時間)を残しているか
- 暴力行為等を理由とする場合の客観的根拠(インシデント記録等)を保管しているか
- ペア編成・シフト調整のルールが事業所内で共有されているか
- 電子記録SaaSの入力ルールと定期的なダブルチェック体制が整っているか
- 加算収入と人件費・移動コストのバランスを月次で確認しているか
- 実地指導・監査を想定した記録の自己点検を定期的に行っているか
複数名訪問看護加算は、利用者の安全確保と職員の安全配慮の両面から重要な仕組みですが、算定要件と教育目的の同行を混同すると、記録不備や算定誤りとして実地指導・監査で指摘される場面が生じます。制度の枠組みを正確に理解し、記録の具体性を担保する運用を平時から整えることが、適切な加算算定と利用者・職員双方の安全につながります。本記事の内容は公開情報を整理した一般的な解説であり、個別の算定可否・点数解釈・利用者への対応方針については、地方厚生局・保険者・所属団体の確認や主治医の指示にしたがってください。
関連リンク
出典
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00041.html
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37687.html
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947332.pdf
- 厚生労働省「社会福祉士及び介護福祉士法に基づく喀痰吸引等の制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/kokyuukikan/index.html
- 厚生労働省「患者調査」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/10-20.html
- 公益社団法人日本看護協会https://www.nurse.or.jp/
- 公益財団法人日本訪問看護財団https://www.jvnf.or.jp/
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