クリニックの分院展開(多店舗化)完全ガイド【2026年版・医療法/管理者要件/開設手続き/税務】

📅公開日:2026-07-04

※本記事には広告(PR)が含まれます。mitoru編集部は公開情報を整理して比較・解説しており、表示順位や評価は広告主からの依頼ではなく編集部の独自判断によります。

クリニックが軌道に乗ってきた段階で、多くの理事長・院長が検討し始めるのが「分院展開(多店舗化)」です。売上・患者数の伸びしろを広げる一方で、医療法上の管理者常勤要件、開設許可の再取得、法人形態の選択、税務、採用戦略など、単院運営とはまったく異なる論点が重なります。本記事では、厚生労働省・地方厚生局・国税庁など公的機関が公表している情報を整理した内容として、2026年時点でクリニック分院を展開する際に検討すべき論点を、開設手続きから運営管理までまとめました。個別の申請可否や税務判断は所轄行政・顧問税理士・弁護士に確認してください。

クリニック多店舗化(分院展開)の全体像

クリニックの分院展開とは、既存の医療機関(本院)とは別の場所に、同一の開設者が新たな診療所(分院)を開設・運営することを指します。歯科・内科・眼科・皮膚科・美容医療などで採用されており、地域内シェアの拡大、診療圏の分散、医師の働き方改革への対応、事業承継の準備など、目的は多様です。

分院展開が検討される主なきっかけ

  • 本院の予約が常時埋まり、待ち時間・機会損失が生じている
  • 本院商圏の外側にある未カバー地域からの通院ニーズを吸収したい
  • 勤務医の独立志向に応えて、雇用継続と収益拡大を両立させたい
  • 診療科の特化(美容部門の切り出し・自由診療部門の独立など)でブランドを分けたい
  • 事業承継や引退後の運営継続を見据えたホールディング体制の準備

単院運営との根本的な違い

単院との最大の違いは、医療法上「診療所ごとに管理者(管理医師)を置かなければならない」という要件が全体運営を規定する点です。管理者は原則としてその診療所に常勤し、他の医療機関の管理者を兼任できません。理事長・院長が複数拠点を「両方管理する」ことは医療法上原則認められないため、分院ごとに常勤の管理者を確保する体制設計が前提になります。

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医療法上の分院制約(管理者常勤要件・兼任禁止)

分院展開を語るうえで最初に押さえるべきは、医療法第10条・第12条を中心とした「管理者」に関する規制です。分院を単なる「支店」として運営できない最大の理由がここにあります。

医療法第10条・第12条の骨子

医療法第10条は「病院又は診療所の開設者は、その病院又は診療所が医業をなすものである場合は臨床研修等修了医師に、これを管理させなければならない」と定めます。さらに第12条は、原則として管理者が他の病院・診療所の管理者を兼務することを禁じ、兼務するには都道府県知事の許可を要すると規定しています。つまり、既存の本院の管理者である理事長が、そのまま新設分院の管理者を兼ねることは原則できず、分院には別の常勤医師を管理者として配置する必要があります。

「常勤」の意味と勤務実態の確認

ここでいう「常勤」は、単に週数回来るという意味ではなく、その診療所の診療時間帯において継続的に勤務し、管理業務を実質的に担える状態を指します。地方厚生局・保健所は、開設許可・保険医療機関指定の申請時に、勤務表・雇用契約・出勤実態を確認します。名義だけ管理者を置いて実際には別の医師が交代で診療する運営は「名義貸し」と扱われ、医療法違反として指導・処分対象になります。

兼務許可が認められる限定的なケース

第12条ただし書きにより、都道府県知事の許可があれば管理者の兼務が認められる場合があります。想定されているのは、地域医療の確保上やむを得ない場合、休日夜間急患センターなどの公共的施設、へき地医療、法人内の一時的な代替など、限定的な状況です。都市部での通常の営利目的分院展開において、本院管理者が分院管理者を兼務する許可が下りるケースは想定しづらく、原則として分院ごとに専任の管理医師を配置する前提で採用計画を立てるのが安全です。

個人開業医と医療法人での違い

分院展開の可否と自由度は、開設者が「個人」か「医療法人」かで大きく変わります。

個人開業医は原則「1医師1診療所」

個人開業の場合、開設者は医師個人であり、その医師が管理者を兼ねるのが通常の形です。医療法第12条により管理者の他院兼務が原則禁止されているため、個人開業医のままでは実質的に自分名義で複数のクリニックを開設・運営することが難しくなります。「もう1つ自分名義でクリニックを増やす」ためには、原則として医療法人化して、法人を開設者として複数診療所を運営する形にするか、共同経営者・別開設者による別法人スキームを取ることになります。

医療法人化するメリット

  • 法人が開設者となるため、分院・介護事業所などを法人配下に複数抱えられる
  • 役員報酬・退職金設計により、個人事業主より税負担を平準化しやすい
  • 事業承継・世代交代時に、法人格を維持したまま経営権を移せる
  • 金融機関からの分院展開向け融資交渉で、法人決算書ベースの与信が使える
  • スタッフ採用時に「医療法人」であることが安定感の訴求になりやすい

医療法人化のハードルと注意点

2007年施行の第五次医療法改正以降、新規に設立される医療法人は「持分の定めのない社団医療法人」が原則です。出資者に退社時の払戻請求権がなく、解散時の残余財産は国・地方公共団体・他の医療法人などに帰属します。設立には都道府県への認可申請、定款作成、拠出金・運転資金の準備、理事・監事の選任などが必要で、認可から登記完了まで一般的に半年程度を見込みます。個人事業からの資産譲渡・従業員転籍・保険医療機関の再指定を伴う「法人成り」は、税務・労務・保険算定の各面で綿密な段取りが求められます。

分院開設の届出フローと必要書類

分院はあくまで「新たな診療所の開設」として扱われるため、本院の届出とは別に、開設許可・開設届・保険医療機関指定などを一式取り直す必要があります。

主要な届出先と手続き

  • 都道府県知事(保健所経由):診療所開設許可申請(医療法人開設の場合)/診療所開設届(医師個人開設の場合)
  • 地方厚生局:保険医療機関指定申請、施設基準届出
  • 労働基準監督署・年金事務所・ハローワーク:労働保険・社会保険・雇用保険の適用事業所届出
  • 税務署:給与支払事務所等の開設届、源泉所得税関連届出
  • その他:麻薬施用者免許(診療科に応じて)、放射線関連届、エックス線装置備付届など

タイムラインの目安

物件契約から開院までは、内装工事期間を除いても行政手続きだけで数か月を要します。特に保険医療機関指定は、指定日が毎月1日となる運用(月遅れ指定)が一般的で、開設許可・開設届の完了時期がずれると保険診療開始が1か月単位で後ろ倒しになります。工事スケジュール・内覧会・保険医療機関指定日・スタッフの雇用開始日を逆算し、開設許可申請〜届出〜指定申請の順序と締切を1本のスケジュール表に落とし込むことが、機会損失を防ぐ実務ポイントです。

医療法人が分院を出す場合の定款変更

医療法人が分院を追加する場合、定款に「開設する医療機関の名称・所在地」を記載する構造上、社員総会での定款変更決議と、都道府県への定款変更認可申請が発生します。認可には数か月を要することがあり、内装工事や採用スケジュールとの整合を取る必要があります。定款変更認可の見込みが立たない段階で工事・雇用契約を先行させると、開院延期のリスクがあります。

本院・分院での医師配置戦略

分院オペレーションの成否は、医師配置設計に大きく左右されます。管理者常勤要件を満たしつつ、診療の質・売上・医師のモチベーションを両立させる配置は、単純ではありません。

3つの基本パターン

  • 分院長採用型:分院ごとに常勤の分院長(管理医師)を採用。本院理事長は本院に専念しつつ、経営全体を統括
  • ローテーション補助型:分院長を核に置きつつ、本院からの応援・非常勤医で診療枠を厚くする
  • 特化ブランド分院型:診療科・自由診療メニューを分院に集約し、本院との棲み分けを明確にする

分院長の役割と権限設計

分院長は医療法上の管理者として法的責任を負う一方、経営責任は法人が持つケースが大半です。診療方針・カルテ記載・医療安全は分院長が最終判断し、価格決定・広告方針・大型設備投資は法人本部が決定する、といった役割分担を雇用契約と管理者委任契約に明文化しておくと、後日のトラブルを防げます。特に自由診療メニュー・広告表現は薬機法・医療広告ガイドラインの対象になるため、権限所在を曖昧にせず、統一ルールを本部で定める設計が安全です。

非常勤医の活用と診療報酬算定上の留意

常勤管理者を確保したうえで、日々の診療枠を非常勤医で埋めることは一般的です。ただし、施設基準や加算算定に「常勤医師○名以上」などの要件がある場合、非常勤医の勤務時間を常勤換算した数値で判定するルールが適用されます。分院で算定を予定する加算・施設基準の要件を、開設前に地方厚生局の資料と保険点数表で確認し、常勤・非常勤の構成を逆算しておくと、開院後に算定不可が発覚するリスクを下げられます。

採用戦略(勤務医・分院長・スタッフ)

分院展開の実務上最大のボトルネックは、常勤の分院長候補となる医師の確保です。開設許可申請の要件を満たすためにも、内装工事着手より前に採用の目処を立てておく必要があります。

分院長の主な採用チャネル

  • 医局・大学病院からの紹介(診療科・地域による)
  • 民間の医師専門人材紹介会社(成功報酬型)
  • 本院で長期勤務した勤務医の内部登用
  • 学会・研究会経由の個別スカウト
  • SNS・自社サイト経由の直接応募(美容・自由診療系では機能しやすい)

看護師・受付・医療事務の採用

分院はゼロから採用するケースが多く、本院と同じ運用に立ち上げるには入職〜研修期間が必要です。本院からの応援配置とセットで開院初期の運営を安定させる設計、開院1〜2か月前からのプレ研修、就業規則・給与テーブルの共通化などが、離職率の抑制と本院・分院間の不公平感の解消に寄与します。医療機関の労務は、宿日直許可・変形労働時間制・時間外労働の上限規制など、一般業種と異なる論点が多いため、社会保険労務士と就業規則を分院展開前に再整備することが望ましい流れです。

雇用契約・管理者委任契約の分離

分院長との契約は、労働契約(雇用契約)と管理者委任契約を分けて設計する方法があります。雇用契約で基本給・勤務時間・診療業務を、管理者委任契約で管理業務・報酬・任期・解任事由を規定することで、労働法上の保護と管理者としての責任範囲を整理しやすくなります。契約書面は弁護士・社会保険労務士のレビューを受け、退職時の患者引継ぎ・競業避止・秘密保持条項まで含めておくことが、後日の紛争を減らす実務対応です。

連結的な会計管理と法人税・消費税

医療法人が複数分院を運営する場合、法人としては1つの決算になりますが、拠点別損益を可視化しないと投資判断ができません。会計上・税務上の押さえどころを整理します。

拠点別損益管理の設計

会計ソフト側で「部門」「セグメント」機能を活用し、本院・各分院・法人本部を独立した集計単位として管理する構造が実務上一般的です。共通経費(本部人件費・システム利用料・広告費など)は配賦基準を明文化し、毎月・四半期での拠点別P/Lレビューを回すことで、赤字分院の早期発見・改善判断が可能になります。

法人税・消費税の基本

医療法人(社団・持分なし)は、原則として一般の法人と同じ法人税課税ですが、社会保険診療報酬にかかる部分は消費税が非課税とされます。自由診療・物販は課税対象で、課税売上高・特定期間の判定によって課税事業者・簡易課税・インボイス発行事業者の登録可否が変わります。分院で自由診療比率が高い場合、消費税負担・インボイス対応のスキームを、開院前に顧問税理士と組み立てておくのが安全です。

役員報酬・退職金・分院長へのインセンティブ

役員報酬は定期同額給与・事前確定届出給与など、税務上の要件を満たすことで損金算入できます。分院長への業績連動報酬を設計する場合、労働契約の賞与として支給するか、役員報酬として設計するかで税務上の扱いが変わります。分院長の退職金についても、勤続年数・退職所得控除・法人側の損金性を踏まえた設計が求められます。分院展開に伴う組織図・給与テーブル・退職金規程は、税務と労務の両面から一体で見直すのが実務的です。

ブランド管理とオペレーション統一

分院展開の落とし穴は、拠点間で診療品質・接遇・広告表現がばらつき、ブランドが希薄化することです。医療広告ガイドラインを踏まえた統一運用が重要になります。

本部機能の切り出し

拠点数が3院を超えるあたりから、経理・人事・広報・IT・購買を本部機能として切り出す構造が現実的になります。本部が予算策定・KPIモニタリング・広告出稿・システム保守・共通購買を担い、各分院は診療と接遇に集中する体制です。本部人件費は共通経費として各拠点に配賦しますが、配賦基準を売上比・患者数比・従業員数比などから選択し、拠点別損益の見え方が実態と乖離しないよう調整します。

医療広告ガイドラインの徹底

ウェブサイト・SNS・広告物における医療広告表現は、医療法および厚生労働省の医療広告ガイドラインの規制対象です。ビフォーアフター写真、口コミ、「最高位主張」等の最上級表現、体験談、他院との比較優良表現などは制限・禁止事項に該当し得ます。分院ごとに独自の広告を打つ運用は、統制が効かず違反リスクが上がります。本部で広告表現のチェックリスト・承認フローを整備し、外部制作会社に依頼する場合も本部承認を必須にする運用が安全です。

電子カルテ・予約・会計システムの統一

拠点間で異なる電子カルテ・レセコン・予約システムを併用すると、患者データ連携・売上集計・監査対応で工数が跳ね上がります。分院展開時は、複数拠点対応(マルチテナント)機能を持つシステムを本院段階で選定しておくと、後日の統合コストを避けられます。既存本院で導入済のシステムが分院展開に対応しない場合、分院開設のタイミングで法人全体を移行する判断も検討対象になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 個人開業のまま2院目を出せますか?
医療法第12条により管理者は原則として他院の管理者を兼ねられないため、個人開業医が自分自身を両院の管理者として運営することは原則できません。2院目には別の常勤管理医師を配置する必要があり、個人事業主のスキームでこれを実現する自由度は低いため、実務上は医療法人化を検討するのが一般的な流れです。
Q2. 分院開設の準備期間はどれくらい見ておくべきですか?
医療法人の定款変更認可、開設許可、保険医療機関指定、内装工事、機器導入、採用、スタッフ研修を積み上げると、物件決定から開院まで半年から1年程度を見込むケースが多くみられます。特に定款変更認可と保険医療機関指定(月遅れ指定)の日程に、工事・採用スケジュールを合わせる逆算が要点です。
Q3. 分院長は非常勤でも大丈夫ですか?
医療法上、管理者は原則として常勤である必要があり、「非常勤の管理者」は想定されていません。名義だけを非常勤医師に置く運用は名義貸しとして指導・処分の対象になり得ます。分院長は常勤で確保し、非常勤医は診療枠を厚くする補助的な位置づけとする設計が原則です。
Q4. 分院ごとに屋号(クリニック名)を変えても問題ありませんか?
医療法人が開設する各診療所ごとに、名称・所在地は定款に定めます。名称は、都道府県の名称制限(誤認を招く名称の禁止、標榜診療科との整合など)に沿う限り、拠点ごとに変えることも運用上可能です。ただし、法人全体のブランド戦略・患者からの認知・広告費効率の観点から、統一ブランドで展開するか、機能別に屋号を分けるかは、経営判断として整理しておくべき論点です。
Q5. 分院の赤字が続いた場合、閉院手続きはどうなりますか?
診療所の廃止には、開設時と同様に、保健所・地方厚生局・税務署・労働保険・社会保険への廃止届が必要です。医療法人が定款に記載した診療所を廃止する場合は、社員総会での定款変更決議と定款変更認可申請も伴います。患者への周知(カルテ引継ぎ・紹介状発行・保管期間中の管理)、スタッフの雇用継続または退職手続き、リース残債の処理などを、閉院日から逆算して数か月がかりで進める段取りが実務です。

出典・参考公的資料

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mitoru編集部の見解

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