医療機関向け時間外労働管理ツール比較【2026年版・36協定/医師の働き方改革】

2024年4月の医師の働き方改革施行により、医療機関における時間外労働の管理体制は抜本的な見直しを迫られています。従来の紙・Excel主体の管理では、36協定の上限規制(A水準:年960時間、B・C水準:年1,860時間)の遵守状況をリアルタイムで把握することが困難です。本記事では、病院・有床診療所・大規模クリニックの労務・管理担当者向けに、時間外労働管理ツールの比較・選び方・導入手順を、厚生労働省の公開情報と各社の公式情報をもとに整理します。

この記事でわかること

  • 医療機関の時間外労働管理で生じる特有の課題と対応策
  • 36協定の改正点(2024年4月〜)と医療機関への影響
  • 医師の働き方改革(A水準・B水準・C水準)の概要
  • 主要時間外労働管理ツール8製品の機能・価格比較
  • 未払い残業対策・電子カルテ連携・導入手順・失敗事例

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1. 医療機関における時間外労働管理の特殊性

書類+印鑑

医療機関の時間外労働管理が一般企業より複雑になる主な要因は5点あります。第一に、宿日直と時間外労働の区分です。労働基準監督署の「宿日直許可」を取得した場合、宿直・日直中の業務は労働時間として扱われないケースがあります。しかし2024年4月以降、許可基準の解釈が厳格化され、救急対応などを行った時間は実労働として時間外に算入する運用が求められるようになりました(厚生労働省「医師の宿日直許可の基準の明確化について」参照)。

第二に、職種ごとに異なる上限規制が適用される点です。医師は医師の働き方改革の水準(A/B/C)、看護師・コメディカルは一般労働者と同一の36協定規制(特別条項含め年720時間)が適用されます。同一の勤怠管理システムを使用しながら、職種別に異なるアラート基準を設定する必要があります。

第三に、オンコール・待機時間の労働時間算入問題があります。オンコール中に実際に呼び出されて業務を行った時間は原則として労働時間ですが、待機のみで実業務がなかった時間の扱いは契約内容や実態により判断が分かれます。この区分をシステムで自動的に記録・集計する仕組みが求められます。

第四に、複数施設・兼務医師の労働時間通算の問題です。2024年改正以降、複数の医療機関で勤務する医師の時間外労働は通算して管理することが求められます。自院の勤怠データだけでは把握しきれないケースがあり、医師からの自己申告との突合管理が必要です。

第五に、変形労働時間制・シフト制との組合せです。1ヶ月単位・1年単位の変形労働時間制を採用する病院では、法定労働時間の計算起点が月・年単位になるため、日次集計だけでは36協定違反を検知できません。月次・年次のアラートを多段階で設定できるツールが不可欠です。

課題具体的な問題ツールに求める機能
宿日直と時間外の区分許可外実務の自動算入漏れ宿日直種別タグ付け・実務記録の別計上
職種別上限規制の違い医師と看護師で異なるアラート基準職種・水準別の残業上限設定
オンコール時間の区分待機と実業務の記録分離オンコール開始/終了と実業務打刻の連動
複数施設通算他院の勤務時間が自院データに未反映自己申告入力と合算集計機能
変形労働時間制月次・年次上限の追跡漏れ変形期間単位での累積アラート

2. 36協定の改正点(2024年4月〜)と医療機関への影響

労働基準法第36条に基づく時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)は、2018年の働き方改革関連法改正により上限規制が法定化され、大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から適用されました。医療機関については経過措置が設けられ、2024年4月1日から全面適用となっています(厚生労働省「時間外労働の上限規制」参照)。

一般労働者(看護師・コメディカル・事務職)への適用

看護師、理学療法士、医療事務職員など、医師以外のすべての職種には一般ルールが適用されます。時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)が上限となります。これを超えると労働基準法違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。

36協定を適切に運用するための管理ポイント

  • 36協定届の提出・更新管理:有効期間満了前の更新と所轄労基署への届出
  • 特別条項の発動回数管理:年6回を超える発動は違反(特別条項適用月の記録が必要)
  • 休日労働の時間外合算:法定休日の労働時間は月100時間・複数月平均80時間の計算に含まれる
  • 対象外労働者の把握:管理監督者・裁量労働制適用者・高度プロフェッショナル制度対象者の整理
区分原則上限特別条項あり(上限)罰則
月次(休日労働含む)45時間100時間未満6ヶ月以下懲役 or 30万円以下罰金
年次360時間720時間以内同上
複数月平均(2〜6ヶ月)80時間以内(休日労働含む)同上
特別条項の発動回数年6回まで同上

出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」(https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf 取得日:2026-05-07)

3. 医師の働き方改革(A水準・B水準・C水準)の概要

医師については、地域医療の確保や研修の特殊性を踏まえ、一般労働者とは異なる水準が設けられています。厚生労働省は2024年4月1日から「医師の働き方改革」を全面施行しました。以下はその概要です(厚生労働省「医師の働き方改革について」参照)。

水準対象時間外・休日労働上限指定要件
A水準一般病院勤務医(上記に該当しない医師)年960時間以内特段の要件なし(すべての医療機関が対象)
B水準地域の救急医療等を担う医師年1,860時間以内都道府県が指定した救急・派遣等の特定業務従事医師
C-1水準臨床研修医年1,860時間以内研修プログラム評価受審が条件
C-2水準高度技能習得研修に従事する医師年1,860時間以内厚生労働大臣が認定する特定高度技能研修機関

出典:厚生労働省「医師の働き方改革について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/quality/index.html 取得日:2026-05-07)

医療機関が対応すべき主な義務

  • 面接指導の実施:月100時間超の時間外・休日労働が見込まれる医師には、管理者(病院長等)が面接指導を実施。記録を5年間保存
  • 連続勤務時間の制限:A水準の場合、連続勤務時間は28時間以内。宿日直後の勤務間インターバル(9時間以上)の確保
  • 追加的健康確保措置:B・C水準適用医師については、面接指導に加え代償休息(勤務間インターバル確保)が義務付け
  • 労働時間の把握・記録:客観的な方法(タイムカード、ICカード、PCログイン記録等)による把握が原則

A水準は全医療機関に適用されるため、「うちは救急でもないから関係ない」という認識は誤りです。一般的な病院・クリニックでも、医師の時間外労働を年960時間以内に収め、月100時間超の場合は面接指導を行う義務があります。

4. 主要時間外労働管理ツール比較

棒グラフ上昇

医療機関向けに時間外労働管理機能を持つ主要ツールを比較します。製品情報は各社の2026年5月時点の公式公開情報に基づきます。料金は参考レンジであり、規模・プラン・オプションにより変動します。

製品名提供会社医師の働き方改革対応36協定アラート料金目安(月額)主な強み
KING OF TIMEヒューマンテクノロジーズ水準別上限設定・アラート月次・年次・複数月平均300円〜/人医療機関導入実績多数・IC打刻・顔認証対応
ジョブカン勤怠管理DONUTS職種別残業上限設定月次・年次アラート200円〜/人シフト管理と残業管理の一体運用・給与連携
タッチオン タイムエンター・プライズ医療特化オプションあり多段階アラート設定400円〜/人病院・クリニック特化設計・宿日直区分対応
SmartHR(労務管理)SmartHR36協定の電子締結・届出月次・特別条項発動回数500円〜/人36協定の電子申請・更新管理が強み
freee人事労務freee勤怠〜給与一気通貫月次アラート4,980円〜(5人まで)クリニック向けシンプルUI・確定申告ソフトと連携
マネーフォワードクラウド勤怠マネーフォワード残業上限の職種別設定月次・年次アラート4,300円〜会計・給与との一気通貫・電子カルテ連携
ハーモス勤怠(HRMOS)ビズリーチ複数月平均80h超アラート36協定遵守レポート出力個別見積複数事業所集中管理・タレント管理との統合
勤次郎勤次郎医療機関向けパッケージ職種別・水準別アラート個別見積病院・介護施設導入実績・宿直申請ワークフロー

選定の着眼点:医師の働き方改革に直結する機能チェックリスト

  • A水準(960時間)・B/C水準(1,860時間)を職種・医師個人ごとに設定できるか
  • 月100時間超になる前に面接指導対象者を自動で抽出できるか
  • 宿日直の開始・終了打刻と、宿日直中の実業務時間を別途記録できるか
  • 連続勤務28時間超の検知と勤務間インターバル9時間を自動チェックできるか
  • 36協定の特別条項発動回数(年6回まで)を月単位で追跡できるか
  • 電子カルテ・HIS(病院情報システム)との打刻データ連携が可能か
  • 労基署への36協定届の電子申請・e-Gov連携に対応しているか

5. 未払い残業対策:医療機関で頻発するケースと対処法

医療機関における未払い残業は、ツールの不備だけでなく運用上の慣行が原因となるケースが多く見られます。労働基準監督署の調査報告書(厚生労働省「令和5年度 監督指導による賃金不払残業の是正結果」参照)によると、医療・福祉業は製造業とならんで是正件数・金額が多い業種のひとつです。

医療機関で頻発する未払い残業のパターン

パターン具体的な事象ツールによる対処
黙示の残業上司の指示なく残業した場合でも、会社が知り得る状況であれば労働時間として算入義務がある入退室ログ・PC起動ログとの突合アラート
申告の過小記録「残業は月○時間まで」という暗黙の上限があり、超過分を申告しない打刻データと申告データの乖離アラート
準備・後片付け時間の不算入手術器具の準備・滅菌確認・カルテ記入を打刻前後に行うケース業務開始打刻の早期化ルール整備+システム強制
管理監督者の誤認定「師長は管理職だから残業代不要」という誤った運用管理監督者判定基準のシステム入力・定期見直し
勤怠記録の事後修正残業時間の多い月末に管理者がデータを修正する打刻ログの変更履歴の保存・監査ログ機能

出典:厚生労働省「令和5年度 監督指導による賃金不払残業の是正結果」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43040.html 取得日:2026-05-07)

是正勧告を受けた場合の対応フロー

  1. 対象期間(過去2年〜最大3年・2020年以降改正)の未払い残業代の計算・支払い計画の策定
  2. 是正計画書の労基署への提出と再発防止措置の整備
  3. 勤怠管理システムの客観的記録方式への移行(タイムカード・ICカード・PC記録の採用)
  4. 36協定の見直し・特別条項の適切な設定と届出
  5. 定期的な勤怠データの管理者レビュー体制の構築

是正勧告後の未払い残業代の消滅時効は原則3年(2020年4月以降発生分)です。医療機関の規模によっては、数百万〜数千万円規模の遡及支払いが発生したケースが報告されています。ツールの早期導入と適切な運用が、是正勧告を受ける前のリスク低減に有効です。

6. 電子カルテ・勤怠システム連携のポイント

医療機関の時間外労働管理において、電子カルテや病院情報システム(HIS)との連携は、勤怠データの信頼性を高める重要な要素です。医師が電子カルテへの最終ログアウト時刻よりも早い退勤打刻をしていれば、実際の労働時間との乖離が生じている可能性があります。主要な連携パターンを整理します。

連携方式仕組みメリット注意点
ICカード統合打刻職員証のICカードで電子カルテと勤怠の両方に同時記録二重打刻が不要・なりすまし防止カードリーダー導入コスト・カード忘れ対応
PCログイン/ログアウト連携電子カルテ端末のOS起動・終了ログを勤怠システムに取込客観的な記録として労基署の心証が良い共用PCでは個人特定が困難
API/CSV連携電子カルテメーカーと勤怠システムのAPI連携またはCSV定期出力既存システム改修不要・柔軟性が高い連携対応メーカーの確認が必要
HIS(病院情報システム)との統合HIS内蔵の勤怠モジュール利用システム一本化で管理が集約HISベンダー依存・乗り換えコスト

主要電子カルテと連携実績のある勤怠ツール(公式公開情報)

  • KING OF TIME:富士通Japan「FUJITSU 医療情報ソリューション」、エムスリーDegimaHR等との連携事例あり(同社事例ページ参照)
  • ジョブカン勤怠管理:API公開・CSV取込対応。主要電子カルテとのカスタム連携が可能
  • 勤次郎:病院向けパッケージに電子カルテとのIDデータ連携オプションを提供(公式サイト参照)
  • タッチオンタイム:ICカード・顔認証との組合せ連携・医療機関向け導入サポートを提供

連携可否は電子カルテのバージョン・勤怠ツールのプランによって異なります。導入前に双方のベンダーに確認することを推奨します。

7. 時間外労働管理ツールの導入手順

医療機関における時間外労働管理ツールの導入は、他業種と比較して準備フェーズが重要です。以下に標準的な導入フローを示します。

  1. 現状把握(所要時間の目安:2〜4週間)
    現行の勤怠管理方法(タイムカード・Excel・既存システム)と36協定の届出状況を棚卸し。医師の水準(A/B/C)判定状況、宿日直許可の取得状況も確認します。
  2. 要件定義(2〜3週間)
    職種別(医師・看護師・コメディカル・事務)の残業上限設定値、宿日直区分の扱い、オンコール記録方式、連携が必要なシステム(電子カルテ・給与計算)を一覧化します。
  3. ベンダー選定・デモ確認(3〜4週間)
    2〜3製品に絞り込み、デモ環境で医師の水準別アラート・宿日直区分の入力画面を実際に操作確認します。サポート体制(医療機関専任担当の有無・導入実績)も評価します。
  4. トライアル運用(1〜2ヶ月)
    一部の部署(例:外来のみ・特定の病棟)でパイロット運用を実施し、打刻漏れ・オンコール記録の精度・アラート動作を検証します。
  5. 全体移行・研修(1〜2ヶ月)
    全職員向けの操作研修と、管理者向けのレポート確認・面接指導ワークフローの研修を実施します。36協定の届出内容とシステム設定値の一致を確認します。
  6. 本稼働後の定期レビュー(月次)
    月次で36協定アラートの発生状況を確認し、面接指導実施記録との突合を行います。年次更新の際には36協定届の内容とシステム設定の同期を行います。

導入コストの目安(職員50名規模の場合)

費用項目目安備考
初期費用10〜30万円導入支援・設定費用(製品により無料〜)
月額ランニングコスト1〜2.5万円200〜500円/人×50名
打刻端末(ICカードリーダー等)3〜10万円設置台数・認証方式による
電子カルテ連携設定5〜20万円連携仕様・カスタマイズ範囲による
研修・操作説明無料〜5万円ベンダー提供範囲による

IT導入補助金(中小企業・小規模事業者対象)の対象となる勤怠管理ツールも存在します。補助率・上限額は年度・枠によって異なるため、独立行政法人中小企業基盤整備機構またはIT導入補助金公式サイトで最新情報を参照してください(中小企業庁「IT導入補助金」: https://it-shien.smrj.go.jp/ 取得日:2026-05-07)。

8. 失敗事例と回避策

チェックリスト

医療機関における時間外労働管理ツールの導入で生じた典型的な失敗パターンと、その回避策を示します。以下は公開された事例・報告書等をもとにした一般的なパターンの整理です。

失敗事例1:宿日直と時間外の区分設定ミス

状況:宿日直中の実業務時間を時間外として別計上する設定をしないまま本稼働した結果、宿直明けの医師の時間外時間が実態より少なく記録されていた。翌年の監査で指摘を受け、過去1年分を遡及修正することになった。

回避策:導入前の要件定義で「宿日直区分」「宿直中の緊急対応時間の記録方法」をベンダーと文書で合意し、デモ段階で実際に入力画面を確認する。宿日直許可取得状況(許可あり・なし)も設定に反映させる。

失敗事例2:職種別アラートを設定せずに一律管理

状況:全職員に看護師の残業上限(年720時間)を適用したため、B水準適用医師に誤アラートが多発し、管理者が「どうせ誤検知」と無視するようになった。その結果、本来アラートを出すべき医師の時間外が見落とされた。

回避策:職種×水準(A/B/C)の組み合わせで個別に上限値を設定できるツールを選定する。設定後は管理者がダミーデータでアラート動作をテストし、意図通りに機能することを確認してから本稼働させる。

失敗事例3:打刻端末を置かず自己申告のみで運用

状況:コスト削減のため打刻端末を設置せず、スマートフォンの自己申告入力のみで運用した。申告値と電子カルテのログイン履歴の差異が最大2時間あることが後日判明した。

回避策:客観的な打刻方法(ICカード・顔認証・PC起動ログ連携)を組み合わせ、自己申告と客観記録の乖離が一定時間を超えた場合のアラートを設定する。2024年以降、労基署の調査でも客観的記録を強く求める傾向があります(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」参照)。

失敗事例4:36協定の届出内容とシステム設定が乖離

状況:36協定届で「月45時間、年360時間(特別条項:月100時間、年720時間)」と届け出たにもかかわらず、システムには「月80時間」でアラートを設定してしまっていた。実際には月60時間を超えても届出上の原則上限(45時間)を超えているが、アラートが出ない状態だった。

回避策:36協定届の原則上限(月45時間・年360時間)と特別条項上限(月100時間未満・年720時間)の両方をシステムに設定し、段階的にアラートを出す。届出内容の更新時はシステム設定も同時に変更するルールを文書化しておく。

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 医師の時間外労働の上限(A水準960時間)は月換算でどのくらいですか?

年960時間を12で割ると月平均80時間です。ただし月によって繁閑があるため、月100時間未満(単月上限)かつ年960時間以内の両方を満たす必要があります。月100時間以上になると面接指導の義務が発生します(A水準の場合)。

Q2. 宿日直許可を取得していれば宿直時間を時間外にカウントしなくてよいですか?

宿日直許可を取得した「断続的業務」の時間は、労働基準法上の労働時間から除外されます。ただし宿直中に救急対応や手術などの「通常業務」を行った時間は、許可の有無にかかわらず労働時間として算入する必要があります。2024年以降の厚生労働省の通達でも、宿日直中の実業務時間の適正把握が求められています。

Q3. 36協定の特別条項は年何回まで使えますか?

年6回(6ヶ月)まで適用できます。7ヶ月目以降に特別条項の上限を超える時間外労働をさせると、36協定の原則上限(月45時間・年360時間)を超えた段階で労働基準法違反となります。発動回数の管理はシステムで自動化することが推奨されます。

Q4. 小規模クリニック(医師1名・スタッフ10名以下)にも時間外管理ツールが必要ですか?

従業員を雇用している場合、36協定の届出義務は規模に関わらず適用されます。ただし医師1名の個人クリニックで院長が経営者兼管理監督者の場合、自身への36協定は適用されないケースがあります(非管理監督者の従業員には適用)。小規模の場合はfreee人事労務や弥生給与Nextのような低コストの簡易システムでも基本的な集計は可能です。

Q5. 勤怠管理ツールの記録は何年間保存する必要がありますか?

労働基準法上、賃金台帳・出勤簿等の法定帳簿の保存期間は5年間(2020年4月の改正前は3年)です(同法第109条)。クラウド型ツールは通常、契約期間中のデータ保持が保証されており、解約後のデータエクスポート期間も確認しておくことが重要です。

Q6. 医師の働き方改革でB水準の指定を受けるにはどうすればよいですか?

B水準は都道府県が指定する業務(地域の救急医療等)に従事する医師に適用されます。医療機関単位ではなく「医師個人」が対象です。指定を受けるには都道府県へ申請が必要で、要件や手続きは都道府県ごとに異なります。詳細は厚生労働省「医師の働き方改革」特設ページを参照してください。

Q7. 時間外労働管理ツールを入れれば残業代の未払いリスクはゼロになりますか?

ツール導入だけでリスクがゼロになるわけではありません。ツールはデータの収集・集計・アラートを自動化しますが、管理者がアラートを無視する・打刻データを修正する・申告と実態が乖離しているといった運用上の問題はツールでは完全に防げません。管理者の定期レビューと変更履歴の監査ログ機能を組み合わせることが重要です。

Q8. 管理監督者(師長・部長)も36協定の対象ですか?

労働基準法上の「管理監督者」(経営者と一体的立場にあり、出退勤の自由・高い待遇を有する者)は36協定・残業代規制の適用外です。しかし役職名だけで判断するのは誤りです。一般的な看護師長・事務長が管理監督者に当たらないと判断された裁判例が複数あります。勤怠管理システムでは、管理監督者の認定基準を文書化し、定期的に見直すことが重要です。

Q9. 電子カルテのログイン記録は「客観的な労働時間の記録」として認められますか?

厚生労働省のガイドライン(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」2017年1月制定)は、PC等のログイン・ログアウト記録を客観的な記録方法の例として挙げています。電子カルテのシステムログも同等に扱われる可能性が高く、勤怠申告との乖離を確認する根拠資料として有効です。

Q10. 複数の診療所を持つ医療法人は一括管理できますか?

複数拠点を持つ医療法人では、拠点別の勤怠データを一元集計できるツールが求められます。KING OF TIMEやSmartHR、ハーモス勤怠は多拠点管理に強みを持っています。36協定は事業場(拠点)ごとに届け出る必要があるため、拠点別・全体の両方のビューで確認できる製品が適しています。

10. まとめ:医療機関向け時間外労働管理ツールの選び方

本記事では、医療機関における時間外労働管理の特殊性から、36協定の改正点、医師の働き方改革(A/B/C水準)の概要、主要ツールの比較、未払い残業対策、電子カルテ連携、導入手順、失敗事例まで整理しました。

医療機関が時間外労働管理ツールを選定する際の要点を以下にまとめます。

  • 医師の水準別(A/B/C)と他職種の上限を別々に設定できるか:一律管理では誤アラートが頻発し、管理者の信頼を失う
  • 宿日直区分と実業務時間の別計上ができるか:2024年以降、この区分が監査の焦点になっている
  • 電子カルテ・HISとの連携で客観的記録が取れるか:自己申告のみでは未払い残業リスクが残る
  • 36協定の特別条項発動回数・複数月平均を追跡できるか:月次アラートだけでは不十分
  • 監査ログ(変更履歴)が保存されるか:管理者による事後修正を防ぐ抑止力になる
  • 規模・予算に合わせた料金プランがあるか:小規模クリニックは200〜500円/人台のツールで十分対応可能

2024年4月以降、医療機関の時間外労働管理は「努力義務」ではなく「法的義務」です。ツールの選定・導入を通じて、スタッフの長時間労働防止と労務コンプライアンスの強化を両立させることが、医療機関の持続的な運営につながります。

規模別おすすめツールの方向性

施設規模推奨ツールの方向性月額コスト目安優先確認事項
個人クリニック(〜10名)freee人事労務・弥生給与Next2,000〜5,000円シンプルな36協定記録・年末調整連携
小規模病院・有床診(10〜50名)ジョブカン勤怠・KING OF TIME1〜2.5万円医師の水準別アラート・宿日直区分
中規模病院(50〜200名)SmartHR・マネーフォワード勤怠2.5〜10万円電子カルテ連携・複数月平均追跡・36協定電子申請
大規模病院・医療法人本部(200名〜)ハーモス勤怠・勤次郎個別見積多拠点管理・HIS統合・監査ログ・面接指導ワークフロー

2026年以降の改正動向に注意が必要な点

厚生労働省は医師の働き方改革の効果検証を継続しており、2029年度を目途に水準の見直しが検討される見込みです。現時点では2024年施行の内容が最新ですが、B・C水準の対象範囲や上限時間数は将来的に変更される可能性があります。導入するツールがパラメータ変更(上限値の更新)に柔軟に対応できるか、ベンダーのアップデート対応方針を事前に確認しておくことが重要です。

また、電子カルテの普及拡大と連動し、勤怠管理の自動化範囲も広がっています。AI・機械学習を活用した「打刻異常の自動検知」や「残業傾向の予測アラート」機能を持つツールも登場しており、大規模施設では先行して検討する価値があります。ただし機能の複雑化はコスト増にもつながるため、自施設の課題と照合しながら、必要な機能に絞ったツール選定が推奨されます。

次に取るべき1ステップ

まず、現行の時間外労働管理の状況を以下の観点で自施設に照らし合わせてください。

  1. 36協定届の最新版が適切に更新・届出されているか
  2. 医師全員の時間外労働時間を月次で把握できているか(A水準960時間・月100時間の閾値管理)
  3. 宿日直中の実業務時間を他の時間外労働と区分して記録しているか
  4. 現行ツール(タイムカード・Excel等)で複数月平均80時間超の追跡ができているか

1つでも「できていない」があれば、時間外労働管理ツールの導入を優先的に検討することを推奨します。本記事で紹介した製品の多くは無料デモ・トライアル期間を設けており、実際の業務フローに合うかを検証した上で導入判断が可能です。詳細は各社の公式サイトをご参照ください。

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mitoru編集部は、本記事を厚生労働省・経済産業省・国税庁・e-Statなど公的一次情報のみをもとに編集しています。個別の判断は税理士・弁護士・社会保険労務士など適切な専門家にご相談ください。

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