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本記事は、介護施設(特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護付き有料老人ホーム・認知症対応型共同生活介護=グループホーム等)における、認知症の方の徘徊・行方不明(無断外出・離設)への対策について、厚生労働省・警察庁・個人情報保護委員会等の公開情報をもとに整理した実務ガイドです。徘徊が起こる背景とBPSD(行動・心理症状)への向き合い方、センサー付きドア・自動施錠等の施設内の環境整備、GPS追跡機器・QRコードシールによる早期発見の工夫、認知症サポーターや近隣・地域ネットワークとの連携、自治体の徘徊高齢者等SOSネットワークの活用、防犯カメラの運用、離設発見時の対応マニュアルまで、施設の管理者・生活相談員・介護職員が実務で参照できる形でまとめています。
対策機器の性能・価格や自治体の制度・要綱は年度・地域によって異なります。導入や運用の検討にあたっては、本記事を出発点として各社公式サイトおよび所在地の市区町村・警察・地域包括支援センターで最新情報をご確認ください。
この記事でわかること
- 徘徊が起こる背景とBPSD(行動・心理症状)への向き合い方
- 施設内の環境整備(センサー付きドア・自動施錠・入退室管理)
- GPS追跡機器の活用と選び方
- QRコードシール・見守りシールによる早期発見の工夫
- 認知症サポーター養成と近隣・地域ネットワークによる見守り体制
- 自治体の徘徊高齢者等SOSネットワークと行方不明時の捜索協力
- 防犯カメラの活用とプライバシー・個人情報保護への配慮
- 離設(施設外脱走)発見時の対応マニュアルと身体拘束との区分
- Q&A・徘徊防止対策チェックリスト
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1. 徘徊が起こる背景 ― 認知症とBPSD(行動・心理症状)への理解
認知症のある方が施設内外を歩き回り、結果として敷地の外に出てしまう「徘徊」は、見当識障害(時間・場所・人物の理解が難しくなる症状)や記憶の障害を背景に、「家に帰りたい」「仕事に行かなければ」「子どもを迎えに行く時間だ」といった、本人にとっては筋の通った目的意識から生じる行動であることが少なくありません。周囲からは目的のない行動に見えても、本人の中には理由や不安が存在している場合が多いとされています。
こうした行動は、認知症の中核症状に伴って現れる行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の一つに位置づけられます。BPSDには焦燥・不安・徘徊・帰宅願望・昼夜逆転等が含まれ、環境の変化や身体的な不快感(空腹・痛み・便秘等)、意思疎通が取りづらいことへのストレスが誘因になる場合があるとされています。厚生労働省は認知症施策の中で、本人の視点に立った理解と、行動を力ずくで止めるのではなく背景にある要因を把握して環境や関わり方を整える対応を基本的な考え方として示しています(出典:厚生労働省「認知症施策」)。
施設における徘徊対策は、行動を無理に制止する方向ではなく、(1)本人の安全を確保しながら、(2)行動の背景にある欲求や不安に寄り添い、(3)やむを得ず外に出てしまった場合に備えて早期発見の仕組みを整えるという三段構えで検討する進め方が実務上のポイントです。次項以降では、施設内の環境整備、GPS・QRコード等の機器活用、地域との連携体制、発見時の対応手順について順に整理します。
2. 施設内の環境整備 ― センサー付きドア・自動施錠・入退室管理システム
施設内の対策としてまず検討されるのが、出入口の管理です。マット型・赤外線型のセンサーを非常口や玄関付近に設置し、入居者が近づいた際に職員のスマートフォンやナースコールに通知する「ドアセンサー」は、身体を拘束せずに離設の兆候を早期に把握できる代表的な機器です。
| 方式 | 仕組み | 特徴 |
|---|---|---|
| マット型センサー | 出入口付近の床マットの荷重変化を検知 | 導入コストを抑えやすいが設置位置の工夫が必要 |
| 赤外線・光電センサー | ドア付近を横切る動きを検知 | 非接触で検知でき、複数の出入口に設置しやすい |
| ドア開閉検知センサー | ドアの開閉そのものを検知 | 既存ドアに後付けしやすく、他方式と併用されることが多い |
| 自動施錠・入退室管理 | テンキー・ICカード・生体認証等で解錠 | 職員の解錠操作を介するため通過に時間差が生じ、離設の抑止につながる |
自動施錠の運用にあたっては、火災等の非常時に迅速に解除できる設計になっているかを消防法令の観点から確認しておくことが前提になります。また、出入口に目立つ施錠表示や柵を設けると、入居者にとって「閉じ込められている」という圧迫感につながりやすいため、書棚や絵画で扉を目立たなくする工夫を取り入れる施設も見られます。センサー・施錠設備はあくまで見守りと安全確保のための環境整備であり、身体を直接拘束するものではない点を、後述する身体拘束の考え方とあわせて整理しておくことが実務上重要です。

3. GPS追跡機器の活用と選び方
施設内の対策に加えて、万一敷地外に出てしまった場合に備える手段がGPS追跡機器です。靴の中敷きに内蔵するタイプ、キーホルダー型、上着や杖に取り付けるクリップ型等、身に着ける負担が少ない製品が広がっています。家族や職員がスマートフォンのアプリで現在地を確認できるほか、あらかじめ設定した範囲(ジオフェンス)から外れると通知が届く機能を備えた製品もあります。
選定にあたっては、バッテリーの持続時間、充電のしやすさ(本人が自分で操作しなくても済む方式か)、屋内や地下でも位置情報を捕捉しやすい通信方式か、月額の通信料、家族側での閲覧のしやすさを比較する必要があります。GPSは電波状況や建物の構造によって精度が変動する場合があるため、GPSのみに頼るのではなく、次項のQRコードシールや地域ネットワークと組み合わせて備える運用が現実的です。
4. QRコードシール・見守りシールによる早期発見の工夫
QRコードシールは、衣類・靴・杖等に貼り付けた小さなシールを発見者がスマートフォンで読み取ると、施設や家族に連絡が取れる仕組みです。氏名や住所を直接衣類に記載するのではなく、固有のIDを介して連絡が取れる設計のため、個人情報を第三者にむやみに開示せずに済む点が特徴です。反射材つきのシールを併用すれば、夜間の発見のしやすさにもつながります。
自治体によっては、認知症の方やその家族向けにQRコードシール・見守りステッカーの配布や、事前登録した情報と連携する仕組みを提供している例があります。費用負担を抑えたい場合は、まず所在地の市区町村の高齢福祉担当窓口や地域包括支援センターに、活用できる制度がないかを確認する進め方が実務上のポイントです。
5. 認知症サポーター養成と近隣・地域ネットワークによる見守り体制
施設内の対策だけでなく、地域全体で見守る体制づくりも重要な位置づけです。厚生労働省は、認知症について正しく理解し、地域で本人や家族を見守る「認知症サポーター」の養成を推進しており、講座は施設職員に限らず、商店主・金融機関の窓口担当者・郵便局員・宅配事業者・自治会役員等、幅広い立場の人が受講できる仕組みになっています(出典:厚生労働省「認知症施策」)。
施設周辺の商店・コンビニエンスストア・交番・自治会と、あらかじめ見守りに関する協力関係を築いておくと、入居者が施設の外を歩いている様子を見かけた際に、施設や家族へ連絡してもらえる可能性が高まります。日頃から地域の会合や防災訓練に施設として参加し、顔の見える関係を作っておくことが、いざというときの早期発見につながる土台になります。

6. 自治体の徘徊高齢者等SOSネットワークと行方不明時の捜索協力
多くの市区町村では、認知症等により行方不明になるおそれのある方を対象に、事前に氏名・写真・身体的特徴等を登録しておき、行方不明時に警察・地域包括支援センター・タクシー会社・コンビニエンスストア・郵便局等の協力機関へ一斉に情報を発信する「徘徊高齢者等SOSネットワーク」(名称は自治体により異なります)を整備しています。施設としても入居者・家族の同意を得たうえで、こうした制度への事前登録を案内しておくことが、行方不明時の早期発見に直結する備えになります。
警察庁の統計では、認知症またはその疑いによる行方不明者届の受理件数は増加傾向が続いており、社会全体での見守り体制の強化が課題として指摘されています(出典:警察庁「行方不明者の状況」)。施設が複数の市区町村の境界付近に立地する場合は、隣接自治体のSOSネットワークとの連携状況もあわせて確認しておくと、捜索範囲が行政区域をまたぐ場合にも対応しやすくなります。
7. 防犯カメラの活用とプライバシー・個人情報保護への配慮
防犯カメラは、玄関・非常口・駐車場等、施設の出入口周辺に設置することで、離設の早期発見や、外部からの不審者対策にもあわせて役立ちます。一方で、居室内へのカメラ設置は入居者本人のプライバシーに深く関わるため、設置する場合は目的を明確にし、入居者・家族へ事前に説明したうえで同意を得る運用が前提になります。
録画データは要配慮個人情報に該当し得る情報を含むため、保存期間の設定、閲覧できる職員の範囲、外部への提供に関する取り扱いを、個人情報保護委員会のガイドラインを踏まえて事業所内の規程に明記しておく必要があります(出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)。カメラの映像はあくまで早期発見・安全確保の手段であり、常時監視によって入居者の行動を制限する目的で用いるものではないという位置づけを、職員間で共有しておくことも実務上重要です。
8. 離設(施設外脱走)発見時の対応マニュアル ― 発見時対応・身体拘束との区分・家族への説明・事後の振り返り
発見後の初期対応
離設(施設外への無断外出)を覚知した際は、まず館内・敷地内を分担して捜索し、並行して周辺道路やよく行く場所(自宅方面・以前の職場・行きつけの店等)を確認します。一定時間を目安に発見に至らない場合は、早期に警察へ連絡し、あわせて登録している自治体のSOSネットワークへの発報も判断します。発見後は、まず本人の安全と体調(外傷・脱水・体温等)を確認し、必要に応じて医療機関につなぎます。捜索の開始時刻・発見時刻・対応者・本人の様子は記録に残しておきます。
身体拘束との区分
徘徊対策の検討では、身体拘束との区分を正しく理解しておくことが欠かせません。介護保険の運営基準では、生命または身体を保護するために緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入居者の行動を制限する行為は原則として禁止されています。やむを得ず行う場合も、切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たすかを施設全体で慎重に検討したうえで、経過を記録することが求められています(出典:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」関連資料)。センサーによる通知や自動施錠付き玄関の設置自体は身体を直接拘束するものではなく見守りのための環境整備と位置づけられますが、施錠の運用次第では行動制限とみなされ得るため、目的と必要性を都度確認し、記録を残しておく姿勢が求められます。身体拘束に関する考え方は高齢者虐待の防止とも関わるため、厚生労働省の関連情報(出典:厚生労働省「高齢者虐待防止・養護者支援に関する情報」)もあわせて確認しておくと理解が深まります。
家族への説明
離設が発生した場合は、発見の有無にかかわらず、事実関係(発生の経緯・捜索の経過・発見時の状況・本人の様子)を家族に速やかかつ正確に伝えることが信頼関係の維持につながります。原因を一方的に職員の不注意と断定したり、逆に本人の行動のみを理由にしたりするのではなく、施設としてどのような環境整備・見守り体制を取っていたか、今後どのような再発防止策を検討しているかをあわせて説明する姿勢が重要です。
事後の振り返り
離設が発生した後は、発生時刻・場所・当時の人員配置・気づいたきっかけ・対応の経過をインシデントレポートとして記録し、事業所内の会議で振り返りを行います。振り返りは特定の職員の責任を追及することが目的ではなく、環境面(出入口の死角、センサーの配置)、運用面(巡視の間隔、通知の確認体制)、本人の状態変化(薬剤調整の直後、体調不良、環境変化の直後等)に再発防止のヒントがないかを多角的に検討する進め方が実務上の基本です。振り返りの内容は、地域密着型サービスの場合は市町村、その他の施設種別では都道府県等、所管の指定権者への報告が必要になる場合があるため、事故報告の要否もあわせて確認しておきます。

9. Q&A・徘徊防止対策チェックリスト
Q1. GPS機器を持たせれば徘徊対策は十分ですか?
GPS機器は敷地外に出た後の早期発見に役立つ手段の一つですが、電波状況によって精度が変わる場合があり、単独での対策には限界があります。施設内のセンサー・自動施錠、QRコードシール、地域ネットワークとの連携を組み合わせ、複数の対策を重ねておく考え方が現実的です。
Q2. 自動施錠は身体拘束にあたりますか?
自動施錠そのものが直ちに身体拘束に該当するわけではありませんが、入居者の行動を必要以上に制限する運用になっていないか、目的と必要性を継続的に確認する必要があります。判断に迷う場合は、切迫性・非代替性・一時性の3要件に照らして施設全体で検討し、記録を残す運用が推奨されます。
Q3. 認知症サポーター養成講座は施設職員以外も受講できますか?
認知症サポーター養成講座は、施設職員に限らず地域住民・商店・金融機関・宅配事業者等、幅広い立場の人が受講できる仕組みになっています。施設周辺の関係者に受講を案内し、見守りの目を増やしておくことが、行方不明時の早期発見につながります。
Q4. 徘徊高齢者等SOSネットワークへの登録は義務ですか?
制度への登録は任意である場合がほとんどですが、行方不明時の初動対応が格段にスムーズになるため、入居者・家族の同意を得たうえで登録を案内しておくことが実務上推奨されます。制度の名称・登録方法は市区町村によって異なるため、所在地の窓口で確認してください。
Q5. 離設が発生した場合、行政への報告は一律の義務ですか?
報告の要否は施設種別や事故の内容によって異なり、一律に決まっているわけではありません。所管の指定権者(市町村・都道府県)が定める事故報告の基準を確認し、該当する場合は速やかに報告する必要があります。判断に迷う場合は、所管窓口に直接確認する進め方が確実です。
徘徊・行方不明防止対策チェックリスト
- 入居者ごとの徘徊のきっかけ・時間帯・行動パターンを記録し、共有しているか
- 出入口へのセンサー・自動施錠等、身体を拘束しない環境整備を導入しているか
- GPS追跡機器・QRコードシール等、敷地外に出た場合の早期発見手段を備えているか
- 入居者・家族の同意を得たうえで、自治体の徘徊高齢者等SOSネットワークへの登録を案内しているか
- 施設周辺の商店・自治会・交番との見守り協力関係を築いているか
- 職員が認知症サポーター養成講座等を通じてBPSDへの理解を深める機会を設けているか
- 離設発生時の捜索・警察連絡・家族連絡の手順と担当を明文化しているか
- 身体拘束の3要件(切迫性・非代替性・一時性)に沿った判断基準を職員間で共有しているか
- 離設発生後にインシデントレポートを作成し、再発防止の振り返りを行う体制があるか
- 防犯カメラ・GPS等で取得する情報の保存期間・アクセス権限を規程に明記しているか
10. 出典・参考資料
本記事は2026年9月時点の公開情報を整理した一般的な案内です。制度・機器の仕様、自治体の取り組みは法改正や年度ごとの見直しにより変更される場合があります。最新情報は以下の公式情報をご確認ください。
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出典
- 厚生労働省「認知症施策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html - 厚生労働省「認知症施策推進大綱」
https://www.mhlw.go.jp/stf/ninchisho_taikou.html - 厚生労働省「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」
https://www.mhlw.go.jp/stf/ninchisho_kihonhou.html - 厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」関連資料
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kaigo/torikumi/torikumi.html - 厚生労働省「高齢者虐待防止・養護者支援に関する情報」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/boushi/index.html - 厚生労働省「地域包括ケアシステム」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html - 警察庁「行方不明者の状況」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/seianki.html - 警察庁「安全・安心まちづくり推進要綱」
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/seianki/anzen_anshin.html - 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
免責事項
本記事は2026年9月時点の公開情報を整理した一般的な案内です。徘徊対策機器の性能・価格、自治体のSOSネットワークや認知症サポーター養成講座の実施状況、身体拘束に関する運用は、法改正・年度改定・自治体の制度改定により随時変更されるため、最新の内容は所在地の市区町村・警察・地域包括支援センター、および各メーカーの公式情報でご確認ください。本記事は特定の対応が身体拘束に該当するか否かを法的に判断したり、個別の事故対応について助言を行ったりするものではありません。本記事の情報に基づく判断で生じた損害について、当編集部は責任を負いません。
最終更新日:2026年9月17日|情報取得日:2026年9月17日|mitoru編集部
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mitoru編集部の見解
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