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訪問看護ステーションが妊産婦支援・産後訪問に取り組む動きが広がっています。少子化と核家族化のなかで、退院直後の母子が孤立しやすい状況が指摘され、母子保健法・産後ケア事業・産前産後サポート事業などの制度整備が進んできました。本記事は、訪問看護ステーションが妊産婦・新生児家庭に関わる際の制度枠組みと連携ポイントを、母子保健法・厚生労働省・こども家庭庁の公開情報を整理した内容としてまとめます。個別の医療判断・診断・治療の助言は行わず、事業運営・連携・制度理解の観点で構成しています。具体的な取り扱いは、管轄市区町村母子保健担当・保健所・地方厚生局にご確認ください。
この記事でわかること
- 母子保健法・産後ケア事業の制度上の位置づけと2024年改正の概要
- 訪問看護ステーションが妊産婦支援に関与する典型的な入り口
- 助産師・保健師・市区町村母子保健担当との連携ポイント
- 新生児訪問指導・乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)の枠組み
- 産後ケア事業のアウトリーチ(訪問)型の運用論点
- 医療保険訪問看護・自治体委託事業・自費サービスの住み分け
- 2024年度改定以降の関連加算・支援策の要点
- FAQ 5問・公的機関出典を中心とした参考リンク
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1. 母子保健法と産後ケア事業——制度の全体像
妊産婦・乳幼児への訪問支援は、母子保健法を法的根拠として、市区町村を実施主体とする体系が中心です。母子保健法第17条の2に基づく「産後ケア事業」は、2019年改正で努力義務化、2021年に施行され、退院直後から産後1年以内の母子を対象に、心身のケアや育児支援を提供する枠組みとして全国の市区町村で整備が進んでいます(出典:厚生労働省「産後ケア事業について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08415.html )。事業類型は「短期入所(ショートステイ)型」「通所(デイサービス)型」「居宅訪問(アウトリーチ)型」の3つで、訪問看護ステーションが関与しやすいのは「居宅訪問型」です。
母子保健法の条文本体は e-Gov 法令検索から確認できます(出典:e-Gov 法令検索「母子保健法」 https://elaws.e-gov.jp/document?lawid=340AC0000000141 )。2024年4月には「こども家庭センター」が全市区町村に設置され、母子保健と児童福祉を一体的に運営する体制へ移行しました。訪問看護ステーションが自治体委託を受ける場合の窓口は、多くの自治体でこども家庭センターに集約される流れです(出典:こども家庭庁「こども家庭センター」 https://www.cfa.go.jp/policies/kokoro-body-health/child-family-center )。
1-1. 3つの入り口——医療保険・自治体委託・自費
訪問看護ステーションが妊産婦・新生児家庭に関わる入り口は、大きく3つに整理できます。第1に、医療的ケアを要する妊産婦・新生児(低出生体重児、医療的ケア児、母体合併症など)への医療保険訪問看護。第2に、市区町村からの産後ケア事業(居宅訪問型)や新生児訪問指導の委託。第3に、保険外の自費サービスとしての育児相談・母乳ケア等です。制度上の位置づけ・料金設計・報告様式がそれぞれ異なるため、事業設計時にどの入り口を組み合わせるかを整理しておく取り扱いが望まれます。
2. 新生児訪問指導と乳児家庭全戸訪問事業
新生児期の家庭訪問は、法的根拠が異なる複数の事業が併存しています。用語が混同されやすいため、実施主体・対象・目的の違いを押さえることが連携の前提となります。
2-1. 新生児訪問指導(母子保健法第11条)
母子保健法第11条に基づく新生児訪問指導は、市区町村が新生児のいる家庭に助産師・保健師等を派遣し、養育上の指導を行う事業です。対象は原則新生児期(生後28日以内、必要に応じ延長)で、実施主体は市区町村です。訪問看護ステーションが担うケースは、市区町村から個別に業務委託を受けて助産師・看護師を派遣する形が一般的です(出典:厚生労働省「母子保健施策の推進」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/index.html )。
2-2. 乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)
児童福祉法に基づく乳児家庭全戸訪問事業は、生後4か月までの乳児がいるすべての家庭を訪問し、子育て情報の提供や養育環境の把握を行う事業です。実施主体は市区町村で、訪問者は助産師・保健師・看護師のほか、研修修了者(子育て経験者、母子保健推進員等)も担いうる設計になっています。医学的アセスメントの深度は新生児訪問指導より軽く、位置づけとして「すべての家庭に一度は入る」ことが主眼です(出典:こども家庭庁「乳児家庭全戸訪問事業」 https://www.cfa.go.jp/policies/kosodate-shien/ryoiku-shien )。
2-3. 養育支援訪問事業との連携
全戸訪問で支援ニーズが把握された家庭には、養育支援訪問事業による継続支援へつながる設計です。育児不安、多胎、若年、産後うつ傾向、社会的孤立などが該当します。訪問看護ステーションが養育支援訪問の受託事業者となる場合、要保護児童対策地域協議会(要対協)や児童相談所との情報共有ルールを事前に整備することが運用上の要点です。
3. 産後ケア事業「居宅訪問(アウトリーチ)型」の運用
産後ケア事業の居宅訪問型は、産後1年以内の母子を対象に、助産師等が家庭を訪問し授乳指導・沐浴指導・育児相談・母体の休養支援などを提供する枠組みです。実施要領や運用ガイドラインは厚生労働省が示し、詳細は各市区町村が定めています(出典:厚生労働省「産後ケア事業ガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/001267664.pdf )。訪問看護ステーションが担う場合、次のような論点整理が求められます。
3-1. 助産師配置と看護師の関与範囲
ガイドラインでは、産後ケア事業の実施者として助産師・保健師・看護師を想定し、事業類型・支援内容に応じて配置基準が示されています。授乳指導・乳房ケアなど助産師の専門領域が中心となる場面が多いため、訪問看護ステーションで受託する場合は、助産師の常勤・非常勤配置または近隣助産所との連携体制を組む設計が現実的です。看護師が担いうる支援範囲・助産師の関与が必要な範囲を、市区町村の実施要領で確認する取り扱いが望まれます。
3-2. 委託料と自己負担
産後ケア事業の委託単価は市区町村ごとに設定され、国の補助(母子保健衛生費国庫補助金)を財源に運営されます。利用者自己負担は市区町村が定め、住民税非課税世帯等は減免される場合があります。2024年度以降、産後ケア事業の利用促進のため自己負担軽減の措置が拡充されており、詳細は各市区町村の要綱で確認します(出典:こども家庭庁「産後ケア事業」 https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/kenkou/sango-care )。
3-3. 記録様式と報告
産後ケア事業は市区町村事業のため、記録様式・報告書式が自治体ごとに指定される点が医療保険訪問看護と異なります。訪問看護記録システムに産後ケア用の様式を組み込むか、別紙で管理するかを設計段階で決めておくと、月次報告の運用負荷を抑えられます。母子保健情報の取り扱いは個人情報保護に加えて自治体条例上の配慮も求められるため、情報管理規程の整備が前提です。
4. 医療保険訪問看護での妊産婦・新生児対応

妊産婦・新生児が医療保険訪問看護の対象となるのは、医師が訪問看護指示書を交付する医療的必要性のあるケースです。低出生体重児、医療的ケア児(在宅酸素・経管栄養等)、精神疾患を有する妊産婦、周産期合併症の在宅管理などが代表的です。診療報酬告示・通知の最新版は厚生労働省の該当ページで確認します(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00041.html )。
4-1. 精神科訪問看護と周産期メンタルヘルス
産前産後のメンタルヘルス支援は近年注目される領域で、精神科訪問看護(精神科訪問看護基本療養費)による支援を導入する自治体・医療機関が増えています。訪問看護ステーションが精神科訪問看護の届出を行うことで、精神科主治医からの指示書に基づく訪問が可能になります。診断・治療は主治医が行い、訪問看護は生活支援・服薬支援・症状観察・受診同行の調整などが役割となります。
4-2. 医療的ケア児と在宅移行支援
NICU・GCUを退院する医療的ケア児の在宅移行では、退院前カンファレンスへの参加、家族への手技指導、地域の小児在宅医との連携が中心的な業務となります。医療的ケア児支援法(2021年施行)により、市区町村・都道府県には医療的ケア児支援センターが設置され、コーディネーターとの連携枠組みも整備が進んでいます(出典:こども家庭庁「医療的ケア児等への支援」 https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishisaku/iryou-care-child )。
5. 助産師・保健師・地域医療機関との連携
妊産婦支援は、産科医療機関・地域助産師・市区町村保健師・こども家庭センター・地域小児科の多職種で構成されるチーム支援が前提となる領域です。訪問看護ステーションが単独で完結する形にはなりにくく、連携経路の設計が事業設計の根幹です。
5-1. 退院時カンファレンスへの参加
ハイリスク母子や医療的ケア児のケースでは、産科病棟・NICUからの退院前カンファレンスに訪問看護師が参加し、在宅移行後の支援計画を共有する運用が一般的です。参加のタイミング、共有情報の範囲、家族同意の取り扱いを、産科医療機関・在宅医と事前に整理しておくと、退院当日の混乱を抑えられます。
5-2. こども家庭センターとの窓口一本化
2024年4月以降、市区町村の母子保健・児童福祉の相談窓口はこども家庭センターに集約される方向です。訪問看護ステーションが産後ケア事業・養育支援訪問事業の受託を検討する場合、まずはこども家庭センターに窓口を一本化して情報連携ルールを合意する取り扱いが円滑です。要支援家庭の情報共有は要対協ルートも含めた設計が必要です。
5-3. 地域助産所・母乳外来との補完関係
授乳・乳房ケアの専門性は地域助産所・母乳外来が高く、訪問看護ステーションが独自に囲い込むより、専門領域は紹介する連携設計のほうが利用者利益にかないます。地域の助産師会・産科医会との顔の見える関係づくりが、受託拡大にも寄与します。
6. 2024〜2026年の関連制度動向
妊産婦・新生児支援は、こども家庭庁発足(2023年4月)以降、政策の再編が続いている領域です。訪問看護ステーションの事業設計に影響しうる主な動きを整理します。
6-1. こども家庭センターの全国設置(2024年4月)
改正児童福祉法・改正母子保健法の施行により、市区町村に「こども家庭センター」を設置する努力義務が課され、母子保健と児童福祉の一体的相談体制が整備されました。妊娠期からの伴走型相談支援と経済的支援(出産・子育て応援交付金)も併せて拡充されています。
6-2. 産後ケア事業の量的拡大
産後ケア事業は「こども未来戦略」の一環として、実施市区町村の増加と利用しやすさの改善が政策目標に掲げられ、居宅訪問型を含む3類型の全国展開が進められています。訪問看護ステーションにとっては、地域の産後ケア需要と受け皿不足のギャップを埋める役割が期待される局面です。
7. よくある質問(FAQ)
- Q1. 助産師がいない訪問看護ステーションでも産後ケア事業は受託できますか
- 市区町村の実施要領で助産師配置が要件化されている場合は受託できません。要件が「助産師または保健師・看護師」となっている自治体もあるため、地元自治体の要綱を確認したうえで、助産師の非常勤採用・近隣助産所との業務委託契約などで要件を満たす設計を検討する取り扱いになります。
- Q2. 新生児訪問指導と乳児家庭全戸訪問事業は何が違いますか
- 根拠法・目的・訪問者の資格要件が異なります。新生児訪問指導は母子保健法に基づき助産師・保健師等が医学的観点で行い、乳児家庭全戸訪問事業は児童福祉法に基づき研修修了者を含む幅広い担い手が養育環境把握を目的に行います。自治体により両事業を一体的に運用する例も多く見られます。
- Q3. 医療保険訪問看護と産後ケア事業は同時利用できますか
- 制度上の建て付けが異なり、同日・同時間帯に重複算定することは原則想定されていません。医療的ケアを要する母子は医療保険訪問看護、生活支援・育児相談は産後ケア事業といった役割分担で、日を分けて提供する運用が一般的です。詳細は市区町村の実施要領・地方厚生局の解釈で確認します。
- Q4. 産後うつの疑いがある利用者への対応はどう考えればよいですか
- 診断は精神科医が行うため、訪問看護ステーションで診断的判断や治療的助言は行いません。エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)等のスクリーニングの取り扱いは、市区町村母子保健担当・産科主治医との事前合意に基づく運用が望まれます。リスクを察知した場合は、こども家庭センター・産科主治医・精神科医療機関への情報共有ルートを事前に整えておく設計が重要です。
- Q5. 自費の産後訪問サービスを併設する場合の留意点は
- 保険内サービス(医療保険訪問看護・自治体委託事業)と保険外(自費)サービスは、契約・料金・記録を明確に分離する取り扱いが求められます。利用者に対する説明責任、広告表現(医療広告ガイドライン・景品表示法)、個人情報の分別管理など、コンプライアンス設計を整備したうえで開始する構造が望まれます。
8. まとめ——妊産婦支援参入のチェックリスト
- 市区町村(こども家庭センター)の産後ケア事業・新生児訪問指導の実施要領を入手したか
- 助産師配置または連携先助産所を確保したか
- 医療保険訪問看護と自治体委託事業の記録・請求フローを分離設計したか
- 退院時カンファレンス参加・産科医療機関との連携経路を合意したか
- 精神科訪問看護の届出要否と要対協との情報共有ルールを整備したか
- 個人情報保護・母子保健情報の取り扱い規程を整備したか
- 自費サービス併設時の契約・料金・広告表現のコンプライアンス確認をしたか
妊産婦・新生児支援は、制度・多職種・家族の生活が交差する繊細な領域です。訪問看護ステーションの事業設計としては、医療保険・自治体委託・自費の3層を整理し、地域のこども家庭センター・助産師・産科医療機関との連携経路を先に組んでから運用に入る順序が、持続可能な立ち上げにつながります。本記事の内容は公開情報を整理した一般的な解説であり、具体的な事業設計・算定・臨床判断は管轄行政機関・主治医・社労士・弁護士等にご相談ください。
関連リンク
出典
- 厚生労働省「産後ケア事業について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08415.html
- 厚生労働省「産後ケア事業ガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/001267664.pdf
- 厚生労働省「母子保健施策の推進」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/index.html
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00041.html
- e-Gov 法令検索「母子保健法」https://elaws.e-gov.jp/document?lawid=340AC0000000141
- こども家庭庁「こども家庭センター」https://www.cfa.go.jp/policies/kokoro-body-health/child-family-center
- こども家庭庁「産後ケア事業」https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/kenkou/sango-care
- こども家庭庁「乳児家庭全戸訪問事業」https://www.cfa.go.jp/policies/kosodate-shien/ryoiku-shien
- こども家庭庁「医療的ケア児等への支援」https://www.cfa.go.jp/policies/shougaijishisaku/iryou-care-child
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