医療機関の給与計算SaaS導入 完全ガイド【2026年版・当直手当/オンコール/変形労働時間/多職種対応】

📅公開日:2026-08-22
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医療機関の給与計算業務は、一般企業とは異なる複雑性を持ちます。夜勤手当・宿日直手当・オンコール手当・特殊勤務手当(感染症対応・放射線業務等)・医師年俸制・非常勤医師のスポット報酬など、医療業務固有の給与要素が多層に組み合わさります。加えて、労働基準法・所得税法・社会保険関係諸法令・電子帳簿保存法・マイナンバー関連法などの法改正を継続的に反映する必要があり、給与計算業務の負荷は年々増加傾向にあります。本記事は、病院事務長・クリニック院長・人事担当者・医療法人本部の担当者を主な読者として想定し、公開情報を整理した内容として、医療機関向け給与計算SaaS導入の考え方・比較観点・周辺業務との連携論点を体系的に解説します。

本記事で参照する制度・数値・運用例は、厚生労働省・国税庁・デジタル庁・e-Gov法令検索・全国健康保険協会(協会けんぽ)など公的機関が公開する情報をもとに整理しています。個別ベンダーの機能詳細・料金は公式サイトで最新情報をご確認ください。給与計算業務の具体的な設計・運用や労務手続きに関しては、社会保険労務士・税理士など専門家にご相談ください。医療行為の助言は本記事の対象外です。

この記事で分かること

  • 医療機関の給与計算が複雑になる構造的要因(夜勤・宿日直・オンコール・年俸制・非常勤)
  • 給与計算SaaS導入のメリットと導入時の判断軸
  • 主要ベンダー選定時の比較観点(機能・料金・サポート・連携性)
  • 勤怠管理システムとの連携設計と、シフト制医療機関特有の論点
  • 年末調整のクラウド化と職員向け入力フローの整備
  • 社労士アウトソースとの業務分担(インハウス/外部委託/ハイブリッド)
  • 電子帳簿保存法(改正2022年1月/宥恕措置終了2024年1月)への対応
  • マイナンバー管理のクラウド化と安全管理措置
  • 2024年前後の動向(医師働き方改革・定額減税・電帳法本格運用)
  • 導入検討時によくある質問5問
  • 関連内部リンクと次のステップ

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1. 医療機関給与計算の複雑性

医療機関の給与計算は、一般産業に比べて手当種類・勤務区分・雇用形態のバリエーションが多く、単純な月給×時間外という計算構造では収まりにくい特徴があります。ここでは、SaaS選定の前提となる「医療機関特有の給与計算論点」を整理します。

1-1. 夜勤手当と2交代・3交代シフト

看護部を中心に、2交代制(日勤・夜勤)または3交代制(日勤・準夜・深夜)のシフト勤務が広く運用されています。夜勤手当は施設独自の規程で1回あたりの定額支給、または深夜割増(22時〜翌5時の25%以上加算)と組み合わせた設計が一般的です。労働基準法第37条に基づく深夜割増は割増賃金の算定基礎(家族手当・通勤手当等を除いた通常賃金)で計算する必要があり、給与計算ソフトが勤怠データと連動して自動計算できるかが実務上の重要ポイントとなります(出典:厚生労働省「時間外・休日・深夜労働の割増賃金」 https://www.mhlw.go.jp/hourei_db/kijun/030101_02.html 取得日:2026-08-22)。

1-2. 宿日直手当と労働基準法第41条第3号

医師・看護師の宿日直勤務のうち、労働基準監督署から労働基準法第41条第3号に基づく「宿日直許可」を受けた勤務は、原則として労働時間に含まれず、宿日直手当(最低賃金の1/3以上が目安)で処遇できるとされています。給与計算SaaSでは、宿日直の回数・区分(許可あり/許可なし)を勤怠側で分けて集計し、給与側では固定額手当として計上する運用が一般的です。宿日直許可の有無で計算ロジックが分岐するため、施設ごとの許可状況に応じたマスタ設定が必要となります(出典:厚生労働省「医師の宿日直許可基準」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html 取得日:2026-08-22)。

1-3. オンコール手当の設計

オンコール勤務(自宅待機で緊急時に呼び出される勤務)は、待機自体の対価としてのオンコール手当(1回あたり定額)と、実際に呼び出された場合の呼出手当・移動時間の取り扱いを分けて設計する施設が多い構成です。呼出後の実労働時間は通常の労働時間として賃金・割増の対象となり、勤怠側の記録と給与計算側の集計を分離して管理する必要があります。給与計算SaaSでは、待機のみのケース/呼出発生のケースを別手当コードで管理し、月次で集計する仕組みが便利です。

1-4. 医師年俸制・非常勤スポット報酬・特殊勤務手当

常勤医師は年俸制(12分割または16分割)で運用される事例が多く、SaaSでは年俸額の月額按分と、時間外含み年俸の場合の追加時間分の割増計算を分けて設定します。非常勤医師(スポット医師・外来応援医)は時給または日給が中心で、業務委託契約であれば源泉徴収税額計算(10.21%源泉/個人事業主扱い)が必要です。さらに、特殊勤務手当(感染症病棟・放射線業務・手術室・ICU・救急外来等)、専門医手当・認定看護師手当・専門薬剤師手当などの資格手当が多岐にわたる点も、医療機関給与計算の負荷要因となります。手当マスタを柔軟に定義でき、対象者を職種・部署・保有資格の組み合わせで管理できることが、SaaS選定の判断軸となります。

2. 給与計算SaaS導入のメリット

従来のオンプレミス型パッケージや表計算ソフトによる給与計算から、クラウド型SaaSへの移行が進む背景には、以下のようなメリットがあります。

2-1. 法改正への自動対応

所得税法・社会保険関係法令・労働基準法などは、毎年のように改正が入ります。健康保険料率・介護保険料率・雇用保険料率・所得税源泉徴収税額表・住民税特別徴収税額など、給与計算に直結する数値は年次更新が必要です。クラウドSaaSは、料率改定・税額表更新がベンダー側で自動反映される仕組みが一般的で、担当者による手動アップデート作業を減らせます。2024年6月からの定額減税、電子帳簿保存法の宥恕措置終了などの制度変更にも、SaaS側の対応が事前に案内される点は運用負荷の軽減につながります(出典:国税庁「定額減税特設サイト」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/teigakugenzei/index.htm 取得日:2026-08-22)。

2-2. 勤怠・年末調整・マイナンバーとの一元管理

クラウド型SaaSの多くは、勤怠管理・給与計算・年末調整・マイナンバー管理を同一プラットフォームで提供、または連携APIで統合できます。勤怠データを給与計算に自動反映できれば、勤務区分ごとの手当集計・割増賃金計算の入力工数が削減されます。年末調整もクラウド化することで、職員自身がスマホ・PCから扶養情報・保険料控除申告を入力する運用が可能となり、紙帳票の回収・入力代行の負荷を軽減できます。

2-3. Web給与明細とBCP・災害対応

紙の給与明細からWeb明細(PDF・スマホアプリ閲覧)への移行はSaaS導入の代表的な運用改善です。所得税法第231条は給与等の支払明細書の交付を義務付けていますが、電磁的方法での交付も一定要件のもとで認められています。夜勤で不規則勤務の看護師・複数施設を掛け持ちする医師にとっても、スマホから随時明細を確認できる仕組みは利便性が高い運用です。また、オンプレミス型は施設内サーバーの障害・災害でデータが停止するリスクがある一方、SaaS型は事業者側データセンターで冗長構成が組まれていることが多く、BCP(事業継続計画)上の利点があります。

3. 主要ベンダー比較観点

給与計算SaaSは、汎用型(全業種向け)と医療機関特化型に大別されます。特定ベンダー名の推奨は本記事の目的ではありませんが、以下の観点で複数サービスを比較することが導入検討の起点となります。

3-1. 比較観点の一覧

比較観点チェック項目医療機関特有の論点
手当マスタの柔軟性手当コード数の上限、条件式による自動判定夜勤・宿日直・オンコール・特殊勤務手当を分離管理できるか
勤怠連携CSV連携/API連携/同一ベンダー統合シフト制の勤務区分(日勤・準夜・深夜)を給与に反映
年俸制対応年俸額の月次按分、時間外含み設定医師年俸制・16分割対応・追加時間分の割増
雇用形態の多様性正社員・パート・派遣・業務委託非常勤医師(雇用契約/業務委託)の混在管理
料金体系初期費用・月額(基本料+従量)職員数変動(採用・退職)に応じた課金体系
サポート体制導入支援・年末調整サポート・法改正対応医療機関特有の質問への回答実績
セキュリティISMS認証・データセンター所在地・暗号化マイナンバー・給与情報の取扱基準への適合
会計・人事連携会計ソフト連携、人事DBとの同期医療法人本部の複数施設一元管理

3-2. 汎用型/特化型の選び分けと料金体系

職員数100人未満のクリニック・小規模診療所は汎用型SaaS+手当マスタのカスタマイズで対応できる事例が多い一方、大規模病院・急性期病院で医師年俸制・複雑なシフト・特殊勤務手当が多岐にわたる場合は、医療機関の運用実績を持つ特化型サービスや社労士事務所と連携する導入支援を選択肢に含める考え方があります。料金は「初期費用+月額基本料+従量課金(従業員数×単価)」の組み合わせが主流で、在籍者ベースか給与計算対象者ベースかで単価が異なる場合があります。非常勤医師・パート職員の課金対象範囲、年末調整のみ別課金の有無を事前確認し、年間総費用で比較する進め方が実務的です。

4. 勤怠管理システムとの連携

4-1. 連携方式の3類型

  • 同一ベンダー統合型:勤怠・給与を同一SaaSで提供。マスタが1系統で運用負荷が最小
  • API連携型:異なるベンダー間をAPIで自動連携。勤怠締日から給与計算まで人手介在を減らせる
  • CSVエクスポート/インポート型:勤怠側でCSV出力→給与側で取り込み。導入コストは低いが手動作業が残る

4-2. シフト制医療機関特有の連携論点

看護部の2交代・3交代シフト、医師の当直・オンコールなど、医療機関の勤務区分は多岐にわたります。勤怠システム側で勤務区分ごとに集計値を出力し、給与側の手当コードにマッピングする設定作業が導入時の山場となります。宿日直許可の有無で夜勤扱いか宿日直扱いかが分岐するため、勤怠側のシフトマスタと給与側の手当マスタを事前に対応付ける準備が推奨されます。

4-3. 医師の労働時間通算(副業・兼業)

2024年4月施行の医師の時間外労働上限規制では、副業・兼業先の労働時間も通算して上限管理を行うことが求められます。SaaSは自院分の労働時間しか把握できないため、副業先分を職員申告で回収し、勤怠システム側で通算管理する運用と組み合わせる必要があります。

5. 年末調整のクラウド化

5-1. 年末調整クラウド化の運用フロー

年末調整をクラウド化する場合、一般的な運用フローは以下となります。

  • 11月上旬:職員向けに年末調整入力フォームの案内(メール・院内掲示・アプリ通知)
  • 11月中〜下旬:職員がスマホ・PCから扶養情報・保険料控除申告・住宅ローン控除申告を入力
  • 11月下旬〜12月上旬:保険料控除証明書などの証憑書類をアップロード(画像・PDF)
  • 12月上旬:担当者がSaaS画面で回収状況確認、未提出者に督促
  • 12月中旬:SaaSが年税額を自動計算、12月給与または賞与で還付・追加徴収
  • 翌1月:源泉徴収票の電子交付、給与支払報告書の各市区町村への電子提出

5-2. 控除証明書電子データ受取とeLTAX電子提出

2020年度以降、生命保険料控除証明書・地震保険料控除証明書・住宅ローン控除証明書などが電子データ(XML形式)で発行されるようになりました。国税庁の「マイナポータル連携」を活用すれば、職員自身が保険会社等から取得した控除証明書データをそのまま年末調整SaaSに取り込め、紙証明書の目視入力を減らせます(出典:国税庁「年末調整手続の電子化に向けた取組について」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho.htm 取得日:2026-08-22)。市区町村への給与支払報告書提出は、地方税ポータルシステム「eLTAX(エルタックス)」を通じた電子申告が可能で、基準年の源泉徴収票を100枚以上提出した事業者は電子提出が義務化されています(出典:eLTAX https://www.eltax.lta.go.jp/ 取得日:2026-08-22)。

6. 社労士アウトソースとの分担

6-1. インハウス/外部委託/ハイブリッドの3パターン

運用形態特徴主な対象施設規模
インハウス(内製)院内の給与担当者がSaaSで自ら計算・提出職員数100〜1000人規模、法人本部あり
外部委託(社労士等)社労士事務所または給与計算代行業者に全面委託職員数100人未満の中小クリニック・診療所
ハイブリッド入力・回収は院内、計算・チェックは社労士手当種類が多い中規模病院・法人

6-2. 業務分担と契約時の確認事項

ハイブリッド型の場合、勤怠締め・入退社処理・変動手当の入力までを院内で行い、給与計算の実行・チェック・給与支払報告書提出などを社労士側が担当する分担が一般的です。SaaSに社労士事務所側のログイン権限を付与できるサービスなら、データ持ち出しやCSVメール送付を経ずに業務分担が可能となり、個人情報保護法上のリスク低減にもつながります。委託検討時は、月次給与計算の範囲・年末調整・社会保険と雇用保険の届出・算定基礎届・36協定と就業規則改定支援・労務相談頻度・データ授受方法・料金体系を書面で確認することが実務的です。

7. 電子帳簿保存法対応

7-1. 給与関連書類の保存区分

電子帳簿保存法(改正2022年1月施行、宥恕措置終了2024年1月)は、国税関係帳簿書類の電子保存についてのルールを定めた法律です。給与計算に関連する書類として、以下が対象となります。

  • 電子取引データ(メール・ダウンロード等で受領した源泉徴収票・支払調書):電子保存が義務
  • 電子帳簿・電子書類(自社で作成した給与台帳・賃金台帳のPDF等):一定要件のもとで電子保存が可
  • スキャナ保存(紙で受領した保険料控除証明書等をスキャンして保存):所定の要件を満たせば可

7-2. 電子取引データの保存要件と賃金台帳

電子取引データは、真実性の確保(改ざん防止措置・タイムスタンプ付与または規程整備)と可視性の確保(取引年月日・取引金額・取引先で検索可能)が要件として求められます。給与SaaSの多くはこれらの要件を満たすファイル管理機能を備え、社内サーバの独自運用より法令適合の負荷が軽くなる場合があります(出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/index.htm 取得日:2026-08-22)。また、労働基準法第108条・第109条は賃金台帳・労働者名簿・賃金に関する書類などを5年間(当分の間3年間)保存する義務を定めており、SaaSの賃金台帳自動生成・PDF出力機能は、法定保存年数を跨いだ検索・出力の利便性を提供します(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 取得日:2026-08-22)。

8. マイナンバー管理

8-1. マイナンバーの利用目的と取得場面

医療機関が職員のマイナンバー(個人番号)を取得・利用する主な場面は、(1)源泉徴収票への記載、(2)給与支払報告書への記載、(3)健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届・喪失届、(4)雇用保険の被保険者資格取得届・喪失届、(5)法定調書(報酬・料金の支払調書等)への記載、などです。番号法(マイナンバー法)は、利用目的以外での利用禁止・提供制限・安全管理措置を義務付けています(出典:デジタル庁「マイナンバー制度」 https://www.digital.go.jp/policies/mynumber 取得日:2026-08-22)。

8-2. 安全管理措置の4区分

区分主な措置内容
組織的安全管理措置取扱責任者・担当者の明確化、取扱状況の記録、事故対応体制
人的安全管理措置取扱担当者への監督、教育・研修の実施
物理的安全管理措置取扱区域の管理、書類・電子媒体の施錠管理、廃棄時の復元不可能化
技術的安全管理措置アクセス制御、アクセス識別、外部からの不正アクセス防止、通信の暗号化

8-3. マイナンバー管理のクラウド化

マイナンバー管理をクラウドSaaSで行う場合、暗号化保管・アクセス権限管理(担当者限定)・アクセスログ取得・通信暗号化・委託先監督が実務上のポイントとなります。個人情報保護委員会のガイドラインでは、マイナンバー委託を行う場合の「必要かつ適切な監督」が求められており、SaaSベンダーのISMS認証・プライバシーマーク取得状況・第三者監査の実施状況を委託先選定の判断材料にすることが望まれます(出典:個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」 https://www.ppc.go.jp/legal/policy/ 取得日:2026-08-22)。

9. 2024年前後の動向

9-1. 医師の時間外労働上限規制(2024年4月)

2024年4月に施行された医師の時間外労働上限規制により、時間外労働の上限(A水準:年960時間、B・連携B・C水準:年1,860時間)の遵守体制が求められています。給与計算SaaS単体で対応する論点というより、勤怠管理・シフト管理・副業労働時間通算・追加的健康確保措置を含めた総合的な体制整備が必要となります。給与計算側では、時間外含み年俸制の設計見直し・宿日直手当と割増賃金の再整理などが波及論点となります。

9-2. 定額減税(2024年6月〜)

2024年6月から実施された所得税・住民税の定額減税では、給与所得者に対して2024年6月分から所得税源泉徴収額から月次減税額を控除する運用が導入されました。SaaSベンダー各社は、6月給与から自動対応する形で対応方針を公表し、対象者判定・扶養情報の反映・年調減税との精算処理などがシステム対応の主な論点となりました。単発の制度対応であっても、SaaSでは自動アップデートで反映される点が実務負荷の軽減につながっています(出典:国税庁「定額減税特設サイト」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/teigakugenzei/index.htm 取得日:2026-08-22)。

9-3. 電子帳簿保存法の宥恕措置終了(2024年1月)

2022年1月施行の改正電帳法では電子取引データの電子保存が義務化されましたが、2023年12月末までは宥恕措置により紙保存も認められていました。2024年1月からは、宥恕措置に代わって「相当の理由があると認められる場合」の猶予措置に切り替わり、実質的には電子保存が原則の運用に移行しました。給与関連の電子受領書類(電子交付源泉徴収票・電子取引の支払調書等)について、電子保存要件を満たす仕組み整備が求められています。

9-4. 社会保険関係の適用拡大

短時間労働者への社会保険(健康保険・厚生年金)の適用拡大は段階的に進み、2024年10月からは従業員数51人以上の企業に適用対象が拡大されました。医療機関では非常勤看護師・パート事務職などが新たに加入対象となるケースが増え、給与SaaSでの加入判定・保険料計算・被保険者資格取得届の運用対応が必要となります(出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyoujigyousho/hihokensha/20220818.html 取得日:2026-08-22)。

10. FAQ——給与計算SaaS導入のよくある質問

Q1. オンプレミス型パッケージからSaaSへ移行する際、データ移行はどのように行いますか?
一般的には、従業員マスタ・給与項目マスタ・過去給与実績(少なくとも当年分・年末調整用)・マイナンバー・扶養情報をCSV等で書き出し、SaaS側の指定フォーマットに変換して取り込みます。ベンダー側で移行支援メニューを提供している場合が多く、初期セットアップ期間として1〜3ヶ月程度を見込む事例が一般的です。移行期は旧システムと並行運用して差異検証を行う進め方が推奨されます。
Q2. 医師の年俸制と非常勤スポット報酬を同一SaaSで管理できますか?
多くの給与計算SaaSは、正社員(月給・年俸)・パート(時給)・派遣・業務委託を雇用形態区分で分けて管理できる設計です。非常勤医師のスポット報酬は、雇用契約であれば給与所得として、業務委託契約であれば報酬(源泉徴収税額表 乙欄/10.21%源泉)として計算されるため、契約形態の切り分けをマスタで明確にしておく必要があります。ベンダーごとに設計可能な範囲が異なるため、複雑な運用が想定される場合は、事前に医療機関の運用実績があるベンダーに要件を伝えて確認することが実務的です。
Q3. 複数施設を運営する医療法人本部で、施設ごとの給与計算を一元管理する方法は?
SaaSの多くは「事業所」「拠点」の階層で管理する仕組みを備えており、施設ごとに給与規程・手当マスタを独立させつつ、法人本部で一元的にアクセス・集計・出力できる設計が主流です。導入前に、(1)施設ごとの給与規程差異の反映、(2)本部承認フローの必要性、(3)施設別・診療科別の人件費集計、(4)会計ソフトへの部門別仕訳出力、を要件として整理することで、候補サービスの絞り込みが進めやすくなります。
Q4. SaaSベンダーの安全性・信頼性はどう評価すればよいですか?
評価軸として、ISMS認証(ISO/IEC 27001)・プライバシーマーク取得、データセンター所在地と冗長構成、通信・保管データの暗号化方式、アクセスログ取得・保存期間、過去のセキュリティインシデント公表状況、SLA内容、マイナンバー取扱の第三者監査、事業継続体制が挙げられます。医療機関はマイナンバー・給与情報を大量に扱うため、上記を書面で確認したうえで契約締結する進め方が推奨されます。
Q5. 給与計算SaaSの導入にIT導入補助金は活用できますか?
中小企業庁のIT導入補助金は、中小企業・小規模事業者がITツールを導入する際の費用の一部を補助する制度で、医療機関も対象となり得ます。給与計算・勤怠管理・会計ソフトなどのバックオフィス系SaaSが補助対象ツールとして登録されている場合、公募回ごとに定められた補助率・上限額に基づく申請が可能です。制度内容は年度ごとに更新されるため、最新の公募要項をIT導入補助金公式サイトで確認することが必要です(出典:IT導入補助金 https://it-shien.smrj.go.jp/ 取得日:2026-08-22)。

11. 次のステップ

給与計算SaaS導入は、勤怠・年末調整・マイナンバー管理・会計ソフト連携と絡む複合プロジェクトです。今四半期に着手できる3つのアクションを提示します。

アクション1:現行運用の棚卸し

職員数・雇用形態別内訳・手当種類・シフト区分・支給日・年末調整の運用方法・マイナンバー管理方法を1枚にまとめます。この整理表は、複数SaaSに要件を提示する際の基礎資料となります。

アクション2:候補ベンダーの一次比較

汎用型2〜3社、医療機関特化型1〜2社の計3〜5サービスを候補として、料金・機能・サポート・連携性・セキュリティを一覧表に整理します。公式サイトの機能一覧・料金表・導入事例をもとに、机上比較を進めます。

アクション3:無料トライアル・デモの活用

多くのSaaSは無料トライアルまたは営業担当によるデモ提供を用意しています。自院の給与規程・手当を実際に入力して動作を確認することで、机上比較では見えなかった操作性・帳票品質・サポート対応の差が把握できます。導入決定後の運用ギャップを減らすためにも、判断前に実機での操作確認を行うプロセスが有効です。

12. まとめ

  • 医療機関の給与計算は、夜勤・宿日直・オンコール・年俸制・非常勤スポット報酬など特有の要素が多く、汎用SaaSの手当マスタで対応できるか、特化型が必要かを見極めることが選定の起点
  • 勤怠管理システムとの連携は、同一ベンダー統合/API連携/CSVの3類型があり、シフト制医療機関では勤務区分と手当コードの対応付けが導入時の山場
  • 年末調整のクラウド化は職員セルフサービス化・eLTAX電子提出・マイナポータル連携による証明書電子受取で、担当者負荷を減らせる
  • 社労士との分担は、インハウス/全面委託/ハイブリッドの3パターンから施設規模と担当者スキルに応じて選択
  • 電子帳簿保存法(2024年1月宥恕措置終了)への対応で、電子取引データの真実性・可視性を確保する保存要件を満たす必要
  • マイナンバー管理は組織的・人的・物理的・技術的の4区分の安全管理措置と、SaaSベンダーへの委託先監督が実務ポイント
  • 2024年前後は医師働き方改革・定額減税・電帳法本格運用・社保適用拡大が重なり、SaaSの自動対応が運用負荷軽減に直結
  • 導入検討は「現行棚卸し→候補ベンダー一次比較→無料トライアル・デモ→本契約」の順で進めることが実務的

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