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病院における多職種合同研修(複数の医療専門職が同じ場で学び合う研修)は、患者の安全確保、チーム医療の質向上、診療報酬上の各種加算要件の充足を同時に満たす運営テーマです。医師・看護師・薬剤師・リハビリ職・管理栄養士・臨床工学技士・事務職など職種ごとに勤務形態やシフトが異なるなかで、実効性のある合同研修を継続的に運営するには、カリキュラム設計・シミュレーション手法・評価指標まで含めた体系的な仕組みが必要です。本記事は厚生労働省・総務省消防庁等の公開情報を整理した内容であり、特定の事業者・サービスの導入を推奨するものではありません。個別の制度適用や施設基準の該当可否は、地方厚生局や顧問の専門家にご確認ください。
この記事の対象読者:病院の院内教育担当者・看護部教育委員会・医療安全管理者・事務長・多職種連携チームのリーダーなど、合同研修の企画・運営に関わる担当者。IPEの基本設計、シミュレーション教育、急変時対応研修、多職種カンファレンスの運営手法、連携加算に伴う研修要件、災害時多職種対応訓練、コミュニケーション研修とリフレクション、シリアスゲームの活用、Kirkpatrickモデルによる効果測定、教育担当者の配置と年間研修計画までを体系的に整理します。
この記事でわかること
- 病院に多職種合同研修(IPE)が求められる背景と運営上のメリット
- IPEの基本的な考え方と、職種横断カリキュラムの設計手順
- シミュレーション教育・急変時対応研修(BLS・ICLS等)の実践方法
- 多職種カンファレンス(症例検討・デスカンファレンス等)の運営手法
- 診療報酬上の多職種連携加算に伴う研修要件の考え方
- 災害時多職種対応訓練とBCP・DMAT連携の枠組み
- コミュニケーション研修・リフレクション・シリアスゲームの活用法
- Kirkpatrickモデルによる研修効果測定と、年間研修計画の立て方

1. なぜ病院に多職種合同研修(IPE)が必要なのか
厚生労働省は医療安全対策の推進にあたり、医療従事者間の情報共有や連携の不足がヒヤリ・ハット事例や医療事故の背景要因になり得ることを踏まえた取組を進めています(出典:厚生労働省「医療安全の確保に向けた取組」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/index.html、取得日:2026-09-15)。単一職種内で完結する研修だけでは、多職種間の情報伝達の齟齬や役割認識のずれを解消しにくく、医師・看護師・薬剤師・リハビリ職・管理栄養士・臨床工学技士・事務職が同じ場で学び合う合同研修の重要性が高まっています。
加えて、2024年度(令和6年度)診療報酬改定では、多職種が連携して医療を提供する体制を評価する加算・管理料が拡充される方向で見直されました(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00046.html、取得日:2026-09-15)。栄養サポートチーム加算・呼吸ケアチーム加算・感染防止対策加算・緩和ケア診療加算・認知症ケア加算など、多職種チームでの活動を前提とする加算は施設基準の中で研修実施を求めるものが多く、合同研修は算定継続の観点からも運営上の重要課題です。
- 患者安全の向上:職種間の情報伝達エラーを減らし、急変時対応や引き継ぎの質を高める
- チーム医療の実効性向上:役割分担の理解が進み、カンファレンスや回診での連携がスムーズになる
- 診療報酬上の要件充足:多職種連携系加算の施設基準に含まれる研修実施要件に対応する
- 職員の定着・エンゲージメント:他職種の視点を理解する機会が、相互理解と職場満足度の向上につながる
2. IPE(Interprofessional Education)の基本設計とカリキュラム構築
IPE(専門職連携教育)とは、複数の医療専門職が同じ場で学び合い、互いの職種の役割・視点を理解しながら連携協働の実践力を養う教育手法です。単に複数職種を同じ研修室に集めるだけでなく、共通の学習目標のもとで職種混合のグループワークやシナリオ演習を行い、相互のフィードバックを通じて連携スキルを育てる点が特徴です。院内でIPEを設計する際は、対象職種・学習目標・実施形式・評価方法を整理し、シフト制勤務者が参加しやすい時間帯・回数で計画することが実務上の出発点になります。
| コア領域 | 学習の狙い | 研修での扱い方の例 |
|---|---|---|
| 価値観・倫理 | 患者中心の価値観を職種横断で共有する | 症例をもとにした多職種ディスカッション |
| 役割・責任の理解 | 自職種・他職種の業務範囲と限界を理解する | 職種紹介ワーク、業務範囲の相互説明 |
| 職種間コミュニケーション | 正確で簡潔な情報伝達スキルを養う | SBAR等の情報伝達手法を用いたロールプレイ |
| チームワーク・連携実践 | チームとして意思決定・行動する力を養う | シミュレーション演習、多職種カンファレンス実習 |
カリキュラム構築の実務では、院内で発生したヒヤリ・ハット事例や、多職種連携が課題となった場面を教育委員会等で棚卸しし、優先度の高いテーマから合同研修に落とし込む方法が現実的です。年度当初に対象職種・実施回数・評価方法を一覧化し、部署ごとの繁忙期を避けたスケジュールを組むことで、参加率の低下を防ぐ工夫が求められます。
3. シミュレーション教育と急変時対応研修(BLS・ICLS等)の実践
シミュレーション教育は、高機能シミュレーターや模擬患者を用いて臨床場面を再現し、安全な環境の中で判断・手技・チーム連携を練習する教育手法です。院内の急変時対応研修では、心停止・急変時の一次救命処置(BLS)や、二次救命処置に相当するICLS形式のシナリオ訓練が広く用いられます。応急手当に関する普及啓発は消防機関による講習制度とも関連が深く、総務省消防庁は普及啓発活動に関する情報を公開しています(出典:総務省消防庁「救急業務に関する情報」https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/kyukyu/、取得日:2026-09-15)。院内研修は、標準的な蘇生手順の考え方を踏まえつつ、自院の設備・動線・応援要請フローに合わせたシナリオ設計を行うことが実務的です。
- 心停止・急変対応(コードブルー対応を含む)シナリオ
- アナフィラキシーショック等、急速に状態が悪化する場面のシナリオ
- 薬剤関連インシデント発生時の初期対応シナリオ
- 新生児・小児など、成人と対応が異なる患者層を想定したシナリオ
| 段階 | 内容 | 運営上のポイント |
|---|---|---|
| プリブリーフィング | シナリオの前提・役割・安全な学習環境であることを共有 | 参加者の緊張を和らげ、心理的安全性を確保する |
| シナリオ実施 | 模擬患者・シミュレーターを用いたチーム対応の実技演習 | 実際の設備・動線に近い環境で行い、応援要請の流れも含める |
| デブリーフィング | 実施後の振り返り・気づきの共有 | 個人攻撃ではなくチームの行動プロセスに焦点を当てて進行する |
4. 多職種カンファレンスの運営手法(症例検討・デスカンファレンス等)
多職種カンファレンスは、日常業務の延長として最も実施頻度の高い合同学習の場です。症例検討カンファレンス、退院支援カンファレンス、リスクマネジメントカンファレンス、患者が亡くなった事例を振り返るデスカンファレンス(死亡症例検討会)など、目的に応じて形式が異なります。いずれの形式でも、発言しやすい心理的安全性の確保と、SBAR(状況・背景・評価・提案)のような構造化された情報伝達手法の活用が、限られた時間で建設的な議論を進めるうえで有用です。

| カンファレンス形式 | 主な目的 | 運営上の留意点 |
|---|---|---|
| 症例検討カンファレンス | 治療方針・ケア方針の多職種合意形成 | 職種間で発言機会が偏らないようファシリテートする |
| 退院支援カンファレンス | 退院後の生活を見据えた多職種連携の調整 | 患者・家族の意向を早期に共有し、地域連携先とも情報をすり合わせる |
| デスカンファレンス | 死亡症例の経過振り返りと今後のケアへの反映 | 個人の責任追及ではなく、システム改善の視点で進行する |
| リスクマネジメントカンファレンス | ヒヤリ・ハット事例の要因分析と再発防止策の検討 | 職種横断で要因を洗い出し、記録・共有の仕組みを整える |
5. 診療報酬上の多職種連携加算と研修要件
診療報酬点数表には、栄養サポートチーム加算・呼吸ケアチーム加算・感染防止対策加算・緩和ケア診療加算・認知症ケア加算・排尿自立支援加算など、多職種チームでの活動を前提とする加算が複数設けられています(出典:厚生労働省「診療報酬点数表」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html、取得日:2026-09-15)。これらの多くは施設基準の通知の中で研修実施や活動実績の記録・報告を求めており、継続的な合同研修の実施記録が遵守状況を裏付ける資料になります。
算定要件・施設基準は改定のたびに見直されるため、加算ごとの研修実施頻度や対象職種の要件は、算定・届出の前に最新の告示・通知で確認することが基本動作です。院内教育担当者は、算定中の連携加算の一覧と、それぞれに紐づく研修実施記録を一元管理し、更新のたびに施設基準の充足状況を点検する体制を整えておくことが実務的です。
- 算定中の多職種連携加算と、対応するチームメンバー・研修実施記録の一覧化
- 加算改定時の施設基準変更点の確認フロー(医事課・看護部・薬剤部の連携)
- 研修実施記録(日時・参加者・内容)の様式統一と保管ルールの明確化
6. 災害時多職種対応訓練とBCP・DMAT連携
災害時の医療提供体制は、都道府県が指定する災害拠点病院を中心に、DMAT(災害派遣医療チーム)や広域災害・救急医療情報システム(EMIS)等を通じて整備されています(出典:厚生労働省「災害医療体制について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saigaiiryou/index.html、取得日:2026-09-15)。DMATは大規模災害急性期に活動できる機動性を持った医療チームで、医師・看護師・業務調整員等の多職種で構成される点が特徴です(出典:厚生労働省「DMAT(災害派遣医療チーム)について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saigaiiryou/dmat/index.html、取得日:2026-09-15)。
院内の災害対応訓練は、机上訓練(図上訓練)と実働訓練を組み合わせて計画することが一般的です。トリアージ手順、多部署間の情報伝達ルート、DMAT・地域の災害拠点病院との連携方法、事業継続計画(BCP)に基づく非常時の人員配置を、多職種合同で確認する機会として位置づけることが、実効性のある訓練につながります。
- 机上訓練(災害発生を想定したシナリオ検討)と実働訓練(実際の動線確認)の組み合わせ
- トリアージ手順の多職種での確認と、記録・伝達様式の統一
- EMISへの災害時情報入力手順の周知と、担当者の複数配置
- BCPに基づく非常時の人員配置・指揮命令系統の多職種での共有
7. コミュニケーション研修・リフレクション・シリアスゲームを組み合わせたソフトスキル教育
臨床技術の研修と並んで、職種間の円滑な情報伝達や意見具申を支えるコミュニケーション研修も合同研修の重要な柱です。SBARのような構造化コミュニケーション手法に加え、階層構造の中でも懸念を伝えやすくする発言の型を演習形式で練習することが、急変時の連携ミス防止につながります。研修後にはリフレクション(省察)の時間を設け、自らの行動や思考プロセスを振り返り、次の行動に活かす習慣づけを行うことが、知識の定着に有効とされています。
近年は、座学中心の研修に飽きが生じやすい課題への対応として、シリアスゲーム(教育・訓練目的で設計されたゲーム形式の学習手法)やゲーミフィケーションの要素を取り入れる病院も見られます。職種ごとの役割カードを使ったロールプレイ、脱出ゲーム形式で多職種の情報を組み合わせないと解決できないシナリオなど、能動的な参加を促す工夫は、新人合同研修や年に一度の全職員研修で活用しやすい手法です。
| 手法 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| SBAR等の構造化コミュニケーション | 状況・背景・評価・提案の型で情報を簡潔に伝える | 急変時報告、当直医への連絡 |
| リフレクション(省察) | 行動・思考プロセスを振り返り、次の行動に反映する | シミュレーション研修後、インシデント発生後の振り返り |
| シリアスゲーム・ゲーミフィケーション | ゲーム形式で能動的な参加を促す | 新人合同研修、全職員対象の年次研修 |
8. 研修効果測定(Kirkpatrickモデル)と院内教育担当者の配置・年間研修計画
合同研修を継続的に改善していくには、実施して終わりにせず、効果を測定して次年度の計画に反映する仕組みが欠かせません。研修評価の枠組みとして広く知られるKirkpatrickモデルは、反応(Reaction)・学習(Learning)・行動(Behavior)・成果(Results)の4段階で評価する考え方です。多くの病院はまずアンケートによる反応評価にとどまりがちですが、行動変容や患者アウトカムへの反映まで見据えた評価設計を意識することで、研修の実効性を高めやすくなります。
| レベル | 評価対象 | 病院での測定例 |
|---|---|---|
| レベル1:反応 | 研修への満足度・有用感 | 研修直後のアンケート集計 |
| レベル2:学習 | 知識・技術の習得度 | 事前・事後テスト、シミュレーション評価表 |
| レベル3:行動 | 現場での行動変容 | 研修後の現場観察、インシデント報告内容の変化 |
| レベル4:成果 | 組織・患者への最終的な効果 | 関連インシデント件数、加算の算定継続状況 |

こうした評価の仕組みを機能させるには、院内教育を横断的に担う専任・兼任の教育担当者の配置が土台になります。看護部教育委員会を中心に、医師・薬剤師・リハビリ職・事務部門の担当者を含めた多職種教育委員会の形に発展させることで、職種を越えた研修ニーズの把握と年間計画への反映がしやすくなります。年間研修計画は、前年度の評価結果・インシデント傾向・加算改定の動向を踏まえてテーマの優先順位を見直し、年度当初に対象職種・実施時期・評価方法を一覧化して周知する流れが実務的です。
- 看護部教育委員会を核とした多職種教育委員会の設置と、各部門からの担当者選出
- 前年度の研修評価・インシデント傾向を踏まえたテーマ選定プロセスの明文化
- 年間研修計画表(対象職種・時期・評価方法)の作成と、部署への早期周知
- 研修記録・評価結果のデータベース化による経年比較の仕組みづくり
9. よくある質問(FAQ)
- Q1. IPE(専門職連携教育)と、これまでの職種別研修はどう違いますか?
- 職種別研修は各専門職の技術・知識を深める研修である一方、IPEは複数職種が同じ場で共に学び合い、互いの役割理解と連携協働の実践力を養う点に主眼があります。両者は、職種別研修で得た専門性を土台にIPEでチームとしての実践力を養うという補完関係にあります。
- Q2. シミュレーション研修は高額な機材がないと実施できませんか?
- 高機能シミュレーターがあれば表現の幅は広がりますが、模擬患者役を職員が担う簡易なロールプレイでも、シナリオ設計とデブリーフィングの質を高めることで十分な学習効果を得られます。自院の既存設備・人員で実施できる範囲から始め、段階的に手法を発展させる進め方が現実的です。
- Q3. 多職種連携加算の研修要件を満たすには、具体的に何をすればよいですか?
- まずは自院が算定している多職種連携系の加算を洗い出し、施設基準通知に定められた研修実施の考え方を確認することが出発点です。そのうえで、研修実施記録(日時・参加者・内容)を統一様式で残し、改定のたびに要件の変更点を点検する体制を整えることが実務的な対応になります。
- Q4. Kirkpatrickモデルの4段階のうち、まずどこから着手すべきですか?
- 多くの病院では研修直後のアンケート(レベル1:反応)のみで評価が止まっています。次の段階として事前・事後テストやシミュレーション評価表による到達度確認(レベル2:学習)を導入し、その後、現場観察やインシデント報告内容の変化(レベル3:行動)へと段階的に評価の幅を広げる進め方が現実的です。
10. 次の1ステップ
本記事を読み終えたら、まず「現在実施している院内研修を一覧化し、単一職種向けか多職種合同かを仕分ける」という最小アクションから始めることをお勧めします。現状を可視化できれば、優先的に合同化すべきテーマ、連携加算に紐づく研修要件の充足状況、Kirkpatrickモデルに基づく評価の導入余地など、次に着手すべき優先順位が見えてきます。
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出典
- 厚生労働省「医療安全の確保に向けた取組」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/index.html(取得日:2026-09-15)
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00046.html(取得日:2026-09-15)
- 厚生労働省「診療報酬点数表」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html(取得日:2026-09-15)
- 総務省消防庁「救急業務に関する情報」https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/kyukyu/(取得日:2026-09-15)
- 厚生労働省「災害医療体制について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saigaiiryou/index.html(取得日:2026-09-15)
- 厚生労働省「DMAT(災害派遣医療チーム)について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saigaiiryou/dmat/index.html(取得日:2026-09-15)
免責事項
本記事は厚生労働省・総務省消防庁等の公開情報を整理した内容として、病院における多職種合同研修の運営に関する一般的な情報を提供するものです。特定の研修手法・事業者・サービスの優位性を保証するものではなく、施設基準の充足状況や加算算定の可否に関する判断は、地方厚生局や顧問の専門家にご相談ください。関連法令・通知・施設基準は改定されることがあるため、実務適用時は最新の公式情報をご確認ください。記載内容は2026-09-15時点の公開情報に基づきます。
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