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医師臨床研修制度は、2004年度の必修化以降、初期研修2年間の到達目標・研修プログラム・評価・マッチングの各仕組みが継続的に見直されてきました。2020年度には到達目標が改訂され、2024年度からは医師の働き方改革が本格施行されるなど、研修医と指導医を取り巻く環境は複数の政策変更が同時進行しています。本記事は厚生労働省・文部科学省・医師臨床研修マッチング協議会・日本医学教育学会などの公開情報を整理した内容として、病院における研修医・指導医体制の全体像——新臨床研修制度、マッチング、指導医養成講習会、研修プログラム設計、EPOCによる評価、専門研修(新専門医制度)との接続、2024年度以降の動向——を体系的に取り上げます。個別の労務判断・宿日直許可・36協定の設計は担当の社会保険労務士・弁護士にご相談ください。
この記事の対象読者:臨床研修病院・基幹型/協力型病院の研修プログラム責任者、指導医、事務局担当者、および臨床研修制度の概要を把握したい病院幹部・人事担当者。
この記事でわかること
- 新医師臨床研修制度(初期研修2年間)の到達目標と2020年度改訂のポイント
- 医師臨床研修マッチング協議会(JRMP)の役割とマッチングスケジュール
- 指導医養成講習会(厚労省認定)の位置づけと受講要件
- 基幹型/協力型/協力施設の役割分担と研修プログラム設計の基本
- EPOC2(オンライン評価システム)を使った研修医評価の実務
- 初期研修と新専門医制度(専門研修)の接続関係
- 2024年度診療報酬改定・医師の働き方改革が研修体制に与えた影響
- 研修医の宿日直・時間外労働の考え方(C-1水準の位置づけ)
1. 新医師臨床研修制度の概要
医師法第16条の2に基づき、診療に従事しようとする医師は、2年以上の臨床研修を受けることが義務付けられています。制度全体は厚生労働省の医政局が所管し、臨床研修病院の指定・研修プログラムの認定・到達目標の策定などが行われています(出典:厚生労働省「医師臨床研修制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index.html、取得日:2026-08-25)。制度の根拠となる医師法は、e-Gov法令検索で条文全文が確認できます(出典:e-Gov法令検索「医師法」https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201、取得日:2026-08-25)。
2020年度の到達目標改訂では、医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)、資質・能力、基本的診療業務という3層構造が明示され、地域医療・保健医療行政・災害医療などの領域も含めた総合的な診療能力の獲得が求められるようになりました。診療科ローテーションについても、内科・救急・地域医療を含む必修分野の考え方が整理されています。
| 領域 | 主な内容 | 備考 |
|---|---|---|
| プロフェッショナリズム | 社会的使命・利他的態度・人間性の尊重・自らを高める姿勢 | 行動指針として全期間で継続評価 |
| 資質・能力 | 医学知識・診療技能・コミュニケーション・チーム医療・省察・生涯学習など | OSCE・EPOCで多面的に評価 |
| 基本的診療業務 | 一般外来診療・病棟診療・救急診療・地域医療 | ローテーション先で経験蓄積 |
2. 医師臨床研修マッチング協議会(JRMP)
臨床研修病院と研修希望医師の組み合わせは、医師臨床研修マッチング協議会(JRMP:Japan Residency Matching Program)が運営するマッチングシステムによって決定されます。学生と病院の双方が希望順位を登録し、コンピュータアルゴリズム(受入側の順位を優先しない、いわゆる学生側優先型のGale-Shapley応用アルゴリズム)で組み合わせが決まる仕組みです(出典:医師臨床研修マッチング協議会「マッチングの仕組み」https://www.jrmp.jp/、取得日:2026-08-25)。
年度ごとの一般的なスケジュール感は次のとおりです(実際の日程は各年度のJRMP公表資料で確認します)。
- 春〜初夏:病院見学・エントリー・面接開始
- 夏:JRMPへの参加登録・病院プログラム情報公開
- 初秋:希望順位登録(学生・病院双方)
- 秋:マッチング結果発表
- 翌年4月:初期研修開始
病院側の観点では、募集定員の設定、希望順位入力の運用、内定辞退・キャンセルへの対応、二次募集の準備などが実務論点となります。近年は都市部集中の是正のため、都道府県別・診療科別の募集定員の上限設定が国により運用されており、地方病院の採用戦略に影響を与える構造となっています。
3. 指導医養成講習会
臨床研修における指導医は、7年以上の臨床経験を有する医師で、厚生労働省が定める指導医養成講習会(16時間以上のプログラム)を修了した者と位置付けられています。指導医養成講習会は、成人学習理論に基づくワークショップ形式で、フィードバック手法・研修目標の設定・評価方法・研修医への支援などを実習を交えて学ぶ場です(出典:厚生労働省「医師臨床研修指導医養成講習会」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/dl/kaisai.pdf、取得日:2026-08-25)。
指導医養成講習会の主な学習内容は次のとおりです。
- 研修目標・方略・評価の一貫性設計(GIO/SBOsの立案)
- 効果的なフィードバックの技法(SEA法、Pendleton法など)
- 形成的評価と総括的評価の使い分け
- ロールモデルとしての行動・省察の促進
- 困難事例(研修不振・メンタル不調)への初期対応の考え方
基幹型臨床研修病院では、複数名の指導医を配置することが要件となっており、プログラム責任者・研修管理委員会の運営も含めて組織的な指導体制の整備が求められます。指導医の継続教育(Faculty Development, FD)を院内で年数回開催し、指導方法の共通言語化を図る取り組みが定着してきています。
4. 研修プログラム設計(基幹型/協力型/協力施設)
臨床研修は、基幹型臨床研修病院を中心に、協力型臨床研修病院・臨床研修協力施設(診療所・介護老人保健施設等)が連携して実施する形が一般的です。基幹型病院はプログラム全体の企画・運営・評価を担い、協力型病院・協力施設は特定領域(救急・地域医療・小児・産婦人科など)のローテーションを担当します。
| 施設区分 | 主な役割 | 要件の考え方 |
|---|---|---|
| 基幹型 | プログラム全体運営・研修管理委員会主催・修了認定 | 指導医配置・症例数・研修医定員などの基準 |
| 協力型 | 基幹型と連携し特定期間の研修を担当 | 指導医配置・研修体制の適合性 |
| 協力施設 | 地域医療・在宅医療などの短期研修を提供 | 研修目的に応じた診療機能 |
プログラム設計にあたっては、到達目標(プロフェッショナリズム・資質能力・基本的診療業務)を、どの診療科・どの施設のどのローテーションで、どの程度の期間で経験させるかを、GIO(一般目標)とSBOs(行動目標)に落とし込むことが基本フレームとなります。プログラム全体のコマ数・ローテーション表・症例経験目標のバランスは、研修管理委員会で年次見直しを行うのが実務的です。
5. EPOC2による評価
研修医の評価は、日常業務の観察評価、症例レポート、経験症例数、多職種評価などを組み合わせた多面的評価が推奨されています。オンライン評価システムとしては、多くの基幹型病院で「EPOC2(Evaluation system of Postgraduate Clinical training version 2)」が用いられており、指導医評価・360度評価・症例登録・修了判定資料などを一元化できます。
評価の実務における主要な論点は次のとおりです。
- 形成的評価:ローテーション途中に指導医との1on1で研修医の気づきを促す
- 総括的評価:各ローテーション終了時・年度末に到達度を判定
- 多職種評価:看護師・薬剤師・技師などから匿名で行動評価を集約
- 症例レポート:経験症例の整理・省察を通じた学習の言語化
- 研修管理委員会:個別の修了判定・進捗遅延の対応策決定
評価は単なる合否判定ではなく、研修医の成長を支える情報基盤として設計することが実質的です。指導医養成講習会で学ぶフィードバック技法(強みを先に伝え、改善点を具体行動レベルで共有する)を院内で共通化することで、評価の効果が高まる傾向があります。
6. 新専門医制度(専門研修)との接続
初期研修2年間を修了した医師は、多くの場合、日本専門医機構が運営する新専門医制度に基づく専門研修プログラム(19の基本領域)に進みます。基幹型初期研修病院にとっては、初期研修修了後に自院の専門研修プログラムへ接続する経路を設計するかどうか、専攻医採用戦略と一体で検討する論点となります(出典:厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000117489.html、取得日:2026-08-25)。
専門研修プログラムでは、内科・外科・小児科・産婦人科などの基本領域ごとに研修施設群(基幹施設・連携施設)が構成され、経験症例・技能到達度の要件が定められています。初期研修の指導体制と専門研修の指導体制は、指導医・症例・機器の共有部分が多く、病院全体の卒後医学教育戦略として一体設計する視点が有効です。
7. 2024年度以降の動向
研修医・指導医の体制に直接影響する近年の政策動向として、次の3点が重要です。
(1) 医師の働き方改革(2024年4月施行):医師の時間外・休日労働の上限規制が施行され、A水準(原則960時間/年)、B・連携B水準(地域医療確保暫定特例、1860時間/年)、C-1水準(臨床研修医・専攻医の集中的技能向上、1860時間/年)、C-2水準(高度技能習得)の区分が導入されました。研修医は主にC-1水準に位置付けられ、宿日直許可の適切な取得、面接指導・追加的健康確保措置の実施、健康管理の記録が求められます(出典:厚生労働省「医師の働き方改革」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/ishi-hatarakikata/index.html、取得日:2026-08-25)。
(2) 2024年度診療報酬改定:賃上げ・処遇改善、医療DXへの対応、地域包括医療病棟入院料の新設など、研修病院の収益構造と人員配置に幅広く影響する改定内容が含まれました。指導医手当・研修医給与の水準見直し、研修支援体制の整備コストは、経営会議での中期的な論点となっています(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00046.html、取得日:2026-08-25)。
(3) 医学教育の一貫性議論:文部科学省の医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂と、卒後臨床研修の到達目標との接続が継続的に議論されており、卒前・卒後の教育目標の一貫性が政策的に重視されています(出典:文部科学省「医学教育モデル・コア・カリキュラム」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/iryou/1325843.htm、取得日:2026-08-25)。
8. よくある質問(FAQ)
- Q1. 基幹型臨床研修病院の指定を目指す場合、まず何から着手すべきですか?
- 指導医養成講習会修了者の確保、研修プログラムの草案(到達目標・ローテーション・評価方法)、研修管理委員会の運営体制、症例数・診療機能などが主要要件となります。所轄の地方厚生局への相談から始め、要件充足度を確認したうえで書類準備に進む流れが一般的です。詳細要件と手続きは、厚生労働省の告示・通知および所轄の地方厚生局の案内で確認します。
- Q2. 指導医が不足しています。どのように増やせばよいですか?
- 臨床経験7年以上の医師を対象に、厚労省が定める指導医養成講習会(16時間以上)の受講機会を計画的に設けることが基本です。受講は全国各地の医学教育系団体・大学・都道府県医師会などが開催しており、年次計画で複数名を計画的に派遣する運用が現実的です。院内での指導医FD(Faculty Development)を並行して継続することで、指導の質と幅を保ちやすくなります。
- Q3. 研修医の宿日直はどう扱えばよいですか?
- 研修医の宿日直は、労働基準監督署からの宿日直許可の有無、実質労働時間の管理、追加的健康確保措置(連続勤務時間制限・勤務間インターバル・代償休息)の実施が主要論点です。C-1水準を適用する場合の面接指導・健康管理・研修計画への反映など、複合的な労務管理が必要となります。個別の許可取得・36協定の設計・宿日直判定は、担当の社会保険労務士・弁護士および所轄の労働基準監督署にご相談ください。
- Q4. マッチングで定員割れが続いています。何を見直せばよいですか?
- まずは自院プログラムの強み・特徴(症例数、指導体制、ローテーションの柔軟性、地域医療研修の質など)を、学生視点で客観的に整理することが出発点です。病院見学の受入体制、研修医との交流機会、公開情報(プログラム冊子・ウェブサイト)の充実度、面接での双方向コミュニケーションの質などを継続的に改善します。定量的には、直近5年間の応募者数・希望順位分布・辞退理由を集計し、年度ごとの傾向を追う運用が有効です。
- Q5. 初期研修と専門研修の指導体制を統合するメリットはありますか?
- 指導医・症例・カンファレンス・図書設備などの教育インフラを、初期研修と専門研修で共有することで、教育コストの分散と一貫した育成観の共有が可能となります。研修医から専攻医、専攻医から指導医候補へと段階的にキャリアが接続する経路を院内で可視化することで、採用時の訴求力も高まる傾向があります。ただし各段階の到達目標・評価軸は独立して設計する必要があり、混同しないための整理は継続的に必要です。
9. 次の1ステップ・関連記事・出典
本記事を読み終えたら、まず「自院の指導医リスト(氏名・診療科・臨床経験年数・指導医養成講習会修了状況)を1枚の表に整理する」という最小アクションから始めることをお勧めします。この作業だけでも、指導医FDの対象者、次年度の講習会派遣候補、プログラム責任者候補が可視化されます。次のステップとして、研修管理委員会で年次計画(受講計画・FD計画・プログラム改善計画)を承認するプロセスに進みます。
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出典
- 厚生労働省「医師臨床研修制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index.html(取得日:2026-08-25)
- 厚生労働省「医師臨床研修指導医養成講習会」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/dl/kaisai.pdf(取得日:2026-08-25)
- 厚生労働省「医師の働き方改革」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/ishi-hatarakikata/index.html(取得日:2026-08-25)
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00046.html(取得日:2026-08-25)
- 厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000117489.html(取得日:2026-08-25)
- 文部科学省「医学教育モデル・コア・カリキュラム」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/iryou/1325843.htm(取得日:2026-08-25)
- e-Gov法令検索「医師法」https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201(取得日:2026-08-25)
- 医師臨床研修マッチング協議会「マッチングの仕組み」https://www.jrmp.jp/(取得日:2026-08-25)
免責事項
本記事は厚生労働省・文部科学省・医師臨床研修マッチング協議会等の公開情報を整理した内容として、病院の研修医・指導医体制に関する一般的な情報を提供するものです。個別の労務判断(宿日直許可・36協定・追加的健康確保措置の設計・C水準適用の可否)は、担当の社会保険労務士・弁護士および所轄の労働基準監督署にご相談ください。臨床研修病院の指定申請・プログラム認定に関する手続きの詳細は、所轄の地方厚生局にご確認ください。記載内容は2026-08-25時点の公開情報に基づきます。制度改正等により内容が変更になる場合があります。
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