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医療機関には、入院患者への給食提供や職員食堂の運営など、食品を取り扱う業務が数多く存在します。2018年の食品衛生法改正により、原則として全ての食品等事業者にHACCP(ハサップ)の考え方を取り入れた衛生管理の実施が制度化され、病院・診療所の給食部門もこの対象に含まれます。加えて、大量調理施設衛生管理マニュアルが示す検食の保存、従事者の検便、温度管理記録といった実務は、患者・利用者の食中毒リスクを抑えるための基盤です。本記事は厚生労働省が公表するHACCP関連情報・大量調理施設衛生管理マニュアル・ノロウイルス対策資料等の公開情報を整理した内容として、医療機関の食品衛生管理体制を点検・整備する際の実務的な視点をまとめます。個別の施設における衛生管理計画の策定・運用は、所轄の保健所、都道府県担当課、必要に応じて食品衛生の専門家にご確認ください。
この記事の対象読者:病院・診療所の給食部門を統括する事務長・栄養科長、衛生管理者、施設の総務・労務担当者、委託給食業者との契約窓口となる職員など。
この記事でわかること
- 食品衛生法改正とHACCP制度化の対象範囲
- HACCPの考え方を取り入れた衛生管理の実施項目
- 大量調理施設衛生管理マニュアルが示す調理工程管理の要点
- 検食の保存温度・保存期間・保存量のルール
- 従事者検便の実施頻度と対象者
- 温度管理記録の実務と記録項目
- ノロウイルス対策と感染性胃腸炎発生時の対応フロー
- 器具の消毒方法と衛生管理者選任・施設設備要件
1. 食品衛生法改正とHACCP制度化の背景——医療機関の給食部門に求められる対応
2018年6月に公布された改正食品衛生法により、原則として全ての食品等事業者に、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:危害要因分析重要管理点)の考え方を取り入れた衛生管理の実施が求められることになりました。制度は2020年6月に施行され、経過措置を経て、事業者の規模・業種に応じて「HACCPに基づく衛生管理」と「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」のいずれかを実施する枠組みが運用されています(出典:厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理の制度化」)。病院・診療所の給食部門は食品を調理して提供する事業者に該当するため、この制度化の対象に含まれます。
医療機関の給食部門は、免疫力が低下した入院患者や高齢の利用者に食事を提供する性質上、食中毒発生時の影響が重篤化しやすい施設として位置づけられます。厚生労働省は、集団給食施設等における食中毒予防のための実務指針として大量調理施設衛生管理マニュアルを公表しており、同一メニューを1回300食以上または1日750食以上調理する施設を主な対象としつつ、それ未満の規模の施設にも準用することが望ましいとされています(出典:厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」)。給食を院内調理・院外調理のいずれで実施する場合も、委託先事業者の衛生管理体制を契約時に確認する視点が必要です。
2. HACCPの考え方を取り入れた衛生管理の3つの柱
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理は、大きく「一般衛生管理」と「HACCPに沿った重要管理点の管理」の2本柱で構成されます。一般衛生管理は、施設・設備の衛生保持、従事者の健康管理、原材料の受入れ確認、器具の洗浄・消毒、廃棄物の処理といった基礎的な衛生対策を指し、HACCP導入の前提となる土台です。重要管理点の管理は、原材料の受入れから調理・提供に至る工程を洗い出し、食中毒菌の増殖や異物混入等の危害要因が発生しやすい工程(重要管理点)を特定したうえで、当該工程での温度・時間等の管理基準を定めて記録する仕組みです。
小規模な施設向けには、業界団体が作成し厚生労働省が確認した業種別手引書を活用する運用が案内されています。医療機関の給食部門が独自に危害要因分析から手順を組み立てる負担を抑えつつ、手引書のひな形に沿って自施設の衛生管理計画・記録様式を整備する方法が実務的です(出典:厚生労働省「食品等事業者団体が作成した業種別手引書」)。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 一般衛生管理 | 施設・設備の衛生保持、従事者の健康管理、原材料の受入れ確認、器具の洗浄・消毒、廃棄物処理 |
| HACCPに沿った重要管理点の管理 | 工程ごとの危害要因分析、重要管理点(加熱温度等)の設定、モニタリングと記録、基準逸脱時の是正措置 |
3. 大量調理施設衛生管理マニュアルに基づく調理工程管理
大量調理施設衛生管理マニュアルは、原材料の受入れ・下処理・加熱調理・保管・配膳の各工程について、重点的に管理すべき事項を示しています。加熱調理する食品については、中心部の温度を75℃で1分間以上(二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれがある食品を扱う場合は中心温度85〜90℃で90秒間以上)まで加熱することが目安として示されており、調理担当者が中心温度計等で確認し記録する運用が求められます(出典:厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」)。
調理後の食品は、提供までの時間が長くなるほど細菌増殖のリスクが高まるため、マニュアルは調理終了から喫食までの時間をできるだけ短縮すること、やむを得ず保管する場合は冷蔵(10℃以下)または温蔵(65℃以上)で管理することを示しています。下処理と加熱調理、非加熱調理食品の盛付けなど、二次汚染が起こりやすい工程の間では、専用のまな板・包丁を用途別に色分けする、手袋を工程ごとに交換するといった二次汚染防止の運用が実務上の基本です。

4. 検食の保存ルール——保存温度・保存期間・保存量
検食は、食中毒等の健康被害が疑われる事案が発生した際に、原因食品を特定するための資料として保存する食品サンプルです。大量調理施設衛生管理マニュアルは、原材料は食材ごとに、調理済み食品は料理ごとに、それぞれ50グラム程度を清潔な容器(ビニール袋等)に入れて密封し、−20℃以下で2週間以上保存することを示しています。原材料は洗浄・殺菌等を行わず、購入した状態のまま保存する点も実務上の注意点です(出典:厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」)。
検食の保存を確実に行うためには、検食専用の冷凍庫を用意して他の食品と混在させない運用、日付・料理名を明記したラベルを貼付する運用、保存期間を過ぎた検食を廃棄・記録する運用をルール化しておくことが望まれます。委託給食を利用する医療機関では、検食保存の実施主体(委託事業者か医療機関か)と保存場所を契約時に明確化しておくことが、食中毒疑い事案発生時の初動対応を円滑にします。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 保存対象 | 原材料(食材ごと)・調理済み食品(料理ごと) |
| 保存量 | それぞれ50グラム程度 |
| 保存温度 | −20℃以下 |
| 保存期間 | 2週間以上 |
| 保存容器 | 清潔なビニール袋等で密封 |
5. 従事者の健康管理——検便の実施頻度と対象者
大量調理施設衛生管理マニュアルは、調理従事者等に対して月に1回以上の検便を受けることを示しており、検査項目には赤痢菌、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌等が含まれます。ノロウイルスの流行期とされる10月から3月にかけては、必要に応じて検便検査にノロウイルス検査を追加することが望ましいとされています(出典:厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」)。検査結果が陽性であった従事者については、調理業務への従事を控える、症状の経過を確認するといった対応をあらかじめ規程化しておくことが実務上重要です。
検便に加えて、従事者本人の日常的な体調管理も衛生管理の一部です。下痢、嘔吐、発熱等の症状がある従事者は、調理業務から外れて医療機関を受診し、症状の経過や検査結果を踏まえて復帰時期を検討する運用が一般的です。従事者の家族に感染性胃腸炎の症状がある場合の報告ルールをあらかじめ定めておくことも、施設内への持ち込みリスクを抑える対応として位置づけられます。
6. 温度管理記録の実務——記録項目・頻度・保存期間
温度管理記録は、原材料の検収時温度、冷蔵庫・冷凍庫の庫内温度、加熱調理時の中心温度、調理後の保管温度など、工程ごとに記録すべき項目が分かれます。大量調理施設衛生管理マニュアルは、冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は−15℃以下を目安として示しており、始業前・作業中・終業後など、あらかじめ定めた頻度で記録することが求められます。記録は、異常値が生じた際に対応(廃棄、再加熱、保健所への相談等)を判断する根拠になるため、記録者の確認印・確認者のダブルチェックを運用に組み込む施設もあります。
記録の保存期間についてマニュアル上の明確な年数指定はないものの、食中毒等の健康被害調査に協力する観点から、一定期間(1年程度を目安とする施設が多い)保存しておく運用が実務的とされています。近年は、温度記録を紙の帳票からIoTセンサー・クラウド管理システムに置き換える施設も増えており、記録忘れの防止、異常値のアラート通知、複数拠点の一括管理といった効果が期待されています。システム導入の際は、既存の記録項目・確認フローを洗い出したうえで、システムがどこまでカバーするかを整理することが移行を円滑にする前提になります。

7. ノロウイルス対策——手洗い・加熱・二枚貝の取扱い
ノロウイルスは、感染性胃腸炎・食中毒の主要な原因のひとつであり、少量のウイルスでも感染が成立しやすい、環境中で比較的長く感染力を保つといった特徴があります。厚生労働省の「ノロウイルスに関するQ&A」は、調理従事者の手洗いを、石けんを用いた二段階手洗い(一度目で目に見える汚れを落とし、二度目で丁寧に洗う)として実施することを勧めており、トイレの後・調理施設に入る前・生の食材に触れた後など、手洗いのタイミングを明確にしておくことが基本です(出典:厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」)。
二枚貝(カキ等)はノロウイルスを蓄積しやすい食品とされており、中心部までの十分な加熱(85〜90℃で90秒間以上を目安とする)が対策の基本です。まな板・包丁等の調理器具は、使用後に洗剤で十分に洗浄したうえで、次亜塩素酸ナトリウム等での消毒、または熱湯での消毒を行うことが推奨されています。調理場内にノロウイルスを持ち込まない対策として、専用の作業着・履物の使用、入室時の手指消毒を徹底する運用も広く行われています(出典:食品安全委員会「ノロウイルスに関するファクトシート」)。
8. 感染性胃腸炎発生時の対応フロー——初動・保健所報告・拡大防止
患者・利用者や従事者に嘔吐・下痢等の症状が集団的に発生した場合は、感染性胃腸炎の集団発生を疑い、速やかな初動対応が求められます。具体的には、症状のある者への対応を優先しつつ、嘔吐物・排泄物を次亜塩素酸ナトリウム等で適切に処理する、発症者数・発症日時・喫食状況等の情報を記録する、施設の管理者・衛生管理者に報告するといった手順をあらかじめマニュアル化しておくことが実務上重要です。
食中毒が疑われる場合や、感染症の集団発生が疑われる場合は、医師による保健所への届出(食品衛生法・感染症法に基づく)が必要になるケースがあります。社会福祉施設等における感染症等発生時の報告についても厚生労働省が報告の考え方を示しており、医療機関の給食部門においても、疑い事案発生時に速やかに保健所へ相談する体制を整えておくことが、被害拡大の防止につながります(出典:厚生労働省「食中毒統計調査」)。原因究明のための検食保存、喫食者名簿の保管、調理工程記録の保存が、保健所の調査に協力する際の基礎資料になります。

9. 器具の消毒と衛生管理者の選任・施設設備要件
調理器具は、用途別(生食用・加熱用、食肉用・魚介用・野菜用等)に色分けしたまな板・包丁を使い分け、使用のたびに洗浄・消毒し、十分に乾燥させたうえで保管することが二次汚染防止の基本です。厨房の区画についても、汚染作業区域(検収・下処理等)と非汚染作業区域(調理・盛付け等)を明確に区分し、作業動線が交差しない設計とすることが大量調理施設衛生管理マニュアルで示されている考え方です。
食品衛生法に基づき、営業許可を要する調理施設では、施設ごとに食品衛生責任者を選任することが求められます。医療機関の給食部門においても、栄養士・調理師等の資格を有する者や、都道府県等が実施する食品衛生責任者養成講習会を修了した者を衛生管理者として配置し、衛生管理計画の作成・記録の確認・従事者教育を担わせる体制を整えることが実務の基本です(出典:e-Gov法令検索「食品衛生法」)。施設・設備面では、手洗い設備(できれば肘等での操作が可能なもの)の設置、更衣室と調理場の動線分離、廃棄物保管場所の区画なども、保健所の営業許可審査で確認される主な項目です。

10. よくある質問(FAQ)
- Q1. HACCPの考え方を取り入れた衛生管理は、小規模なクリニックの給食業務にも適用されますか?
- 改正食品衛生法によるHACCP制度化は、原則として食品を調理して提供する全ての事業者が対象であり、事業規模に応じて「HACCPに基づく衛生管理」または「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」のいずれかを実施する枠組みです。小規模な施設は業種別手引書を活用した簡易な運用が案内されているため、自施設の規模に応じた手引書の該当箇所を厚生労働省の公開資料で確認することが実務的です。
- Q2. 検食はどのくらいの量・期間保存すればよいですか?
- 大量調理施設衛生管理マニュアルは、原材料・調理済み食品それぞれについて50グラム程度を清潔な容器に密封し、−20℃以下で2週間以上保存することを目安として示しています。保存量・期間の設定は自施設の状況に応じて事務局・栄養科で内規化しておくことが望まれます。
- Q3. 委託給食業者を利用している場合、検食保存や検便の実施責任はどちらにありますか?
- 委託契約の内容によって実施主体が異なるため、契約書・仕様書で検食保存、検便の実施・費用負担、記録の保管場所を明記しておくことが実務上重要です。役割分担が曖昧な場合は、委託事業者との契約更新時に整理することをお勧めします。
- Q4. 従事者に下痢等の症状がある場合、どのくらいの期間、調理業務を控えるべきですか?
- 症状の内容・原因によって対応が異なるため、一律の期間を示すことは難しく、医療機関を受診し、医師の判断や検査結果を踏まえて復帰時期を検討する運用が一般的です。自施設の内規を整備する際は、保健所や産業医に相談しながら基準を定めることが実務的です。
- Q5. 感染性胃腸炎の集団発生が疑われる場合、どこに相談すればよいですか?
- 発症者数・症状の内容によって、まずは施設内の衛生管理者・管理者に報告したうえで、食中毒や感染症の集団発生が疑われる場合は、所轄の保健所に相談する体制が基本です。厚生労働省・都道府県が公表する感染症発生時の報告に関する資料もあわせて確認しておくとよいでしょう。
- 免責事項
- 本記事は厚生労働省・食品安全委員会・国立感染症研究所等が公表するHACCP制度化・大量調理施設衛生管理マニュアル・ノロウイルス対策等の公開情報を整理することを目的としており、個別施設における衛生管理計画の適法性、食中毒・感染症発生の防止を保証するものではありません。制度・マニュアルの内容は改定により見直されるため、実務適用時は最新の公式情報をご確認いただくとともに、個別判断は所轄の保健所、都道府県担当課、食品衛生の専門家にご相談ください。記載内容は2026-09-13時点の情報に基づきます。
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mitoru編集部の見解
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