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健康診断や人間ドックで「要精密検査」の判定が出たにもかかわらず、実際に医療機関を受診する人の割合には依然として改善の余地があるとされています。厚生労働省が公表する特定健診・特定保健指導の実施状況をみても、指導の対象となった人のうち実際に利用する人の比率は、制度発足以降改善が図られてきたものの、対象者全体からみるとなお一定数が未利用にとどまっているとされます。クリニック側から見れば、精密検査の受診勧奨、会計時の呼び止め声かけ、定期通院のリマインドといった一連の「患者フォロー」の仕組みをどう設計するかが、患者の受診行動だけでなく再診率や経営の安定にも関わってきます。本記事は2026年9月時点で取得した厚生労働省・個人情報保護委員会・消費者庁の公開情報をもとに編集部が整理した内容であり、特定の医療行為や治療方針の指示を含むものではありません。院長・事務長・受付責任者が、受診勧奨の位置づけ、会計時の声かけ、定期通院リマインド(はがき・SMS・自動音声通知)、生活習慣病の未受診対策、治療方針への迷いが生じた患者(AMA)への向き合い方、患者離脱率の算出、受診勧奨マニュアルの作成、受付スタッフ研修、個人情報配慮までを一通り把握できる構成にしています。
この記事の対象読者:受診勧奨・患者フォロー体制を整備したいクリニックの院長・事務長・受付責任者。
この記事でわかること
- 受診勧奨(健診結果・精密検査)の位置づけと基本の考え方
- 会計時の患者呼び止め声かけの伝え方
- 定期通院リマインド(はがき・SMS・自動音声通知)の使い分け
- 生活習慣病の未受診対策と特定健診・特定保健指導との連携
- 治療方針への迷いが生じた患者(AMA)への向き合い方
- 患者離脱率(ドロップアウト率)の算出方法と可視化
- 受診勧奨マニュアルの作成と院内共有の進め方
- 受付スタッフ研修の設計とロールプレイの活用
- はがき・SMS・電話勧奨時の個人情報保護の配慮点
- よくある質問5問
1. 受診勧奨とは——健診結果の精密検査勧奨と患者フォローの位置づけ
受診勧奨とは、健診・検診で「要精密検査」「要治療」等の判定を受けた対象者に対し、実際の受診につなげるための働きかけを指します。厚生労働省が推進するがん検診事業においても、精密検査の受診率向上は主要な評価指標の一つとして位置づけられており、市区町村・保険者だけでなく、検診・診療を担う医療機関側の対応が受診率に影響し得ると考えられています。
1-1. 精密検査未受診が生じる背景
精密検査の案内が届いても受診に至らない背景には、自覚症状がないことによる先送り、仕事や家事との時間調整の難しさ、精密検査そのものへの不安、案内内容が分かりにくいといった要因が重なっているとされます。クリニックが健診結果の説明や精密検査の案内を担う場面では、こうした背景を踏まえた伝え方の工夫が求められます。
1-2. 受診勧奨をクリニック運営に組み込む意義
受診勧奨を個々のスタッフの判断に任せきりにすると、声かけの有無や質にばらつきが生じやすくなります。受診勧奨を運営フローの一部として明文化し、誰が・いつ・どのように声をかけるかを標準化しておくことで、対象者への案内漏れを防ぎやすくなります。あわせて、受診勧奨は患者との信頼関係を築く接点でもあるため、事務的な通知に終始せず、患者の状況に配慮した対応が前提になります。
2. 会計時の患者呼び止め声かけ——伝え方の基本設計
会計時の呼び止め声かけは、診察の場では伝えきれなかった情報を補う機会として位置づけられます。健診結果の説明を担当した医師とは別に、受付・会計スタッフが声をかける場面もあるため、伝える内容と範囲をあらかじめ整理しておくことが重要です。
2-1. 声かけのタイミングと構成要素
会計時の声かけは、患者が会計を終えて退室する直前のタイミングで行われることが一般的です。伝える内容としては、(1)精密検査や次回受診が必要な理由の要点、(2)受診先や紹介状の有無、(3)次回来院の目安、の3点を簡潔に伝える構成が基本になります。医療行為に関わる説明は医師が担う領域であるため、受付・会計スタッフの声かけは「案内・確認」の範囲にとどめ、診断や治療方針の説明に踏み込まないよう役割分担を明確にしておくことが望まれます。
2-2. 押し付けにならない伝え方の工夫
声かけが患者にとって負担に感じられないよう、伝え方には配慮が必要です。以下は、声かけの伝え方を整理した例です。
| 観点 | 配慮した伝え方の例 | 避けたい伝え方の例 |
|---|---|---|
| 説明の姿勢 | 「〇〇の結果について、次回までにご確認いただきたい点があります」と情報提供の姿勢で伝える | 患者の意向を確認せず一方的に予約を確定させる |
| タイミング | 会計待ちの患者がいない、落ち着いたタイミングで声をかける | 混雑時に急かすように早口で伝える |
| 個人情報への配慮 | 周囲に他の患者がいる場合は声量や言葉選びに配慮する | 検査結果の詳細を待合室で大きな声で伝える |
声かけの目的はあくまで受診・通院を検討する材料を提供することであり、患者自身の判断を尊重する姿勢が前提になります。

3. 定期通院リマインドの仕組み化——はがき・SMS・自動音声通知の使い分け
定期通院が必要な患者に対しては、次回来院日が近づいたタイミングでリマインドを送る仕組みを整えることで、通院間隔が空きすぎることを防ぎやすくなります。代表的な手段として、はがき(郵送)、SMS、自動音声通知(IVR架電)の3種類があり、それぞれ特徴が異なります。
| 手段 | 特徴 | 留意点 |
|---|---|---|
| はがき(郵送) | 到達までに数日を要するが、記録として手元に残りやすい | 郵送コストと発送作業の手間がかかる。宛先の住所変更への対応が必要 |
| SMS | スマートフォンへ即時に届き、開封率が比較的高いとされる | 配信には携帯電話番号の取得・同意が前提。文字数制限があるため簡潔な文面が必要 |
| 自動音声通知(IVR架電) | 電話番号があれば導入しやすく、着信時に自動音声で案内を流せる | 着信拒否設定や不在時の再架電ルールを事前に決めておく必要がある |
3-1. はがき(郵送)によるリマインド
はがきは古くから使われてきたリマインド手段で、スマートフォンを持たない高齢患者にも届けやすいという利点があります。一方で、印刷・封入・郵送の手間とコストが発生するため、対象者を絞り込んでから運用するクリニックが少なくありません。
3-2. SMSによるリマインド
SMSは即時性が高く、予約日の前日・数日前といったタイミングで自動配信する仕組みと組み合わせやすい手段です。導入にあたっては、患者から携帯電話番号の登録と通知の同意を得たうえで運用することが前提になります。
3-3. 自動音声通知(IVR架電)
自動音声通知(IVR:Interactive Voice Response)は、あらかじめ用意した音声メッセージを対象患者へ自動架電で届ける仕組みです。電話番号があれば導入のハードルは比較的低い一方、着信のタイミングによっては患者の都合と合わないこともあるため、再架電のルールや折り返し先の案内をあわせて設計しておくことが望まれます。
4. 生活習慣病の未受診対策——特定健診・特定保健指導との連携
4-1. 特定健診・特定保健指導の位置づけ
厚生労働省が実施する特定健康診査・特定保健指導は、糖尿病等の生活習慣病の予防に着目した制度で、健診結果に基づき保健指導の対象となった人への支援が行われています。特定保健指導の利用率は制度導入以降、改善が図られてきたものの、対象者全体からみるとなお一定数が未利用にとどまっているとされ、医療機関側の関わり方も課題の一つとして挙げられています。
4-2. クリニックが担える役割
クリニックは、健診結果を踏まえた保健指導の直接の実施主体になるとは限りませんが、健診結果の説明の場や日常診療の中で、生活習慣病の重症化予防につながる受診・受診継続を促す役割を担うことができます。糖尿病・高血圧・脂質異常症等で通院が必要な患者が自己判断で通院を中断してしまうケースもあるため、次回受診の目安を明確に伝え、通院間隔が空きすぎないようフォローする仕組みが求められます。

5. 治療方針への迷いが生じた患者(AMA)への向き合い方
5-1. AMAとは何か
AMA(Against Medical Advice)とは、医師が提示した治療方針・通院計画に対して、患者自身が同意しきれず、通院や治療を自己判断で中断・変更してしまう状態を指す言葉です。症状の改善が見られないことへの不安、費用負担への懸念、通院の負担感、治療方針への納得感の不足など、要因は患者ごとに異なります。
5-2. 現場での向き合い方の工夫
AMAの傾向がみられる患者に対しては、一方的に通院継続を求めるのではなく、患者が抱える懸念を確認しながら対話を重ねる姿勢が基本になります。受付・会計スタッフの段階でできる対応としては、次の点が挙げられます。
- 患者の言葉の端々にある迷いのサインを見逃さず、必要に応じて医師・看護師へ共有する
- 「次回はいつ頃がよいか」を患者自身のペースで確認し、日程を一方的に押し付けない
- 費用面の不安がうかがえる場合は、制度上の相談窓口(高額療養費制度等の公的窓口)の案内にとどめ、医療費の減免を独自に約束しない
- 通院継続の判断そのものは医師の診察領域であることを踏まえ、スタッフは情報の橋渡し役に徹する
AMAへの対応は、患者の意思決定を尊重しながら通院継続を検討する材料を提供する姿勢が前提であり、治療の強制や診断的な助言をスタッフが行うものではありません。
6. 患者離脱率(ドロップアウト率)の算出と可視化
6-1. 算出方法の考え方
患者離脱率(ドロップアウト率)は、一定期間内に来院が見込まれていた患者のうち、実際に来院しなかった患者の割合を示す指標です。算出方法は医療機関によって定義が異なりますが、代表的な考え方の一つとして、次の式が用いられます。
患者離脱率(%)= 期間内に次回来院予定だったが来院しなかった患者数 ÷ 期間内に次回来院予定だった患者数 × 100
この指標を診療科・疾患別、あるいは初診からの経過月数別に分解して算出すると、どの段階で離脱が生じやすいかを把握しやすくなります。たとえば「初診後3か月以内の離脱率が高い」という傾向が見えれば、初期のフォロー体制を重点的に見直す判断材料になります。
6-2. 可視化と改善サイクルへの活用
算出した離脱率は、月次・四半期単位で推移を記録し、受診勧奨・リマインドの取り組みと合わせて確認することで、施策の効果測定に活用できます。離脱率が高止まりしている診療科やライフステージ(就労世代・高齢層等)が見えてきた場合は、リマインド手段の見直しや声かけ内容の改善につなげる材料になります。数値の増減だけでなく、離脱理由を可能な範囲でヒアリングし、定性的な情報とあわせて振り返る運用が望まれます。
7. 受診勧奨マニュアルの作成と院内共有
7-1. マニュアルに盛り込む項目
受診勧奨の質を特定のスタッフの経験や裁量に依存させないためには、対応内容を文書化したマニュアルの整備が有効です。マニュアルに盛り込む項目として、次のような例が挙げられます。
- 受診勧奨の対象となる判定区分(要精密検査・要治療・要経過観察等)の定義
- 声かけを行う担当者(医師・看護師・受付スタッフ)の役割分担
- 声かけの基本フレーズと避けるべき表現(診断・治療方針の断定を含む発言等)
- リマインド手段(はがき・SMS・自動音声通知)を送るタイミングと対象患者の選定基準
- 個人情報の取り扱いに関する注意事項
- 患者から質問・相談を受けた際のエスカレーション先
7-2. 院内共有・更新の運用
マニュアルは作成して終わりにせず、定期的な見直しと院内での共有が欠かせません。制度改定(診療報酬改定・特定健診の実施要領の変更等)や、実際の運用で気づいた課題を反映し、年に一度程度を目安に内容を更新する体制を整えておくと、形骸化を防ぎやすくなります。
8. 受付スタッフ研修の設計——声かけ品質を属人化させない
8-1. 研修プログラムの組み立て方
受診勧奨や患者呼び止め声かけの質を底上げするには、受付スタッフ向けの研修プログラムを組み立てることが有効です。研修内容としては、マニュアルの読み合わせに加え、実際の会話を想定したロールプレイを組み合わせる方法が一般的です。
8-2. ロールプレイとフィードバック
ロールプレイでは、患者役とスタッフ役に分かれて実際の声かけ場面を再現し、伝え方や言葉選びについてフィードバックし合う機会を設けます。新人スタッフだけでなく、経験のあるスタッフも定期的に参加することで、対応のばらつきを抑えやすくなります。研修の実施記録を残しておくと、個々のスタッフの習熟度を把握する材料にもなります。

9. 個人情報保護への配慮——はがき・SMS・電話勧奨の注意点
9-1. 個人情報保護法上の留意点
患者への受診勧奨・リマインドは、氏名・連絡先・健診結果といった個人情報を取り扱う業務です。厚生労働省が公表する「厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等」では、医療機関が保有する患者情報の利用目的の特定や、本人の同意に基づく適切な取り扱いの重要性が示されています。はがき・SMS・電話といった手段で連絡する場合も、あらかじめ患者に利用目的を説明し、同意を得たうえで運用することが前提になります。
9-2. 実務での配慮事項
- はがきの宛名面に病名や検査項目名を直接記載しない(家族や同居人の目に触れる可能性を考慮する)
- SMSの文面は受診や来院を促す内容にとどめ、検査結果の詳細を記載しない
- 電話での声かけは本人確認を行ったうえで、周囲に会話が聞こえない環境を選ぶ
- 患者データベースへのアクセス権限を、業務上必要な範囲のスタッフに限定する
- 委託先(印刷会社・SMS配信事業者等)を利用する場合は、委託契約における個人情報の取り扱い条件を確認する
個人情報保護委員会が公表する法令・ガイドラインもあわせて確認し、院内の個人情報保護規程との整合性を保つことが望まれます。
10. よくある質問
- Q1. 受診勧奨はどのスタッフが担当すればよいですか?
- A. 判定内容の医学的な説明は医師が担い、次回来院日の案内や事務的な確認は受付・看護スタッフが分担する役割整理が一般的です。誰がどこまで対応するかをマニュアルで明確にしておくと、対応のばらつきを防ぎやすくなります。
- Q2. SMSでのリマインドを導入する際、患者の同意はどのように取得すればよいですか?
- A. 初診時の受付フローや問診票で、SMS配信の可否を確認する項目を設け、同意が得られた患者のみを配信対象とする方法が一般的です。同意の有無は台帳やシステム上で管理し、配信停止の申し出があった場合は速やかに対象から外す運用が求められます。
- Q3. 患者離脱率はどのくらいの頻度で確認すればよいですか?
- A. 月次で推移を確認し、四半期単位で傾向を振り返る運用が一つの目安です。診療科や患者層によって離脱の傾向は異なるため、自院の患者構成に応じて確認頻度を調整することが現実的です。
- Q4. AMAの傾向がある患者に対して、受付スタッフはどこまで対応してよいですか?
- A. 受付・会計スタッフは、患者の迷いのサインを察知して医師・看護師へ共有する橋渡し役までにとどめ、治療方針の変更や継続の可否についての判断は医師の診察領域として扱うことが基本です。
- Q5. 受診勧奨マニュアルはどの程度の頻度で見直すべきですか?
- A. 診療報酬改定や特定健診の実施要領の変更等、制度面の更新があったタイミングに加え、年に一度程度を目安に内容を点検し、実務で気づいた課題を反映する運用が現実的です。
- 免責事項
- 本記事は公開情報をもとに編集部が情報整理を行ったものであり、特定の医療行為・治療方針を推奨するものではありません。受診勧奨・患者フォローの実務対応は、各医療機関の診療方針・個人情報保護規程に基づき、医師・スタッフ間で確認のうえ実施してください。掲載情報は2026-09-06時点の公開情報に基づきますが、関連法令・制度の改正により内容が変わる場合があります。
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mitoru編集部の見解
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