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病院内での携帯電話・スマートフォンの取り扱いは、患者・面会者・職員・医療機器の各観点が交錯する運用テーマです。かつて「院内では電源を切る」ことが原則とされていた時代から、電波環境の整理と医用電気機器(医用テレメータ等)との影響評価が進み、現在ではエリア別・利用者別のルール設計が広く採用される運用に移行しています。加えて、電子カルテのモバイル参照・院内メッセージング・BYOD(私物端末業務利用)・ゲスト向けWi-Fi・情報セキュリティといった、情報基盤側の設計も同時に整理する必要が生じています。
本記事は病院の情報システム部門・医療機器管理部門(ME)・医療安全部門・総務・広報担当を主な読者と想定し、院内携帯電話・スマホ運用ルールに関する基本枠組み、電波環境協議会「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」の考え方、院内Wi-Fi設計、BYOD運用、モバイル端末セキュリティ、医療情報システム安全管理ガイドラインとの整合、患者・面会者向けルール、インシデント対応の考え方を、総務省・厚生労働省・電波環境協議会・独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)・経済産業省などが公開している情報を整理した内容としてまとめています。個別の運用ルール策定、医療機器への電波影響の可否判断、情報セキュリティ基準の適合性判断は、所定の専門人材(医療機器安全管理責任者・情報セキュリティ責任者・電波管理担当者等)と各所管官庁・機器メーカーにご確認ください。
この記事で分かること
- 院内での携帯電話・スマートフォン利用に関する基本枠組みの整理
- 電波と医用電気機器(医用テレメータ・輸液ポンプ等)への影響の考え方
- 電波環境協議会「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」の要点
- エリア別使用ルール(病棟・外来・手術室・ICU・検査室)の設計論点
- 院内Wi-Fi・ネットワーク設計と電波管理担当者の役割
- BYOD(私物端末業務利用)の運用と情報漏えい対策
- モバイル端末セキュリティ(MDM/EMM・多要素認証・端末暗号化)
- 医療情報システムの安全管理に関するガイドラインとの整合
- 患者・面会者向けの掲示・アナウンスの実務論点
- インシデント発生時の初動と再発防止の考え方
1. 院内携帯電話・スマホ運用の全体像
1990年代後半から2000年代前半にかけて、医療機関では医用電気機器への影響懸念から、院内での携帯電話使用を全面的に制限する運用が広く採られていました。その後、通信方式の変化(第2世代から第3世代・第4世代・第5世代への移行)と、医用機器側の電磁両立性(EMC)評価の進展を踏まえ、2014年に電波環境協議会から「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」が公表され、条件付きでの携帯電話利用を前提とした運用へと移行しました(総務省「電波の医療機器等への影響に関する調査」関連資料)。
現在の院内運用は、エリア別(病棟・外来・手術室・ICU・検査室等)、利用者別(患者・面会者・職員・業者)、機能別(通話・データ通信・Wi-Fi・院内メッセージング)に応じた運用ルールを、指針を参照しつつ各医療機関で策定する形が広く採られています。運用ルールは掲示・院内案内・ホームページ・入院案内などを通じて周知することが一般的です。
2. 電波と医用電気機器への影響
携帯電話・スマートフォン等の無線通信は、周波数帯・出力・変調方式によって、周辺の医用電気機器に電磁的な影響を及ぼす可能性が理論上想定されます。総務省が実施してきた電波利用機器の医療機器への影響調査では、通信規格ごとの離隔距離・想定影響の傾向がまとめられており、電波環境協議会の指針に反映されています(総務省「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器等へ及ぼす影響を防止するための指針」関連資料)。
2-1. 医用テレメータ等への影響
医用テレメータ(無線式生体情報モニタ)は、病棟等で心電図・SpO2などのバイタルを無線で送受信する機器で、割り当てられた特定小電力の周波数帯を利用しています。混信や電波環境の変化により、波形の欠落・アラーム遅延などの事象が生じ得るため、医療機器管理部門(ME)による電波環境調査・チャネル管理・アンテナ配置設計が実務論点となります(総務省「医療機関における電波利用推進」関連資料)。
2-2. 植込み型医療機器と携帯電話
ペースメーカ・植込み型除細動器(ICD)等の植込み型医療機器と携帯電話等との離隔距離については、総務省の指針で、通信規格に応じた離隔の目安が示されています。植込み型医療機器を装着する患者・来院者への配慮として、待合室・エレベータ等の混雑エリアでの案内・掲示の運用が広く採られています。指針の内容・数値は改訂されるため、最新版の総務省資料および指針を確認する運用が現実的です。
3. 電波環境協議会指針の要点
電波環境協議会「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」は、医療機関内での携帯電話等の使用ルール策定の考え方を整理した資料で、総務省サイト等でも参照されています。指針では、医療機関の管理者が主体となり、施設内の電波環境調査、エリア別使用ルールの設定、利用者への周知、電波管理担当者の設置などを、施設の実情に応じて実施することが求められています(総務省「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」関連資料)。
3-1. 実施が推奨される事項
- 院内の電波環境の把握(利用状況・電波強度・混信要因の調査)
- エリア別・機能別の使用ルールの設定と院内掲示
- 電波管理担当者(情報部門・ME部門等の兼務も可)の設置
- 職員・患者・面会者向けの説明資材の整備
- 医用テレメータ等のチャネル管理・混信対応の運用手順
- 新規機器・システム導入時の電波影響評価の実施体制
4. エリア別使用ルールの考え方
エリア別の使用ルールは、機器の設置状況・患者の状態・診療行為の内容を踏まえ、医療機関ごとに設計する形が一般的です。以下は多くの医療機関で採用されている運用の目安ですが、実際の設定は各院の電波環境調査・機器構成・診療特性を踏まえて判断されます。
| エリア | 通話 | データ通信 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 病棟廊下・デイルーム | 制限的に許容する例が多い | 許容する例が多い | マナー・音量への配慮を掲示 |
| 病室(多床室) | 制限する例が多い | 許容する例が多い | 同室者への配慮 |
| 病室(個室) | 許容する例が多い | 許容する例が多い | 機器離隔の掲示 |
| 外来待合・受付 | 制限的に許容する例が多い | 許容する例が多い | マナー配慮の掲示 |
| 手術室・ICU・CCU | 関係者以外制限する例が多い | 関係者以外制限する例が多い | 機器影響・清潔管理 |
| 検査室(MRI室等) | 持ち込み禁止の運用が広い | 持ち込み禁止の運用が広い | 強磁場・機器影響 |
掲示物は、ピクトグラム・多言語(英語・中国語・韓国語等)併記・易しい日本語の活用など、患者・面会者に伝わりやすい表現とする配慮が広く採られています。地域住民・国際患者受入の状況に応じた設計が現実的です。
5. 院内Wi-Fi・ネットワーク設計
院内Wi-Fiは、業務系(電子カルテ・PACS・ナースコール連携等)と、患者・面会者向けのゲスト系を、SSID・VLAN・アクセスコントロールで分離する設計が広く採られています。厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」でも、業務ネットワークと外部接続ネットワークの分離・アクセス制御の重要性が整理されています(厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」関連資料)。
5-1. 業務用Wi-Fiの設計論点
業務用Wi-Fiは、電子カルテのモバイル参照・院内メッセージング・生体情報モニタの補助的な情報伝達などに利用され、エリアカバレッジ・ローミング・干渉回避・可用性が設計論点となります。医用テレメータ等の特定小電力機器と周波数帯が異なるものの、機器設置位置・配線経路の整合が求められる場面もあります。無線LAN機器の設定・運用は、情報部門とME部門の連携で進める運用が現実的です。
5-2. ゲスト用Wi-Fiの設計論点
患者・面会者向けのゲストWi-Fiは、業務ネットワークから論理的に分離し、利用規約への同意・帯域制御・フィルタリング・接続ログ管理などを設計します。総務省が公表する「Wi-Fi提供者向けセキュリティ対策の手引き」等では、公衆無線LANの提供に係る留意事項が整理されており、医療機関のゲストWi-Fi設計にも参照されます(総務省「無線LAN情報セキュリティ対策」関連資料)。
6. BYOD運用
職員が私物のスマートフォン・タブレットを業務利用する運用(BYOD:Bring Your Own Device)は、業務端末調達・保守コストの抑制、既存の慣れたデバイスの活用などの利点がある一方で、情報漏えい・端末紛失・私物と業務データの分離といったリスクが伴います。厚生労働省の医療情報システム安全管理ガイドラインでは、モバイル端末の業務利用にあたって、認証・暗号化・遠隔ロック・遠隔消去(リモートワイプ)・アクセスログ管理などの安全管理措置の整備が求められています。
6-1. BYOD規程整備の論点
- 対象業務・対象データの範囲(アクセス可能な情報の限定)
- 認証方式(多要素認証・生体認証・パスコードポリシー)
- MDM/EMM(Mobile Device Management / Enterprise Mobility Management)の導入
- 業務データと私物データの領域分離(コンテナ化・仮想デスクトップ活用等)
- 端末紛失・退職時の遠隔ロック・消去手順
- 私物アプリのインストール制限・OSアップデート要件
- 費用負担(通信費・端末費用)の取り扱い
- 私生活とのバランス(時間外連絡・応答期待の明文化)
7. モバイル端末セキュリティ
モバイル端末セキュリティは、認証・端末暗号化・通信暗号化・アプリ管理・ログ管理・端末紛失時対応の各層で設計します。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)等の公開資料でも、スマートフォン・タブレット端末に関するセキュリティ対策の考え方が整理されています。医療分野では、これに医療情報システム安全管理ガイドラインの要求事項を重ね合わせて整合する運用が広く採られています。
7-1. MDM/EMMの機能例
- 端末インベントリ管理(OS・機種・アプリ・パッチ適用状況)
- ポリシー配布(パスコード要件・暗号化・カメラ制限等)
- アプリ配布・アプリ制限(許可アプリ・禁止アプリの管理)
- 紛失時の遠隔ロック・遠隔消去
- 証明書配布(Wi-Fi・VPN・電子カルテアクセス用)
- コンテナ化(業務領域と私物領域の分離)
- ログ・監査(アクセス履歴・ポリシー違反検知)
8. 医療情報システム安全管理ガイドラインとの整合
厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、医療機関等における情報システムの安全管理に関する体系的な指針で、経営管理編・企画管理編・システム運用編等で構成されています。同ガイドラインでは、モバイル端末利用・外部接続・BYOD・クラウド利用・ネットワーク分離・アクセス制御・監査ログ・BCP等の各領域について、実施が求められる措置が整理されています。院内スマホ運用ルールの策定にあたっては、同ガイドラインの最新版に基づく整合確認が広く行われています(厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」関連資料)。
加えて、経済産業省・総務省が示す「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」も、外部事業者側の遵守事項として位置づけられており、クラウド型のモバイル業務システム・メッセージングサービス・BYOD管理サービス等を利用する場合の選定基準として参照されます(経済産業省・総務省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」関連資料)。
9. 患者・面会者向けのルール
患者・面会者向けのルールは、入院案内・院内掲示・ホームページなどで周知する運用が一般的です。掲示内容は、エリア別の使用可否、通話マナー、動画撮影・音声録音への配慮、ゲストWi-Fiの利用案内、植込み型医療機器を装着する方への案内などを整理します。撮影・録音は、他患者のプライバシー・医療従事者の肖像権・院内の営業秘密に関わる論点となるため、原則制限+許可制の運用を採る医療機関が広く見られます。
SNS投稿等に関する留意事項も、面会者・患者向けの掲示に含める例が増えています。個別の紛争案件は個人情報保護委員会・医療機関の相談窓口・法務担当へ相談する運用が一般的です。
10. インシデント対応
インシデントには、医用テレメータの混信・波形欠落、モバイル端末の紛失・盗難、業務情報の誤送信、SNS上での院内情報流出などが含まれます。初動対応の手順・報告経路・関係者への通知・記録保存・再発防止策の立案・水平展開までを、医療安全部門・情報セキュリティ委員会・医療機器安全管理責任者の連携で整理します。個人情報漏えい事案は、個人情報保護委員会への報告・本人通知の要否判断が別途論点となります(個人情報保護委員会関連資料)。
11. よくある質問(FAQ)
- Q1. 病室での携帯電話使用は認めてよいですか?
- A. 電波環境協議会「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」では、医療機関ごとに電波環境調査を踏まえたエリア別使用ルールを設計することが求められています。多床室での通話は同室者への配慮から制限し、データ通信は許容する運用を採る医療機関が広く見られます。個別の判断は自院の電波環境と機器構成を踏まえて設計してください。
- Q2. 医用テレメータへの混信は何を確認すれば防げますか?
- A. 医用テレメータは特定小電力の周波数帯を利用し、施設内の機器台数・チャネル管理・アンテナ配置・遮蔽物の影響を受けます。総務省の医療機関における電波利用推進関連資料や、機器メーカーの設置ガイドを踏まえ、ME部門・情報部門で電波環境調査・チャネル計画・巡回点検を実施する運用が広く採られています。
- Q3. BYODで職員のスマホから電子カルテを参照させてよいですか?
- A. 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の要求事項(認証・暗号化・アクセス制御・監査ログ・遠隔消去等)を満たす体制と、院内のBYOD規程・情報セキュリティポリシー・電子カルテベンダー側の対応可否を整えたうえで、経営層・医療安全委員会・情報セキュリティ委員会の判断で導入する運用が一般的です。個別判断は自院の体制と法令適合状況を確認してください。
- Q4. 面会者の動画撮影はどう扱えばよいですか?
- A. 他患者・医療従事者の映り込み、個人情報保護、院内の営業秘密に関わるため、原則制限+許可制の運用を採る医療機関が広く見られます。院内掲示・ホームページ・入院案内での周知と、SNS投稿時の留意事項の案内を組み合わせる運用が現実的です。
- Q5. ゲストWi-Fiを提供するときに気を付けることは?
- A. 業務ネットワークとの論理的分離、利用規約への同意プロセス、フィルタリング、接続ログ管理、通信暗号化の設定などが基本となります。総務省の無線LAN情報セキュリティ対策関連資料や公衆無線LAN提供者向け手引きを参照し、自院の運用に落とし込む形が広く採られています。
12. 関連内部リンク・次のステップ
院内モバイル運用は、情報セキュリティ・BCP・医療機器管理・患者サービスなど複数の運営テーマと接続します。自院の現状に応じて、以下の関連記事も参考にしながら、規程整備と運用改善を進めることが有用です。
- 病院情報セキュリティガイド — 情報基盤とネットワーク管理
- 病院BCP・災害対策ガイド — 事業継続と非常時運用
- 病院CE・臨床工学業務ガイド — 医療機器管理の実務
- 病院ファシリティマネジメントガイド — 電源・通信基盤と設備管理
13. 出典・参考資料
- 総務省「電波の医療機器等への影響に関する調査」関連ページ https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/medical/chosa/ (取得日:2026-08-25)
- 総務省「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器等へ及ぼす影響を防止するための指針」 https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/medical/chis/ (取得日:2026-08-25)
- 総務省「医療機関における電波利用推進」関連資料 https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/medical/eiryo/ (取得日:2026-08-25)
- 総務省「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」関連資料 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu09_02000265.html (取得日:2026-08-25)
- 総務省「無線LAN情報セキュリティ対策」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/wi-fi/ (取得日:2026-08-25)
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00002.html (取得日:2026-08-25)
- 経済産業省・総務省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/iryou/johoka/cloud_guideline.html (取得日:2026-08-25)
- 個人情報保護委員会「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_sector/ (取得日:2026-08-25)
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医療機器の安全性情報」 https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/medical-devices/0001.html (取得日:2026-08-25)
【免責事項】本記事は総務省・厚生労働省・経済産業省・電波環境協議会・PMDA・個人情報保護委員会等の公開情報を整理することを目的としており、個別の院内運用ルール策定、医療機器への電波影響の可否判断、情報セキュリティ基準の適合性判断、BYODや情報システム導入の妥当性判断を保証するものではありません。関係法令・告示・通知・指針・ガイドラインは改正・改訂により見直されるため、個別判断は所定の専門人材(医療機器安全管理責任者・情報セキュリティ責任者・電波管理担当者・法務担当等)と各所管官庁・機器メーカーにご確認ください。本記事の情報利用によって生じた損害について、mitoru編集部は責任を負いません。
最終更新日:2026年8月25日|編集方針
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mitoru編集部の見解
医療法人の経営において、会計の透明性は理事会・社員総会・行政指導いずれの局面でも問われます。mitoru編集部は、形式的な帳簿整備でなく、月次の経営会議で実数値を共有する運用設計を推奨します。クラウド会計はあくまで道具で、それを活かす運用が成果を分けます。